第122話 西の森
次の日の朝、俺たちはキメラヴィルを出発した。
スミロ人の村は西の森の川の向こうということしか分かっていない。とりあえず、キメラヴィルの西門から出て、まわりを見てみることから始めた。
「モカ、空から見るのはやらないノ?」
「もう少ししたらそうすると思うけど、あんまり高いところだと細かいことは分からないし、森の中がどうなっているか分からないじゃない?」
「変に飛んだら向こうに見つけられる可能性も高まるか……」
「そうね。飛んでる私たちを敵として認識するかは分からないけど」
「なるほどナノ」
「あとは、単純に興味かしら。長年、森と川だけで隔てられるものなのか、掟とは何なのか、考えてみたいのよね」
「掟か…… テンの時代から引き継がれているものと俺は思ってたけど」
「それはそうだと思うわ。だって、『追い込まれたテンたちのために、近縁の少し穏やかなスミロ人たちは自らを犠牲にして、凶悪なスミロ人のもとに行った』って教えてもらったじゃない。だから、そのことに関係した何かだと思うわ」
「なるほど。であれば、テンの気持ちがスミロ人には今でも伝わっている可能性は高そうだよな」
「ええ、ベルの言葉を考えてもそれは間違いないわね」
「あと、ラグさんから聞いた話のとおりだとすると、森に着くまではスミロ人にはたぶん会わないよな?」
「そうね。じゃあ、森までは低く飛んで行きましょうか」
「そうしよう」
「「分かったプイ(ノ)」」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
俺たちは道なりに低空飛行することにした。低空と言っても数10mはあるから、飛ぶキメラ以外から襲われる可能性はほぼなさそうだ。
◇
しばらく飛ぶと森が見えてきた。
歩けば2日くらいの距離だろうか。ただ、俺たちは飛んできたからまだ昼になるかならないかくらいだ。
森は北にも南にも広がっている。どこまで続いているかは分からない。それくらい広大な森だ。
(スゥーッ)
(スタッ)
「思っていたより広い森ね」
「そうだな。モルジクがある森よりも広いかな?」
「奥行きは分からないけど、ここから見た横幅は相当広そうね」
「たぶん川に沿ってずっと森があるプイ」
「そうだよな。モルジクのそばもそうだもんな」
「そうプイ」
森の前にたどり着いた俺たちはあたりを見ながら話をする。
「この先にはラグさんを襲ったキメラもいるノ。どんなキメラか分からないノ」
「どんなキメラか聞くの忘れたわね。思い出させるのも良くないから、しょうがないけど。油断せずに行きましょう」
「プリン、クルル。周りの音やにおいで異変があったらすぐに教えて」
「「分かったプイ(ノ)」」
いよいよ俺たちは森の中に入ることにした。
森の中には特に道という道はない。ただ、一部獣道のように、何かが通った跡がたまにある程度だ。
(ピクッ……)
「ちょっと待ってほしいノ……」
プリンが小声で言った。
俺たちも小声で応じる。
「ん? どうした? キメラ?」
「分からないノ。でも、遠くの高いところから音が聞こえた気がするノ」
「コネクトとかかしら?」
「それよりは石か何かを投げたような、風を切る音ナノ」
「なるほど…… やっぱり飛んでいかなくて正解だったようね……」
「?」
「とにかく、気を付けて進みましょう」
「そうしよう」
「「分かったプイ(ノ)」」
(ピクッ! ピクッ!)
「今度はキメラだと思うノ!」
「私もそう思うプイ! たぶんクマザルとかナノ」
俺たちは構えた。たしかに何かが近づいてくる気配がする。
(バキッ)
木の枝を踏み折る音とともにキメラの姿が見えた。
「クマザルにしては大きくないか?」
「そうよね。クマゴリって感じよね」
「ゴリ、プイ?」
「ゴリラっていう大きなサルの仲間がいるの」
「なるほどナノ」
「こっちをにらんでるノ。攻撃してくると思うノ」
「様子を見て、攻撃してきたら倒しましょう」
「そうだな」
少しこちらをにらんで様子を見たあと、クマゴリは突っ込んできた。
「しかたない。倒そう!」
(ドドドッ!)
(サッサッ)
クマゴリは走りながら岩の弾丸を放ってきた。岩使いのようだ。俺たちは軽くかわした。
(ピカーンッ!)
