第121話 キメラとの共存に向けて
モカプルンパーティを楽しんだ翌日、俺たちとモミジさんの5人でラグさんのところに向かった。
守衛はやはりあっさり通してくれたので、そのままラグさんの部屋に向かった。
(トントン)
「はあいニャ」
いつものラグさんの反応が返ってきた。
「おはようございます」
「ニャ? みんなもう帰ってきたニャ? 何か問題でも起きたのかニャ?」
「あっ、そうではなくて、モミジさんとの議論結果を報告に来ました」
「ニャ? モミジさんも来てくれたのかニャ。どうぞニャ」
俺たちの後ろからモミジさんが顔を出した。俺たちが椅子に案内されたあと、モカが話し始めた。
「私たちは昨日帰ってきたんです。いろいろなところに行ってきまして。まあ、それはいいのですが、昨日、モミジさんとキメラについて議論できたんです。ね?」
モカがモミジさんに話を振った。モミジさんもラグさんに伝えたいようだ。
「そうなんです。ラグさん。何日か前に私がお伝えしたキメラがおとなしくなるための方策、あれをモカさんに伝えたんです。そうしたら、モカさんたちがものすごく考察してくれて。それで、一気に謎が解決しそうなんです」
「ニャ!? いったいどういうことニャ? じっくり教えてほしいニャ」
「順を追って説明しますね」
そのあと、モカが昨日議論した内容を順に整理して説明した。
ポイントは以下だ。
◆◆◆
キメラには生体AIチップが必ず寄生されていて、子どもに引き継がれる。これは確定事項と言える。
引き継ぐ際にはチップは最小構成まで縮小される。また、初期状態に戻されるはずと推測している。そうでないと、説明が難しい部分があるため。
キメラの赤ちゃんが生まれたあと、チップが元の大きさに戻るまでのわずかな期間、通常より学習効果が高いはずで、その際に脳が敵対心を消し去ろうとするとそれをAI細胞が学習すると推測している。
敵対心を消し去るのに寄与しているのは、赤ちゃんのころから触れ合って育てていることだと推測できる。これらの根拠はレイシュトの図書館の記述とキメラヴィルでのキメラの育て方の違いにある。
そのようにして凶暴性がない世代が続けば、生体AIチップの初期状態がそのうち書き変わる可能性がある。これは予想だが、希望が持てるし、確認する方法も一応存在する。
キメラは同族間ではもともと敵対心がなく繁殖する。おとなしいキメラと凶暴なキメラでも同族なら敵対心無く繁殖可能だと推測できる。
キメラ園からどんどんおとなしいキメラを輩出していけば、長い時間はかかるがいつかはおとなしいキメラが増えるのではないか。これが結論となる。
◆◆◆
ラグさんは真剣に聞いてくれた。途中から、驚きと希望に満ちた表情をしていた。
「素晴らしいニャ! 考察としては正しいように聞こえるニャ。あとはどう裏付けるかだニャ……」
「そうですね……」
「それに、キメラ園はそこまで広く無いニャ。キメラ園だけではおとなしいキメラの輩出元としては小さすぎると思うニャ。もっといろんな種類のキメラを育てられ、しかも凶暴なキメラに殺されないようにしないといけないニャ」
「うーん……」
さすがラグさんだ。問題点も指摘してくれた。特に最後のところが重要そうだ。モカも考えているようだ。
「たしかに、安全で広い育成場所が必要ね……」
キメラを育てる場所か…… ん? どこかで聞いた気がする。そうか!
