第119話 マリの施設再訪
次の日、西側に戻ってマリの施設を行くことにした。
「じゃあ、また通路を通って西側に行こうか」
「ねえ、飛んでいくのはどうかしら?」
「えっ、山越え?」
「高くないところを選べば、飛んだことのある高さで行けるんじゃないかと思って。ダメそうなら引き返せばいいじゃない」
「楽しそうプイ」
「行ってみたいノ」
「まあ、無理そうなら引き返せばいいしな。行ってみようか」
今回は思い切って山越えにチャレンジすることにした。直線距離なら歩いて1日くらいで行けたはずだ。だから、飛んで越えられるなら短時間で行けそうだ。
まずは今回もレイシュトから歩いて出て、前回と同じ飛び立つポイントから、空の旅を始めることにする。
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
一気に高い高度まで上った。
モカがキョロキョロしている。
「うーん。あの山と山の間がいいんじゃないかしら。あの高さなら十分に余裕があるわ」
「行ってみようか。山の上だとキメラが来るかもしれないから、油断せずに行こう」
「そうよね。キメラが来るかもしれないわね。もう少しだけなら高度上げても大丈夫かしら。でも、2kmを超えるのは良くないわ」
「まあ、無理して上げないほうがいいんじゃない? 人間の前提をモル人とウサ人に当てはめるのも良くないから」
「それはそうね。このまま行きましょう」
「キメラが来ても大丈夫ナノ。斬ってもいいし、コネクトは普通に使えるノ」
「たしかにそうだな。ほとんどコネクト使わずに飛んでるもんな」
行けそうだと分かった俺たちは西に進む。
上から見て分かったのは、レイシュトのあたりだけ壁となる山が少ないことだ。だから、ここにレイシュトを作ったのだろう。
俺たちはレイシュトの少し南を通過して、山の上に向かう。
以前、山に壁か谷があるのでは、と推測していたが、上から見る限りだとそれらしきものは見当たらない。もちろん、木々があるため地面に何か細工してあったら分からないが。ただ、この山の広さを考えたら、壁などを作るのはかなり難しそうだ。
やはりキメラとセットで天然の壁となっていたと思うほうが自然だ。スミロ人が越えられない理由にはならなさそうなので、そこは謎のままだが。
それはいつか遭遇するであろうスミロ人に聞くしかない。マリの施設で能力を最大まで上げたら、もっと西に行って、スミロ人が住む村を探すときがもうすぐ来る。
近いうちに分かるはずだ。
◇
山が少ないところを選んだおかげで短時間で通過できたためか、キメラに襲われることもなく、西側へと入ることができた。
位置関係的に、たぶん、洞窟を抜けてくるところよりも南なのではないだろうか。
「なあ、モカ。ここはどの辺だろう? 洞窟の出口より南じゃないかな?」
「そうだと思うわ。たぶん右に見える山のもう1個向こうの山あたりに洞窟の出口がある山があるのよ。だって、キメラヴィルへの道ってあれよ」
モカが指差す方向にはそれらしき道があった。右に見えている山の向こう側から出ている。
「となると、マリの施設はもっと左の方かな?」
「そうね。そうか、このまま直接行ったほうが近いわ。たぶんここからほぼ真南の山沿いにあるわよ」
なるほど、そういう位置関係になるのか。先にキメラヴィルに行かないといけない用事もなさそうだ。
「そうだな。じゃあ、マリの施設に行こう」
(バサバサッ!)
