第115話 高速移動
飛ぶことができるようになった俺たちは、不必要にキメラに遭遇することもなく、その日のうちにトライオラシの近くまでたどり着いた。
「もうトライオラシが見えてきたわね。そろそろ降りて、歩いて行きましょう」
「そうだな」
下降しながら減速して、着地を試みる。
(スゥーッ)
(スタッ)
初めてだが、うまくいった。
しかも、そんなに難しくはない。風を使い慣れているモカやプリンはもちろん、俺やクルルでも全然問題なく大丈夫だ。
久しぶりに地面を歩く気がする。
この空を飛ぶ感覚は癖になりそうだ。数日かかっていた距離を1日で移動できるメリットもとてつもなく大きい。自分のエネルギーを使って飛んでいると推測したものの、ほとんど羽ばたかなくてよかったこともあり、全然疲れていなかった。
とはいえ、さすがに夕方に近くなっていたので、宿屋に真っ直ぐ向かった。
宿屋の部屋に入り、くつろぎながら空の旅の感想で盛り上がる。
「空の旅は最高だったプイ」
「鳥はいつもこんな感じナノね」
「空を飛ぶのは人にとって夢だったからな」
「そうよ。でも、まさか、護りのコートを翼にして羽ばたくなんて、思いもよらなかったわ」
「そうだよな。プリンの素朴な疑問がなければ、ここまで楽には移動できなかったかもな」
「そうなのよ。私たちだとG世界の知識が邪魔して思い付けなかったのよ」
「それってG世界で見たすごい高いところを飛んでいるあれのことプイ?」
「そうそう。あれが最初にモカが試したやつに近いかな」
「そうね。でも、あれの速さは今日の私たちの10倍以上だと思うわよ」
「ナ! 速すぎナノ!」
「そうよ。速すぎて都市間の移動には使えないし、間違って地面にぶつかったらさすがの私たちでも死ぬわよ……」
「今日くらいの、鳥くらいの速さがちょうどいいプイ」
「そうだよな。それでもたぶん歩きの10倍以上は出てたんじゃない?」
「そうだと思うわ。普通の人ならあの速度でも止まれないから、落ちたらほぼ死ぬくらい危険だけど、私たちは風のコネクトがあるから、減速して安全に着地できるのよ。それに、1度速度と高さが出ちゃえばあとは滑空すればいいから楽よね」
そのあともしばらく興奮が冷めずにその日は盛り上がった。
◇
翌日、第3施設に向かうことにした。
第3施設のある洞窟に行くには東門が近い。ただ、モカは違うことを考えていたようだ。
「南門から行きましょうよ」
「えっ、なんで?」
「東門は洞窟側で、キメラが来ないか衛兵が監視しているのよ。そんなところで飛び立ったら目立つじゃない。ほとんど人が行き来しない南門から出て、そのあと高いところを移動するほうが危険が少ないわ。どうせすぐ着くわ」
「なるほど」
「それなら、都市を経由せずに直接洞窟間を移動するほうが速いプイ」
「それもいいわね。都市だとお風呂に入れるけど、数日ならまあ我慢できるわね」
「じゃあ、第3施設のあと試してみるか」
「そうしましょう」
トライオラシの南門から出て、しばらく歩き門から見えなくなる距離まで離れたあと、周りを見て誰もいないことを確認した俺たちは飛び立った。
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
「高いところからだとよく見えるわね」
「あの湖のそばにあるのが洞窟だな」
「この距離でも見えるプイね」
「不思議ナノ」
そうか。クルルやプリンは地球が丸いことを知らないのか。
