第123話 隔てるもの
周りにキメラがいないか慎重に確認しつつ、時々風による高速移動を交えつつ西に進んだ。
しばらく進むと、プリンが立ち止まった。
(ピクッ…… ピクッ……)
俺たちは小声で確認する。
「キメラ?」
「違うノ。またあの音ナノ。あと、川の音が聞こえるノ」
「川までもう少しということね。慎重に行きましょう」
少し行くと、俺たちにも川の音が聞こえてきた。
川は思っていた以上に大きかった。そして、なにより目を引くものがあった。
「太い川だな。それに向こう岸にあるアレ……」
「そうね。どう見ても石で作った壁ね」
「すごいノ」
「高いし、川沿いにずっと続いているプイ」
高さが軽く10mはある石壁が川の向こう岸にずっと続いていた。
川の幅を考慮すると、使われている1個1個の石はかなりの大きさだ。作る労力は相当なものだったはずだ。
「すごいわね。これがスミロ人たちがいる領域とこちらを隔てるものだったのね」
「そうだな。でも、スミロ人なら一部くらいは壊せるんじゃない?」
「うーん…… 壁の厚さがどのくらいか次第だけど。乗り越えるのは…… 風を使えなければ上に上るのは難しい高さかもしれないわね」
「あれ何プイ?」
クルルが指を差したのは壁の上にところどころある出っ張りだ。たしかになんだろうか。
「何だろうな……」
「分からないわね」
(ピクッ!)
「何か来たノ!」
俺たちは木の陰に身を隠した。どうやら、ワシイノのようだ。こちらから川を渡って向こうの壁を越えようとしている。
次の瞬間――
(ビュン! ビュン!)
(キィッ!)
先ほどの出っ張りから何かがすさまじい勢いで飛び出していった。見たところ、岩の弾丸だ。ワシイノは突然の攻撃に驚き、逃げて行った。
「あれは、迎撃装置だよな」
「そうね。岩のコネクトを使う遺物なのよ。射程もかなり広いのね。少なくとも出っ張りの間隔の半分以上は余裕であるはずよ」
「俺たちも飛んでいったら撃たれるよな」
「そのはずだわ。思い切り高く飛んで、ギリギリ回避できるかどうかね。正確な射程は分からないから、できるだけ上は通りたくないわね……」
たしかに、あれに撃ち落とされたらシャレにならなさそうだ。
「あれの音がプリンが聞こえた音だったんだね?」
「そうナノ! まさかあんなものとは思わなかったノ」
「どうする? これじゃあ簡単には西に渡れないな」
「そうね。逆に西からも簡単には渡れないわ」
「あ…… そういうことか」
「そうなのよ。あれをかいくぐってでもこっちに来たいと思わないと来れないわ」
「なるほどな。まあ、俺たちならよけられるとは思うけど、どこまであれの能力があるか分からないから怖いよな」
「うーん……」
モカが考えている。
「……1度森の外に戻りましょう。1万年も隔てるのに成功している壁よ。下手に近づいたり、壊したりしないほうがいいわ。ベルがこっちに来たり、ベルのことを探していたスミロ人も森まで来ていたなら、どこかに切れ目があるはずよ」
「なるほど!」
「高く飛んで、切れ目を探しましょう」
「「分かったプイ(ノ)」」
俺たちは一旦引き返すことにした。
◇
行きと同様、できるだけ戦わずに進んだ。
モカのおかげだと思うが、ちゃんと巣穴のところに戻れたため、せっかくだからここで少し早いキャンプをしよう。食事は巣穴の外のほうが都合がいいからだ。
俺たちは食事をしながら話をする。
「まさかあんなもので隔てられていたなんてな……」
「そうね。さすがに想像してなかったわ」
「石壁自体はすごい時間と労力をかければできるけど、あの遺物はスミロ人には作れないよな?」
「そうだと思うわ。あれをマリの施設のところの研究所で作っていたのよ」
「なるほど。どのくらいの数があるか分からないけど、かなりありそうだもんな。テンとマリが作って、穏やかなスミロ人に徐々に渡していったんだろうな」
「そうだと思うわ。それも使いつつ、石壁をスミロ人たちが作って、こちら側を護ったのよ」
「すごいことだな……」
とんでもなく長い期間動作する遺物も本当にすごいが、それよりもすごい事実にクルルとプリンは気付いたようだ。
「私たち、知らない間にスミロ人に護られていたプイね?」
