第124話 北の山
西側と隔てる石の壁の切れ目を南方に見つけることができなかった俺たちは、今度は北方を目指して出発した。
キメラヴィルの西門を出てしばらく行ってから、大空に向かう俺たち。
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
まずは、川が見えるところまで西に向かった。
草原を越え、森に差し掛かるあたりで川が見えてきた。壁がしっかり見えるあたりで速度を落とし、北向きに進路を変更した。
(バサバサッ!)
(スーッ)
北の方はあきらかに山がある。もちろん川は山まで続いていそうだ。山から川が流れてくるのが普通だからだ。
きっと山まで行くことになるだろう。そう思いながらも壁の様子を注視しながら飛んでいくことにした。
壁は相変わらずずっと続いている。しばらく飛んでいて、山のふもとまで見通せるようになっても、そこまで続いているようだった。
だが、気付いたこともあった。
「モカ。山の途中を見て」
「あれよね。私も気になってるの」
「クルル。見える?」
「見えるプイ。なんか建物みたいプイ」
「やっぱりそうだよな」
おそらくあそこが壁を越えられるところに違いない。
「どうする? あそこまで一気に飛んでも降りられるかな?」
「川のそばまで行くと危ないから離れたところに降りて、そこから歩いたほうがいいわ」
「そうだな。木が多いから、最後は翼をしまって風だけで降りればいいかな?」
「そうね」
着地場所を探しながら山の中に見える建物を目指した。
◇
建物らしきところから少し離れたところに木が倒れているところを見つけたため、そこに着地することにした。
(ビューッ!)
(スタッ)
いつもと違って、最後は風の力でなんとか維持しながら降りた。
「建物はあっちの方向よ」
「そうだな」
「建物というより、遺跡にも見えたわ。石でできているように見えたわ」
「そうプイ」
「とりあえず行って見てみるノ」
「そうしよう」
降りたところは木が倒れていたのだが、どうやらこれは勝手に倒れたのではなく、何らかの衝撃で倒されたようだ。たぶん、キメラとスミロ人が戦ったのではないだろうか。
「この木の倒れ方、きっとキメラとスミロ人が戦ったんだよな」
「かもしれないわね。キメラ同士かもしれないけど」
「たしかに、そうかもしれないな。気を付けて進もう」
降りた地点から建物に向かう方向には獣道のような以前何かが通った跡があった。その道に沿って進んだ。
しばらく進むと、建物が見えてきた。
橋のように川のこちら側から向こう側にまたがって大きな建物が建てられている。建物の向こう岸側の両サイドには石壁がつながっている。
おそらく、ここを通れば、石壁から攻撃されないのだろう。見た感じ、建物はすべて石でできている。橋としての機能もあるようで、かなり丈夫に作られていそうだ。
「石でできているから、上を歩いても問題ないよな」
「そうね。変に飛んでいくより安全だと思うわ」
「入り口はあれプイよね?」
クルルが指差す方向にあったのはぽっかりとあいた穴というか、扉があったのかもしれない四角い穴だ。
「そうね。あれしかなさそうね」
(ピクッ…… ピクッ……)
「特に生き物の気配はないノ」
「ありがとう。それにしても大きいよな。中には何か仕掛けとかがあるかもしれないから気を付けて入ろう」
俺たちは警戒しつつ、橋と建物が一体化したものに入った。
◇
建物の壁にはところどころ窓のような穴があいており、光が入ってくるようになっていた。そのため、光のコネクトを使わなくても進むことができそうだ。
横幅も非常に広く、天井までの高さもそれなりにある気はする。
ただ、1つの空間が橋の向こう側まであるわけではなく、いくつかの部屋に区切られているようだ。
最初に入った部屋は横に広く、特に何も置いていないただ広い空間だった。正面の壁には、左右にそれぞれ次の空間につながる穴があいていた。もともとは扉があったのだろうか。ただ、残骸などは落ちてはいない。
「どっちにいく?」
「どうしようかしら。とりあえず両方のぞいてみましょう」
まずは右側からのぞいてみた。