「実は地面って丸いのよ。だから、地面にいると遠くは見えないの。地面だと見えるのは歩いて1時間くらいの距離までよ」
「イチジカン?」
「えーっと、1日の24分の1なんだけど…… 朝ご飯と昼ご飯の間の5分の1くらいかしら?」
「意外と近いところまでしか見えないプイね」
「そうよ。いつも見え始めたらすぐ着くじゃない。あっ、でも高いものは遠くからでも見えるから2階建ての建物だとさっきの2倍くらいから遠くでも見えるわよ」
「なるほどプイ」
「そういうことナノね」
今は1日歩いてたどり着く距離の洞窟が余裕で見えているから、どのくらいの高さなのだろう。
「今ってどのくらいの高さだろうな」
「さすがに分からないけど、でも洞窟がしっかり見えるから100mくらいはあると思うわよ」
「プイ?」
「30階くらいの高さかな?」
「た、高いプイ」
「俺たち、今は鳥だからな」
「うふふっ、そうね」
空は道がないので、洞窟に向けて真っ直ぐ進めるのもメリットの1つだ。こうやって上から見ると、道の形もよく分かる。
眺めながら飛んでいるとあっという間に洞窟に着いた。たぶん30分もかかってないんじゃないだろうか。車並みの速度だ。
洞窟周辺には人がいないので、入り口近くに着地しよう。
(スゥーッ)
(スタッ)
「到着ね」
「早いな。この分だと、今日中に奥まで余裕で行けるな」
「そうね。行きましょう。第3施設で寝てから、明日、第4施設の洞窟入り口まで移動してもいいかもしれないわね」
スピード感がこれまでと全く違う。G世界での旅行並みではないだろうか。ただ、洞窟の中は他よりも強いキメラが出るから注意が必要だ。
「そうだな。ただ、油断はしないようにしよう。ここは洞窟だし」
「そうね。突然スミロ人と出会った事例もあるわけだし、気を付ける必要はあるわね」
「たしかに、キメラよりそっちのほうが危険だな」
「気を付けるプイ」
「音をよく聞くノ」
(ピクッ)
「ん? 何かいる?」
「キメラが少しいるノ」
「じゃ、行こうか」
「行くノ」
俺たちは洞窟に入った。
◇
今の俺たちにとって、洞窟の奥に到達するのはたやすかった。
(ヒュヒュッ!)
(……ドサッ)
あのシカトラもカバガメも、プリン1人で一瞬にして倒せてしまう。1番奥まで行くと、久しぶりにクマザルが遠くに見えた。あのずる賢いキメラだ。最初はだまし合いの末に勝利を収めた相手だ。
「クマザルはさすがに油断すると危ないわよね」
「そうだよな。あいつ、岩を使うんだよな。フィナルメンシウタットのそばの洞窟でも戦ったけど、きっとここのほうが強いよな」
「可能性はあるわ。ここは1番奥だもの」
「戦って見れば分かるプイ」
「そうナノ」
「そうね」
クマザルに近づく。向こうは絶対気付いているはずだが、気付いていない振りをしている。こちらはみんなそのことを分かっている。
(ドォン!)
(ヒューッ)
やはりいきなり岩攻撃だ。だが、俺たちは全員風を持っているから余裕を持ってかわす。どうやら怒っているようだ。
(キキッ!)
何をしようか考えていたが、水無しで放電を使ったらどうなるか、ちょっと試してみたくなった。自分たちには当たらないように距離感には気を付けて使ってみた。
(ビリビリビリビリッ!)
(ギギギッ……)
「うわぁっ、放電も強くなってるな…… 水無しでも気絶しちゃったみたいだ…… プリン、よろしく」
「分かったノ」
(ヒュヒュッ!)