「私もそう思うノ」
「そうなんでしょうね…… まさかこんなことになっているなんて想像できないわよ」
「それなのに、東側にそれをすっかり忘れられていたらスミロ人も悲しくなりそうだな」
「そうね。やっぱり交流がなさすぎるのも問題なのよ」
「1万年も経ったのがテンたちの最大の誤算だろうな」
「そうだと思うわ。100年や200年ならまだ伝わっていたでしょうけど、さすがに1万年じゃ無理よね」
「テンたちが作った護り人の仕組みが優秀過ぎたんだな……」
「皮肉なものね……」
スミロ人やベルの気持ちを想像し、少し複雑な気持ちになりつつ、俺たちは昨日作った巣穴でゆっくりと休んだ。
◇
翌朝、起きたときに不審な音は聞こえなかった。昨日はたまたまだったようだ。
巣穴の外に出て、森の外に向けて出発した。
今日も早足作戦だが、周囲には常に気を付けて移動した。特にスミロ人がいた形跡は大事だからだ。
「ここまで歩いてきて、まだ1度もスミロ人が戦ったらしき跡はないよな?」
「見てないわね。普段は来ないから傷は付かないのよ。ベルを探しに来たスミロ人だけど、たぶん四天王の1人なんでしょうから、キメラに襲われても一瞬で倒せただろうし、跡が残らなかったのよ」
「ん? どうして四天王の1人だと思うの?」
「えっ? だって村長は普通来ないでしょ?」
「まあ、そりゃ……」
「となると、ベルを連れ戻せる力があるのは四天王だけじゃない?」
「なるほど、そう言われてみるとそうか」
「四天王もラグさんを助けるほど優しいんだな」
「そうよね。基本的に攻撃してこない相手には寛容なんじゃないかしら」
「なんとなくそんな感じかもな」
スミロ人についてあれこれ推測しながら、森を抜けた。
森を歩くとどうしても時間がかかり、夕方に近くなってしまったため、石壁確認は明日にして、キャンプをすることにした。
◇
翌日、石壁確認のために大空に出発することにした。
「じゃあ、今日は石壁が切れているところを探しましょう。少しだけ高いところをゆっくり飛ぶことと、川に近づかないことが大事よ」
「南に行く? 北に行く?」
「どっちにしようかしらね。とりあえず、開けている南かしら?」
「分かった。じゃあ、行こう」
「「行くプイ(ノ)」」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
まずは少し高く飛び上がり、川が見える位置まで近づいた。
飛び上がって比較的すぐに分かったのは、川の向こうもまだ森が続いているということだ。つまり、スミロ人側から川に来るときも森に入らないといけないのだ。
「川の向こうも森が広がっているんだな」
「そうね。かろうじて森の端が見えるわね。もう少し高く飛んで向こうに何か無いか確認してみる?」
「そうだな。壁を見るには今くらいじゃないと辛いから、遠くを見たら高度を下げよう」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
試しに高度を高くしてみた。
一気に遠くが見える。森の向こうに何かありそうだ。
「森の向こうに草原か何かあって、その先になんかあるよな?」
「そうね。たぶんあれがスミロ人の村じゃないかしら?」
「たしかに村に見えるプイ!」
「クルルがそういうなら間違いなさそうだな。じゃあ、あそこが目的地なわけか」
「そうなるわね」
南のほうを見るとそちらにも開けた場所が続いている。その向こうはまた森が続いているようだ。
「南のほうにもなんかありそうだな」
「そうね。村だけがあるわけじゃないかもしれないわね。とりあえず向こう側に渡れる場所を見つけなきゃね。高度を下げましょう」
(ヒューッ)
(バサバサッ)
(スーッ)
元の高度に戻って、壁の様子を見ながらゆっくり南下することにした。
◇
そのあと、ほぼ一日飛んでいたが、森はずっと続き、壁もずっと続いていた。
東側には山が迫ってきていたが、森は山の脇を突き抜け、さらに南側まで続いているようだ。
森や川が長く続くのは自然のすごさとして、壁も続いているのに驚いた。いくらゆっくりと飛んだとは言え、それなりの距離を移動したはずだ。もちろんG世界には万里の長城があるくらいだから、このくらい十分にあり得るのだろうが……