穴の先は部屋になっていて、直進したところにまた穴があいている。ただ、その穴の向こうにはすぐ壁が見えており、どうやら通路のようだ。
右側の部屋に入ってみると、特にめぼしいものは落ちてはいないが、中央側の壁に沿って、石でできた机が3つほど置いてあった。
「机があるということは何かの作業場かな? でも椅子がないから違うか」
「そうね。何かを置いておく場所かもしれないわ」
「この建物自体、何のためにあるプイ?」
「まだ分からないわ……」
「全然生き物の気配とかしないノ」
「たしかに静かだな」
「奥の通路をのぞいたら隣の部屋に行ってみましょう」
「そうだな」
奥の通路をのぞくと、どうやら横に通路が走っていて、もう片方の部屋からもこの通路に出られるようだ。
通路の真ん中には川の反対側に通じそうな扉のようなものがある。
「なるほど…… どうしようかしら。とりあえず、もとに戻って入り口のほうから行きましょう。扉の前に行くのはあとにしたいわ」
「そうだな。何が起こるか分からないもんな」
元の大きな部屋に戻り、今度は左側の部屋に入った。
今度は真ん中側の壁には横長の机が1つだけあった。やはり椅子はない。
「長机か。やっぱり何か置くためのものかもしれないな」
「うーん……」
「ねえ、ちょっと不思議ナノ」
「ん? どうしたのかしら?」
「この建物、外から見た感じより、中が狭いというか、天井が低すぎると思うノ」
「ん? あっ!」
モカが何か気付いたようだ。
たしかに言われてみると外から見たイメージよりは天井が低いかもしれない。
「ありがとう。プリン。この建物には2階があるのよ」
「えっ? でも階段はないよ?」
「あそこよ」
モカが指を指した先は部屋の天井、それも部屋の1番角だ。
よく見ると、人間が1人通れるくらいの穴があいている。まるで単に1個石が外れてしまったかのようになっており、意図的にあけた感じがしないようになっている。
「ヤマ。うーんと、武器屋で買ったロングソード出してくれない?」
「ん? いいよ」
(スッ)
「どうぞ」
「ありがとう。さすがにあそこにいきなり頭を突っ込む勇気はないのよ」
「ああ、なるほど」
(ビューッ)
モカは飛び上がり、穴の下まで行くと、ロングソードを穴に突っ込んでいる。ロングソードの反射を使って中をのぞいているようだ。
(ヒューッ…… スタッ)
「とりあえず大丈夫そうよ。上には普通に部屋があって何か置いてあるわ。生き物の気配はなさそうよ」
「じゃあ、みんなで行くか」
「そうしましょう」
(ビューッ)
(スタッ)
俺たちは4人順番に上の階に上がった。
おそらく川幅と同じだけこの部屋はありそうだ。つまり、2階はこの1部屋のようだ。そして、部屋の奥のほう、川の向こう岸のそばの真ん中あたりになにやら置いてある。そばに行き観察してみることにした。
「これは?」
「触らないほうがいいわね。たぶん遺物よ」
よく見るとユリの模様が付いている。
「たしかに護りのアクセサリーを使えば動作させられそうだよな」
「違うわ。今、もう動いているのよ」
「えっ?」
「たぶん、この遺物が石壁の上のあの出っ張りを有効化しているのよ。だから、触って止めてしまったら、キメラやスミロ人が行き来出来てしまうような気がするわ」
「なるほど。そうか、たしかに何かあったときにはあれを無効化しないと危なくて処置できないもんな」
「そうなのよ。どこかに制御装置があるはずとは思っていたのよ」
「たしかにここなら適切な場所かもしれないな」
「ちょっとこの部屋を1周歩いてみましょう。たぶん、上れるのはさっきの穴からだけだと思うわ。あそこは風のコネクトが使えないと上れないの。だからスミロ人には上れないわ」
歩きながら話を続ける。
「なるほどな。スミロ人は大きいからそもそも穴を通れなさそうだけどな」
「そうかもしれないわね」
「でも、万一でも上れないように、この建物はこんなに大きくて、しかも石でできているのか」
「たぶんね。壊れたら困るし、上れないようにツルツルしているのよ。あの高さならいくらなんでもジャンプじゃ無理よ」