(ウホッ!)
(ヒュヒュッ! ヒュヒュッ! ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
プリンの居合抜きがさく裂したのと同時にクルルが叫ぶ。
「こっちにもいるプイ!」
「分かった。こっちは俺とクルルで」
「分かったプイ!」
(ザバッ)
(ウホッ?)
(ビリビリビリビリッ!)
(ヒュッ! ズバッ! ヒュッ! ズバッ!)
(……ドサッ)
プリンほどかっこよくは決まらないが、十分に倒せた。どちらも戦いが終わり、4人でまた集まった。
「珍しく2匹同時だったわね」
「そうだな」
「親子じゃなさそうプイ」
「夫婦ナノ?」
「大人っぽいからそうかもしれないわね。できるだけキメラを倒さずに行きたいけど、森にはたくさんキメラがいそうね」
(ピクッ…… ピクッ……)
(くんくん…… くんくん……)
「たしかにキメラはたくさんいそうナノ」
「でも、私たちのそばには今はあまりいないプイ」
「そうナノ。少しだけそばにいる感じナノ」
「ありがとう。もう少し戦いはありそうだな」
「そうね。とりあえずまっすぐ行って、川が見えるところまで行きたいわ」
「そうだな」
俺たちはどんどん森の中を進んでいく。森は奥行きもありそうだ。
「なあ、モカ。森の中でキャンプする? それとも、明るいうちに戻る?」
「うーん。迷うわね。今のところ、別に森の中でキャンプしても問題なさそうだけど」
「まあ、そうか。いざとなれば飛んで帰ったり、レイシュトまで移動すればいいか」
「できるだけ避けたいけどね」
とりあえずまだ森のことがよく分からないので、ひたすら進むことにした。森は奥に進んでも特に雰囲気が変わることはなく、続いているようだ。
(ピクッ!)
(くんくん)
「キメラが近づいてくるノ」
「これは何プイね…… 今まで会ったことがないかもしれないプイ」
少しすると、キメラの姿が見えてきた。たしかに会ったことはなさそうだ。
「あれは…… イノクマ? いや、クマイノ?」
「そんな感じね。大きいわね。今度は1匹かしら?」
「1匹だと思うノ」
向こうもこちらに気付いていて、突進速度を上げてきた。
(ドドドドド!)
「とりあえず何使ってくるか分からないから水とかの弾丸から行こうかしら?」
(スババババッ)
(ヒュッ)
クルルの水の弾丸に対して、横に回避した。あの感じは風のようだ。
「風っぽいな。イノシシ系あるあるだな」
「そうね」
(ドドドドド)
(サッサッ)
とりあえず猪突猛進を回避してやりすごす。やはり折り返して突進してくるようだ。
(ドドドドド)
「強さは普通のようだな」
「そうね。水は当たらなさそうだから、これね」
(ピカーンッ!)
(プギッ!)
(ヒュヒュッ! ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
今の俺たちにはこの程度のキメラは全く問題無い。だが、2回連続で他の地域より強いキメラだった気がする。
「ここのキメラ、他の地域よりたぶん強いよな?」
「そんな気がするわ。ラグさんが危なかったのもしかたないわ」
「それに、森自体が大きすぎて、1回入ったら出るのが大変かもしれないな」
「そうね…… でも、飛ぶには木の上まで出ないと無理だわ」
「まあ、そこまで風で飛び上がってからになるかな?」
「そうね。それなりに目立つからできるだけ歩いて行きたいわ」
「そうだよな。ここにはスミロ人がいてもおかしくないからな」
「そうよ。それに、最初にプリンが聞いた音も少し気になっているの」
「ああ、あれか……」
「飛んでいると攻撃されそうな気がして……」
「なるほどな」
森は広いし、予想できないことが起きるかもしれない。このペースだとかなり時間がかかってしまいそうだ。
「無駄な戦いを避けながら、できるだけ急いで移動しよう」
「洞窟みたいに風も使いながら行くノね?」
「そうしましょう」
◇
時々風を使った高速移動を交えながら進んだが、それでも夕方までに川には到達しなかった。