俺たちは方向転換をして、山沿いを南に向かった。
◇
夕方に近づいたころ、マリの施設がある遺跡が見えてきた。
モカの予想通り、ほぼ真南にあったわけだ。徐々に高度を落としながら向かう。山を越えたあとはそんなに高く飛ぶ必要はなかったのだが、特に下げる必要もなかったので、なりゆきで高いままだったからだ。
(スゥーッ)
(スタッ)
久しぶりに遺跡に帰ってきた。
まだ明るいから大丈夫だろう。それに、休むなら中のほうがいい。遺跡が崩れないように注意しながら中に向かった。
(スッ)
(ギギギッ)
(ピカッ)
お墓とマリの施設へ通ずる扉を俺が開け、モカが光を照らした。
「今回はお墓には用事がないからまっすぐ行こう!」
「うふふっ。そうね」
通路を進み、護りの腕輪をかざし、マリの施設に入った。
「おや、あなたたちですか。おかえりなさい」
「お久しぶりです。施設のある洞窟をひと回りしてきたので戻ってきました」
「ひと回り? たしか第1から第5施設はそれぞれかなり離れていたはずでは?」
さすがに飛ぶことは想定外のようだ。別に種明かしをする必要もないだろう。
「まあ、俺たちにはいろんな知識がありますので」
「なるほど。さすがですね」
「今日は残りの能力向上をしに来ました。あとはこの前みたいにここで少し休ませてください」
「分かりました。ゆっくりしていってください」
まずは能力向上だ。
ひと通りキメラを倒して細胞を吸収してきたので大丈夫だろう。
確認してみた結果、問題なく全員最大まで能力向上できた。
◆◆◆
(ヤマ)
現在スロット数60
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
ヤマ魔法1
放電1
風1
思考速度12
動体視力12
反射神経13
形状生成能力10
放出能力10
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
土
水
◆◆◆
◆◆◆
(モカ)
現在スロット数60
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
水晶1
水1
思考速度20
動体視力6
反射神経12
形状生成能力10
放出能力10
護りのアクセサリーコネクト登録(最大2)
光
風
◆◆◆
◆◆◆
(クルル)
現在スロット数60
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
水1
風1
思考速度4
動体視力20
反射神経14
形状生成能力10
放出能力10
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
岩
◆◆◆
◆◆◆
(プリン)
現在スロット数60
スロット数は現時点の最大
スロット登録内容
風1
水1
思考速度4
動体視力14
反射神経20
形状生成能力10
放出能力10
護りのアクセサリーコネクト登録(最大1)
氷
◆◆◆
もともとそれなりに高かった俺ですら結構能力向上できているが、他のみんなはまた一気に強くなった感じだ。
特にプリンやクルルはほとんどすべての攻撃を余裕でかわせそうだ。モカは頭の回転の速さですべてをクリアしそうだ。俺は平均的に上げているので、突出はしないが、だからこそ、秘技を使いこなせる感じだ。みんなそれぞれの特徴を活かした能力向上だ。
能力向上を果たした俺たちに機械が話しかけてきた。
「ここまでの能力向上を果たした人はもちろん初めてです。テンの目指した世界の実現をよろしくお願いします」
「そうですね。頑張ります!」
ここでの用事は済んだ気はするが、モカは少し考えている。
「あの…… スミロ人について何かご存知ですか? 例えば、スミロ人が住んでいる村とか、スミロ人の文化とか」
「ここに来た人は、テンやマリが来ていたころを除けば、あなたたちしかいません。ですから、テンが生きていた当時の情報しかありません」
「その当時のもので結構ですけど、何かありませんか? 例えば変わった首輪をしていたとか」
「首輪ですか? 情報を確認します…… いいえ、特に記録はありません。どのような首輪か分かりますか?」
俺はモカと目を合わせうなずき合う。
「これです。俺たちが倒したスミロ人が身に着けていたものです。最後にスミロ人が傷を付けて、これを持って西に行くよう言われました」
「見た限りは特殊な鉱石が使われているようです。テンが扱っていたものと似ているようです」
「ここに当ててみたほうがよいですか?」
「試してみてください」
首輪を機械に当ててみた。だが、特に反応はない。
「反応はないですね……」
「読み取れる仕組みはなさそうです。護りのアクセサリーとは別のもののようです。おそらく鉱石をつなぎ合わせただけでしょう」
なるほど。モカが機械の見解をまとめてくれた。
「つまり、これを身に着けていれば、私たちのように、洞窟の奥以外でキメラを倒したときも細胞を吸収できるということかしら。細胞は含まれていないから、護りのアクセサリーのような効果はないということですね」
「おそらくそうだと推測できます」
「なるほど……」
モカはいまいち納得できていないようだ。あの表情は間違いない。
「モカ、何か気になることがあるんだね?」
「やっぱりヤマにはバレちゃうわね。そうなのよ。気にしているのはね。スミロ人のベルがプリンの居合抜きをかわしたことなの」
「覚えているよ。たぶんかわされたのはあれが初めてじゃないかな?」
「たしかに、あのとき以外かわされたことないノ」
プリンも不思議そうな顔をしている。
「そうよね。もちろん、相手がひるんだりしてないからという可能性もあるわよ。でも、そうだとしても人間とスミロが合体しただけであれをかわせるものなのかしら」
「少なくとも人間には無理だな。元のスミロが動いているところを見たことがないから分からないけど……」