「それにこの階には小さな空気穴くらいしかないよな。光と空気は入ってくるけど、あとは無理だから、外から入るのも無理だな」
「そうね。しかもよく見ると穴は少し下向きにあいているわ。雨が入らないようになっているんだわ」
「へえ、賢い設計だな。それで、なんていうか少し幻想的な部屋に見えるのか。光が上に向かうから」
「きれいプイ」
「そうナノ」
「うふふっ、そうね」
◇
そのあと、部屋をぐるっと1周したが、上れるのはあの穴1箇所だった。遺物以外に他に何も置いていなかった。
「この建物の主な目的のうちの1つがあの遺物ということね」
「もう1つが、川のこっちとあっちをつなぐ役目ということかな」
「たぶんね。さっき見た扉がどうなっているか次第ね」
「行ってみようか」
「そうね」
穴から下に戻ることにした。
(ヒューッ…… スタッ)
みんな戻ったところで、奥の通路に進む。
通路の真ん中には扉のようなものがあった。
だが、押しても開かない。引くにしてもつかむところがない。スライドさせようとしても動かない。
「うーん、どうしたらいいんだろうね」
「よく調べるしかないわね」
モカは周りをよく見ている。だが、石でできた壁しかない。扉も石でできているように思える。単純に重いだけかもしれないが。
「うーん。分からないわね。ユリの模様もないわね」
「そうか。やっぱりこれかな?」
ベルから託された首輪を出した。
「そうね。腕輪か首輪かあたりを試してみるしかないわね」
首輪を扉に触れてみた。
「ん? 光った?」
(カチッ)
どうやらあいたようだ!
扉を押してみると簡単に開いた。
「ちょっと待って。1回閉じて」
「ん? いいよ」
(バタン…… カチッ)
自動で閉まった。
「次は腕輪で試していいかしら?」
「ん? やってみるね」
「お願い」
今度は腕輪を近づけた。
(カチッ)
「あっ、腕輪でもいけるみたい!」
「じゃあ、みんなで行きましょう」
今度はみんなで扉を通過した。
「どうして腕輪でいけると思ったの?」
「鉱石よ。たぶん同じだと思ったの。それに、首輪じゃないとダメとなるとちょっと困るなって」
「?」
「その首輪はもともとベルのものよ。スミロ人の村に行ったら返してほしいと言われる可能性も高いわ。そのとき、出られなくなると困るじゃない」
「なるほどな」
「でも、ヤマ魔法があるから帰れるプイ」
「あ、そうだったわね」
「でも、戻ってきたら2度と行けなくなる可能性もあったから、腕輪を試したのは良かったと思うノ」
「プリンの言うとおりだな。腕輪で通れるなら問題無いさ」
「そうね」
少なくとも行き来の障害がないことは間違いないから大丈夫だろう。
あらためてこちらの様子を見渡した。と言っても、ここは横長の通路だ。両サイドに出口があった。
とりあえず右側のほうに向かった。出口をのぞくと、その先は大きな部屋だった。もう片方から出ても同じところに出るようだ。
「あっ、あれは……」
「スミロの骨格標本ね……」
丸い石の台座の上にスミロの骨格標本が飾られていた。
特に説明書きも何もない。こちら側はスミロのための地域ということだろうか? スミロ人じゃなくてスミロなのは不思議だが。
「この骨格標本の意味は正確には分からないわね。テンの思いを伝えるものなのか、スミロ人にとって大事なものなのか」
「そうだよな。ひょっとしたらその両方かもしれないよな」
「そうかもしれないわね」
「あそか、出口プイ」
「そうだと思うノ」
(ピクッ…… ピクッ……)
「そばには生き物はいないノ」
「ありがとう。じゃあ、出てみるか」
「そうしましょう」
この部屋の出口を出ると、そこはもう外だった。
ただし、広くて長い階段が続いていた。
「なるほどね。石壁まで距離を保てるところまで階段があるのね」
モカが言うように、階段を下りきると、石壁からはそれなりに離れたところに到達した。
こちら側から見ても石壁は文字通り壁という感じで、非常に高さがあった。モカも石壁のほうを見たり、キョロキョロしていた。周りの様子を観察しているのだろう。
壁のこちら側が見えるということは、これでついに、俺たちはスミロ人たちがいるはずの領域に入ることに成功したのだった。