「なあ、モカ。キメラ育成場所と言えばやっぱり洞窟なんじゃないかな?」
「えっ? でもあそこは鉱石があって強いキメラが寄ってくるわよ?」
「そう。だから、おとなしいキメラを1番強くしちゃうんだよ」
「え…… なるほどね! おとなしいキメラに洞窟を支配してもらうのね?」
「そう! 同族が来たら繁殖して、より安泰になるし、下手に刺激しなければ向こうも攻撃してこないだろうから、定期的に種族を入れ替えることだってできるはずだよ」
「すごいわ! ヤマ! それが洞窟の新しい役目になるのね!」
「時間はすごくかかりそうだけどな」
「いいのよ。それくらいでちょうどいいわ」
「あっ……」
「ん? どうしたの? ヤマ」
俺はさらに思い付いてしまった。
「スミロ人の首輪だよ。あれをもう少し作ってもらって、おとなしいキメラの代表者につければいいんだよ。そうしたら洞窟の外で強く育てられて、そのキメラを洞窟に送り込めるよ」
「なるほど! じゃあ、スミロ人にも協力を仰がないとね」
「どっちしろ、スミロ人とも仲良くなるつもりだから、仲良くなったら相談してみよう!」
「そうね!」
「ニャ……」
「え……」
よく見るとラグさんとモミジさんが驚いて絶句している。たぶんモミジさんは何を言っているか分からないだろう。少ししてラグさんが言葉を絞り出した。
「前も聞いた気がするけど、本当にスミロ人と仲良くなるつもりなのかニャ?」
「俺たちはそのつもりですよ」
「あの…… ラグさんはスミロ人のベルのことをご存知ですよね?」
「ニャ!?」
ラグさんは目をまん丸にして驚いている。まさか気付かれているとは思っていなかったようだ。そのあと観念したように話し始めてくれた。
「さすがニャ…… そのとおりニャ。でも、直接会ったことは無いニャ」
「そうなんですね」
「以前、西の森のほうに様子を見に行ったことがあるニャ。スミロ人がこちらに来ていないか、来れそうにないか、それを自分の目で確認しておきたかったニャ」
「たしかに気になりますよね」
「でも、森の中にはキメラもいたニャ。襲われて、もうダメニャと思ったとき、1人のスミロ人に助けられたニャ。ものすごく強かったニャ」
「え!?」
「そのスミロ人は『ベルという名のスミロ人を知らないか』と私に聞いてきたニャ。『知らないニャ』と答えると、『もし見つけたら、掟に従え、村に戻れと言ってほしい』と言われたニャ」
「つまり、ベルは掟を破って村を飛び出したということね……」
「そうみたいニャ。会ったときに分からないかもしれないから、どんな人なのか聞いたニャ。そうしたら、『森より東にいる可能性のあるスミロ人はベル1人だから間違うことはない。ベルは我らスミロ人の四天王の1人だ。お前たちでは勝てないから絶対戦おうとするな。あいつは攻撃されたら容赦しないはずだ』と言われたニャ」
四天王ということは当然4人いるわけだ。1人倒したということは残り3人。別に戦う必要はないけど……
「四天王…… あんな強いスミロ人が他に3人もいるのか……」
「……いや、4人だと思うわ」
「えっ? 新しい四天王?」
「そうじゃないわ。ベルは村長という言葉を使ったわ。だとすると、四天王の上に村長がいるはずよ。スミロ人は弱いものの言うことは聞かないという文化みたいじゃない? だとすれば、村長が1番強いと思うわ。ベルは村長にも勝てるかもと思うくらい強くなったスミロ人なのよ」
「なるほど。村長は下手するとあれより強いのか…… でも今の俺たちなら1対1でもたぶん勝てそうだよな」
「まあ、そうね。無理に1対1にする必要もないけどね。4対1なら余裕でしょうね」
「ニャ……」
「あなたたちはいったい……」
ラグさんとモミジさんはまた絶句している。モカが少し悩んでから2人に話をする。
「まだ、お2人の秘密にしていてくださいね。私たちというかヤマは『世界の調停者』とテンが呼んでいた存在らしいです。テンの目指した世界を実現するために、テンが世代を越えて準備したと思っていただいていいわ」
「その言葉、『ネコ人の神様』以上にしっくりくるニャ。人間、スミロ人を含む亜人、キメラ、すべてをつなげようとしているニャ。キメラとつながる道筋まで見えた今、あとスミロ人がつながれば、本当にすべてがつながるニャ」
「あなたたちとんでもない人たちだったのね」
「カエデさんの功績でもあるのよ」
「あ…… そうなるのね。妹として少し誇らしいわ」
「もっと誇っていいプイ。そのおかげで私もヤマたちに会えたプイ!」
「そうナノ!」