まだモカは悩んでいる。
「うーん…… たしか、ベルは『俺たちは戦うほど強くなる。強いものには首輪が授けられ、さらに強くなる。それだけだ』って言ってたわ。強くなるのがコネクトだけなら、さっきの説明で合っているの」
「でも、首輪を授けられたあと、何でさらに強くなるかは言っていなかったの。もともと洞窟とか鉱石があるところで戦えばコネクトが強くなるのはキメラも同じよ。でも、そうだとしたら首輪があるとそこ以外で戦っても強くなる程度の差しかないわ」
「うーん。俺たちが首輪を付けてみれば分かるかな?」
「お願いだからそれはやめてほしいわ…… ヤマにもしものことがあったら取り返しがつかないわ」
「まあ、そうだよな。効果が分からないものを着けるのはちょっと危ないか。護りのアクセサリーやチップと変に干渉するとマズいよな」
「そうなの……」
まだモカがプリンの居合抜きがかわされたことをずっと考えているようだ。
「うーん…… 例えばですけど、反射神経を向上させるやり方はAI細胞が私たちの脳にそう働きかけるからですよね?」
「そうです」
「それはAI細胞を増やさずにコネクトと共存できないのですか? 例えば、コネクトを使うのと、反射神経を上げるのを同時にはできなくても、排他的に自由に入れ替えられるとか」
「あなたが言いたいのはテンが近縁のスミロ人用に作った生体AIチップのことですね? テンはそれを改良して、あなたがた人間とスミロ人以外の亜人が使っているような、複数能力を両立させ、かつ能力をさらに進化できるチップにしたのです」
「えっ? 近縁のスミロ人用なのですか?」
「はい。元のスミロ人とは違って火のコネクトを使う必要性が低いことと、元のスミロ人より生き残りやすくするために、テンが作ったものです。これをきっかけに能力向上の仕組みを生み出し、今のチップにつながっています」
「つまり、チップは3種類あるのですね? 元のスミロ人やキメラが身に着けているコネクトのみが使えるチップと、近縁スミロ人用のチップ、そして、他の亜人と人間が使っているチップです」
「正確には4種類のはずです。元のスミロ人だけが初期型で、キメラのものとは違うとテンは言っていました」
「また、近縁スミロ人用のチップと元のスミロ人のチップは相性が悪く、両者の間には子どもが生まれないとテンは言っていました」
「同じように他の亜人も、チップを持つもの同士しか子どもが生まれないようにしたそうです。元の動物との交配を避けるために。それを利用してチップを寄生させた人間と亜人の間には子どもが生まれるようです」
これは新情報だ。
そして、これがスミロ人の強さの秘密だ。モカも理解した顔をしている。元のスミロ人より生き残りやすくするためでもあったようだ。俺が以前思っていた仲良し理論ではなかったようだ。
「なるほど。もう1ついいですか?」
「もちろんです」
「近縁のスミロ人と言っていますが、スミロに近縁種がいたのですか?」
「必ずしもそうではないようです。チップが違うという意味でテンは使っていたようです。ただ、逃げてきた途中にいたスミロと人間との間で生み出したスミロ人なので、別種の可能性もあると思うとは言っていました」
なるほど。テンと直接会話していた機械の言葉は貴重だ。謎がどんどん解けていく。
「ありがとうございます。納得できました」
「スミロ人の強さの秘密も分かったな」
「そうね。意識すれば何か1つ能力を一時的に上げられるのよ。能力を上げている間は火のコネクトは使えないわ。逆に火のコネクトを使っているときは能力は上がっていないわ。細胞を吸収することで、上げられる能力値も増えるのよ。だから、プリンの居合抜きをかわせたのよ」
「だから、回転しながら火のコネクトを使う攻撃はゆっくりだったのか」
「たしかに、そうよね!」
何か俺の中にひらめきのようなものが浮かんできた。
「ひょっとして、この首輪、保持できるエネルギー変換細胞の最大量を増やす効果があるんじゃないかな? だから頭打ちになった一時能力向上量をさらに向上できるということなんじゃない?」
「なるほど! 鉱石の塊で、吸収効率を高めることでそうなるのね。たぶん、エネルギー変換細胞の保持量が増えると吸収効率自体が落ちていくのよ。それは護りのアクセサリーをしていてもたぶん同じね。それがエネルギー変換細胞保持量の最大値を決めているのよ」
「あと、あのときのベルの反射速度から言って、当時のプリンに匹敵しているわけだから、今のプリンよりはずっと下という感じかな? だから今の俺たちくらいまでは上げられないんじゃないかな?」
「そうだと思うわ。今の私たちは全員、当時のプリンの反射神経より上よ。だから、今ならスミロ人の攻撃をかわせるし、こちらの攻撃も当てられるはずよ」
「なるほど、それでここで力をつけるとスミロ人以上になるわけか。おそらく当時から鉱石はあって、上げられる能力上限をテンやマリは分かっていたんだな。となると、モカの動体視力だけが心配だけど大丈夫かな?」
「そこは大丈夫よ。予測でなんとかできるし、そもそもくっきり見えなくても動きは分かるわ。見えても反射神経が鈍くて身体が動かないほうがマズいわ」
モカの場合は頭の回転が速すぎるから目ではっきり見えない分の補正ができそうだ。それに近接での力勝負の戦いはしないから距離を取れば相対的に見えやすくなると言えそうだ。
モカがひと通り考えて、結論を出した。
「……これですべての辻褄があったわね!」
「そうだな」
納得できた俺たちの分析結果に機械が反応してきた。
「……あなたたちの賢さは驚嘆に値します。まるで、テンとマリを見ているようです」
「ありがとうございます」
「じゃあ、すっきりとしたところで、ゆっくり休もうか」
「そうしましょう」
満足した俺たちはマリの施設でゆっくりと休むことにした。