(ドサッ)
あっさりと勝負がついた。やはり、相当俺たちは強くなっているようだ。
「なるほどね。電圧は変わらないでしょうけど、コネクト能力が上がって通電時間が長くなったから威力が上がったのね」
「ん? それはそうと、モカが細胞吸収したらどうかな? 1番少なかったはずだし」
「そうね。どうせ全員最大にするからあまり関係なさそうだけど」
そう言いつつもモカが吸収した。
あっさりと洞窟を攻略した俺たちは第3施設に行く。もはや宿泊施設感覚だが。
◇
これまでと同様に、護りの腕輪をかざして第3施設に入った。いつもは向こうから声をかけられるが、今回はモカがそれより前にあいさつをした。
「こんにちは」
「よく来ました。護り人たちよ」
「今日はここには特に用事は無くて、ちょっとキメラの様子を見に来ただけなんです。ここで休ませてもらってもいいですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます! 休んだら、すぐに出発します」
「そうですか。分かりました」
機械もこういう特に用事なしというのに慣れていそうだ。よく考えたら、護り人がここを訪れるうちの大半は定期任務のはずだ。引き継ぐときだけ、能力向上をするわけだ。慣れていて当然だろう。
俺が自分の中で納得したあと、みんなで施設内で食事をし、寝袋に入って休むことにした。
◇
次の日、施設をあとにし、洞窟の出口を目指す俺たちにモカが言う。
「出るときはささっと出ましょう。これ以上キメラを倒す必要はないわ」
「そうだな」
「じゃあ、風を使って走り抜けるのがいいと思うプイ」
「そうナノ。走ってもかなり速く移動できると思うの」
「うーん……」
モカは迷っているようだ。
「たしかに速く移動できるわ。でも、そんなに長くコネクトを使い続けられるかしら?」
「分からないプイ……」
「出口まではそれなりにあるから厳しいかもしれないノ……」
「そうよね。だから、キメラの気配があるところは高速移動で突っ切って、それ以外は歩くのはどうかしら?」
「それが良さそうだな」
「「分かったプイ(ノ)」」
そのあと、決めたとおり、キメラの気配をクルルやプリンが感じたら風を使って高速で走り抜け、それ以外は歩くようにした。それでも、普通に出るよりはずっと速く外に出られた。
おかげで、外に出たのは、まだ朝と言っても過言ではない時間帯だった。
「まだ朝だよな。あっという間に出られたんだな」
「このやり方で十分そうね」
「しかもこれならほとんど疲れないプイ」
「そうナノ!」
これで疲れないというのは、コネクト能力というより、単純に体力があるからなのだろうが、そこは旅慣れているからそういうものとしてスルーした。
「じゃあ、このまま一気にフューラスタードそばの洞窟前まで移動しましょうか。レイシュトからここまでとそんなには変わらないはずだから、今日中には着くと思うわ」
「そうだな。行こう」
「「行くプイ(ノ)」」
(ビューッ!)
(バサバサッ!)
(スーッ)
俺たちは一斉に飛び立った。
「こっちよ」
(バサバサッ!)
モカの指示に従って方向を整え、東を目指す。俺たちの進む先の左側には湖、右側の遠くには山が見えていた。
◇
俺たちはほぼ湖岸に沿って飛んでいた。よく見ると、右側の遠くのほうには、フューラスタードに向かう道が見えている。つまり、道よりはだいぶ北寄りを飛んでいることになる。
さらに進むと、湖の端が見えてきた。
湖の端は北側に曲がっており、その先の北の方には川があるようだ。川がつながる先はどこかな、と考えながら飛んでいると、すぐに答えが分かった。もう1つの湖につながっているようだ。
見えてきたもう1つの湖の向こう岸のそばに目指す洞窟があったはずだ。それにしてもモカはフューラスタードから気付かれないためにだと思うが、わざと北側を飛んでいるようだ。
「このまま湖の上を越えるんだな?」
「そうよ。そうじゃないとフューラスタードから近過ぎるもの」
「湖の上を飛ぶなんてすごいプイ!」
「落ちないように気を付けるノ」
「そうだな」
そのまま行くと思っていたらモカから指示が飛ぶ。
「湖の上に行く前に思い切り高度を上げるわよ」
「えっ? どうして?」
「湖の上は上昇気流が発生しないの。だからあまり羽ばたかなくていいように高く上がっておきたいの」
(ビューッ!)
(バタバタッ)
俺たちは一気に高度を上げた。
どのくらいの高さなのかは分からないが、高度を上げたおかげもあり、ここまでの距離を苦もなく飛んできた俺たちが落ちるなんてことはもちろんなく、多少羽ばたきながらも、あっという間に湖を渡りきった。
グライダーと違って羽ばたくなど自力で高度を高くすることができる点が非常に有利だ。
湖を渡りきったところで周りをよく見ると、どうやら洞窟よりも北側に出たらしい。南側に洞窟らしきものが見える。
「あそこよ」
「そうだな」
「あっさり今日中に着いたプイ」
「中に入る前に1回寝るノ?」
「さすがに洞窟の奥に着く前には暗くなっちゃいそうだから、そうしましょう」
(スゥーッ)
(スタッ)
俺たちは洞窟のそばに降り立った。
以前来たときのように、洞窟のそばでキャンプして明日に備えた。