「そうね。テンのもともとの構想だと、本当はユキさんが私たちを連れてこないといけなかったらしいわ。でも、長い時が経ちすぎてそこまで伝わっていなくて。カエデさんたちが私たちを偶然連れて来なければ、テンの構想が破綻してたのよ」
「さすが『奇跡の超天才』ね。そんなところまで奇跡的だわ」
「たしかにそうね! テンらしいわね」
◇
俺たちの次に目指すべきところも決まったし、キメラ園で目指してもらうべき方向も決まった気がする。みんなも同じ気持ちのようだ。
「じゃあ、私はキメラをしっかりと育てないとな。ラグさんたちと一緒に。まだまだキメラの生態を研究したいし、共存できる日まで頑張るわ!」
「モミジさん、これからもよろしくニャ。もし、外ではぐれたキメラの赤ちゃんとかを見つけたら連れてくるようにするニャ」
「ぜひお願いします!」
「じゃあ、私たちはスミロ人に会えるよう、西のほうに向かいます。いきなり乗り込むとさすがに良くないので、慎重に周辺を調べながら行きます」
「それがいいニャ。森の途中に川があって、その向こう側であることだけはたしかニャ。それ以上のことは私にも分からないニャ」
「そこまで分かっていれば十分です」
「そうだよな。探すのも楽しいよな!」
「ニャハ?」
「うふふっ、ヤマらしいわね」
「ほんとそうプイ」
「ラグさんが驚いて変な声を出しちゃったノ」
「えっ?」
「あなたたち、ほんと面白いわね。あなたたちになら世界を託してもいいわ。頑張ってきてね」
「そうニャ。危ないときはいつでも戻ってくるニャ」
「ありがとうございます」
なんかよく分からないけど、話がまとまったようだ。
「じゃあ、明日以降の活躍を祈って、今日はモカプルンパーティをしましょう!」
「いいわね!」
結局、いつものモカプルンパーティでみんなと楽しいひとときを過ごした。明日以降は俺たちはまた新たな地域に旅立つことになる。しばらくはモカプルンを食べられなさそうだ。
◇
その日の夜、例によって、モカはしっかりと長風呂に入った。
そのあと、明日以降について、軽く相談することにした。
「いよいよ、明日からスミロ人の村探しだよな」
「そうね。どのくらいの大きさで、どのくらいのスミロ人がいて、どのくらい強いスミロ人がいるのか、どういう生活をしているのか、とにかく分からないことだらけね」
「少なくとも、ベルと同じかそれ以上強いスミロ人は4人いそうで、逆にそれ以外のスミロ人はベルほどではないんだろうな」
「きっとそうよね。だから、私たちが本気で攻撃したら殺してしまうから気を付けましょう」
「模擬戦ならともかく、そうじゃないときに戦うことになったら大変だな」
「私たちなら逃げることもできるわよ。いざとなれば空に逃げればいいわ」
「なるほどな。護りのコートを焼き切られないように距離は取らないと危なさそうだけど」
「そうね」
プリンは何かを悟った表情をしている。
「他のスミロ人は師匠のかたきじゃないから、私も仲良くできる気がするノ」
「プリン…… えらいわ」
「だって、ベルっていうスミロ人は掟を破って村を出たノよね? なら他のスミロ人には罪はないノ」
「そうよね。そう考えられるのは、プリンがいろんな種族のことを公平に見られるからなのよ。だって、あるウサ人が誰かを殺したとしても、ウサ人全体が悪いわけじゃないでしょ?」
「そうナノ! まさにそうナノ!」
「なるほどプイ! 私も納得プイ!」
「もちろん悪いことをした人が恨まれるのはしょうがないけど、種族全体だったり、その人の子どもだったりが恨まれるのは違うよな。でも、恨みをぶつける先がなくなるとそういうことも起きるんだ。ベルがテンに復讐できなかったように……」
「そうね」
「でも、復讐の連鎖を止めること、それが大事なんだ。きっとスミロ人の村長は分かってくれる。そんな気がするよ」
「そうね。どんな掟か分からないけど、今でも従っているんだからね」
「ああ。俺たちが強ければ、話を聞いてくれるさ」
「やっぱり戦うノ?」
「うーん。戦いというより、強さを認めてもらうっていう感じのことは必要になるんじゃないかな?」
「私もそう思うわ。でも、私たちならきっと大丈夫よ。テンやマリが1万年もかけて託してくれたものがあるんだから」
「「分かったプイ(ノ)」」
明日以降のことを考え、少し緊張と不安を感じながらも、俺たちはゆっくりと休むことにした。
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第5章はここまでで、次のお話からいよいよ最終章である第6章に入ります。
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