「森は川はともかく、壁がめちゃくちゃ長いな……」
「そうね…… 1回下りて、山の手前の平地で今日は休みましょう」
「そうだな」
(スゥーッ)
(スタッ)
まさか飛び続けても壁の端が見えないとは思わず、驚きの1日だった。俺たちみたいに飛んでも見つけられないのだから、知らずに森の中を歩いて見つけるのはほぼ不可能と言って良さそうだ。
「なあ、モカ。これだけ長い壁ということは、通れるところを知らないと偶然にはたどり着かないよな?」
「私たち以外には無理ね。スミロ人には何かしら伝わっているのよ」
「だよな。だから、ベルも、ベルを探しにきたスミロ人もこっちに来れたんだよな」
「ええ、あと、たぶんだけど、それを知っているのはスミロ人の中でも限られた人だけじゃないかしら?」
「こっちに来てしまう可能性を下げるために?」
「そうよ」
「そうかもしれないな」
「仮に村長と四天王だけが知っていて、村にベル以外の4人がいたら、他のスミロ人はみんな西側にいると言い切れるんじゃないかしら?」
「そういうことか。ありそうな話だな」
ベルを探していたスミロ人やベルがどうやって来たのか、と想像していてふと思う。
「なあ、もしかして、首輪が鍵になっているとかないかな?」
「首輪? ベルの?」
「そう」
「うーん。あるかもしれないけど、腕輪みたいに細胞ではできていないみたいよ。そこまでの機能はないかもしれないわ」
「そうか。まあ、通れる場所を見つけたら分かるか」
「そうね。なんとなく、南じゃなくて北だったのかな、って今は思うけど、せっかくだから、明日はもっと南に行きましょう」
「そうだな」
壁がどこまで続いているのか、というかどこまで作ったのかその労力に驚きつつ、俺たちは休むことにした。
◇
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
翌日もまた、石壁の切れ目を探しに出発した。
だが、まだまだずっと先まで森と川が続いている。
一方で、川の向こう側は少し様子が変わってきた。
「川の向こう、森の先にあるのって、湖だよな?」
「あれのこと?」
「そう」
「たしかに湖に見えるわね。湖があるということは……」
「だよな」
つまり、あの湖のそばでスミロ人は強くなっているのだろう。
きっと洞窟があるに違いない。テンたちが作ったのか、テンたちから聞いてスミロ人たちが掘ったかはともかく、そういう場所があっても不思議じゃない。
「なあ、1回高く上がって、この先がどうなっているか見ない?」
「いいわね」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
遠くまで見えてきた。
南側はどうやら海がありそうだ。そして、壁は海までつながっていそうだ。海の上を飛んで回り込めば西側に行けそうだ。そんなことを思っていたらモカが違うほうを見ながら言う。
「やっぱり南側からは行けないわね」
「えっ、海の上から回り込めば行けるんじゃない?」
「ダメよ。あそこみて」
モカが指差したのは海よりも手前、ちょうど湖の南から出ている川が北から続いている川に合流するあたりだ。
「あ…… まさか湖の南岸にも壁が続いている?」
「そうなのよ…… 意地でもあっちに行かせないつもりよ」
「諦めて北に行く?」
「そうしましょう。ここまで来たら1回キメラヴィルに戻ってもたいして変わらないわね。移動速度を上げて、一気にキメラヴィル戻りましょう」
「分かった」
(バサバサッ!)
(スーッ)
北に方向転換し、一気に速度も上げた。地面をしっかり見る必要もないためだ。
◇
飛行速度を上げたおかげで、夕方直前にはキメラヴィルが見えてきた。
(スゥーッ)
(スタッ)
地面に降り立ったあと、暗くなる前に家に着けるよう、急いで移動した。そのおかげでなんとか暗くなる寸前に家に着くことができた。
モミジさんには少し驚かれたが、寄り道しただけと説明したら納得してくれた。
例によって、モカは長風呂を満喫していた。このために寄りたかったのかもしれない。