やはりかなり森は大きいようだ。とりあえずこれ以上進むと暗くなるから、キャンプすることにした。
「いつものように土壁で囲ったキャンプにする?」
「うーん。どうしようかしら……」
そう言いながら、モカは上を見ている。まさか、木の上か。
「まさか、木の家を作る?」
「さすがに難しいわね。岩だと重すぎるし、土じゃ無理だし」
「上が無理なら下はどうプイ?」
「下ってどういうことナノ?」
「地面の中プイ」
「それいいと思うノ!」
そうか。巣穴みたいでワクワクするんだな。
「なるほどな。土壁よりは目立たないな。クルルと俺で作るか。俺が穴を掘るから、壁をクルルが岩で作るんだよ。入り口をふさげば大丈夫かな?」
「なるほど、いいかもしれないわね。空気穴を細くいっぱいあけておけば大丈夫だわ。万一水が入ってきたら、ヤマが消せばいいし」
ということで、巣穴作りを始めた。穴は一瞬で掘れるし、岩壁も一瞬だ。ものの数分で、出来上がった。
「相変わらずヤマは器用よね。ちゃんと入り口に階段まであるなんて」
「えっ、だって下りないといけないし……」
「そうね」
「みんな中に入ってプイ。入り口をふさぐプイ」
みんな入ったあと、クルルが岩でふさいだ。これで、安全な巣穴の完成だ。
「なんか俺たちの巣穴って感じだな」
「ほんとそうね」
「なんかワクワクするプイ!」
「そうナノ!」
やはり、クルルとプリンはこういうのが好きみたいだ。
まだ少し明るいため、光が空気穴を通して巣穴に入ってくる。明るいうちに寝袋とかを準備しよう。
食事は、巣穴で火を使うわけには行かないので、昼とかに焼いた残りを食べた。
巣穴なら見張りも不要なので、ゆっくりとみんなで休むことができた。
◇
翌朝、空気穴から光が差し込んできて目が覚めた。みんな起きたようだ。
ただ、プリンたちが起きたのはそれだけじゃないようだ。
(ピクッ…… ピクッ……)
プリンの反応を見て、みんな静かにする。プリンはかなり小声で話してきた。
「何かが少しそばにいそうナノ」
「分かったわ。しばらく待ちましょう」
(コクリ)
(ノシ…… ノシ…… パキッ…… ノシ…… ノシ……)
しばらく様子を伺う俺たち。たしかに何かそばにいて、歩いているような音がする。たまに落ちている枝を踏み割る音も聞こえてくる。
「たぶんキメラだと思うノ。スミロ人とは違うノ」
「そうね。私でも聞こえるわ。通り過ぎるのを待ちましょう」
クマ系にしては重そうな足音だ。ひょっとしたらゾウ系のキメラなのかもしれない。戦って勝てないとは全く思わないが、できるだけ戦いたくはないため、通り過ぎるのを待つことにした。
◇
感覚的には2、30分くらい待っただろうか。
(ピクッ…… ピクッ……)
「気配はもうしないノ」
「じゃあ、出てみるか」
「そうしましょう」
寝袋とかをインベントリにしまい、準備ができたことを確認して、入り口をあける。
(スッ)
巣穴の入り口から出ると、周りにはキメラとかはいなかった。代わりに足跡が残っていた。
「大きいわね。見た感じ、ゾウ系ね。何匹かいたみたいだわ」
「地面で寝なくて良かったな。踏まれたら痛そう…… それに巣穴は岩壁にして良かったな」
「そうね。それに無駄な戦いをしなくてすんだわ。これからも森の中は巣穴方式で行きましょう」
「そうだな」
「「それがいいプイ(ノ)」」
クルルとプリンの巣穴に対するモチベーションは高そうだ。安全だから、俺とモカにとってもそのほうが良かった。
「巣穴の入り口はふさいでおこう」
「分かったプイ」
(ドン)
巣穴の処理が完了したのを見届けたモカが歩き始めた。俺はどっちが西か分からなくなっていたが、モカはちゃんと覚えたいたようだ。
「さすがモカ。方向覚えているんだな」
「えっ? 覚えておかないと危ないじゃない……」
「もう、ヤマったら、モカに頼りすぎプイ」
「そうナノ。わざと巣穴の入り口を東側に作ってたと思ったノに」
「えっ? それは…… 偶然かな……」
「ヤマらしいわね」
どうやらプリンやモカは俺たちが穴を掘るときにちゃんと方向を見ていたようだ。次からは俺も気を付けよう。




