第113話 報告
キメラヴィルに向かった俺たちは、行きと同様、キメラと何度か戦いながら進むこととなった。
だが、行きと違って、能力が大幅に上がっていたため、その確認に時間を割いた。これでもまだ最大までは上がっていない状態なわけだから、最大まで上げた後は相当強くなるだろう。
キメラ相手には既に十分すぎる強さと言えるが、それでもスミロ人のベルの強さを考えると最大まで上げる必要性を強く感じざるを得なかった。
「このあたりのキメラを倒してもそんなには細胞吸収できないから、やっぱりレイシュトのほうに戻らないとダメね」
「そうだよな。エーンスタットは何カ月か前に行ったから、残りの4つに行くとちょうどいいかな」
「迷うところね。エーンスタットに最後に行けば5つでもいいと思うわ。5つに行くタイミングをあまりずらすと後々面倒なことになるわよ」
「ああ、そうか。キメラが強くなったら行かないといけないからな……」
「そうなのよ」
東側に戻る前にモミジさんやラグさんとは話をしておいたほうが良さそうだ。キメラ研究には時間がかかるだろうから、しばらく俺たちが不在になっても問題はないだろう。
◇
数日後、キメラヴィルに帰ってきた。
夕方と言うほどの時間でもないが、モカがやっぱりお風呂に入りたそうにしているので、まずは家に行こう。家にいれば、モミジさんはたぶん帰ってくるから話もしやすくてちょうど良さそうだ。
予想通り、家でくつろいでいると、モミジさんが帰ってきた。
「あれ!? あっ、みんな帰ってきてるの?」
「おかえりなさい」
「ただいま、って逆よ、逆。そっちこそ、おかえりなさい!」
「うふふっ、ただいま!」
「で、遺跡はどうだった?」
さすが研究者のモミジさん。遺跡がどうだったか相当気になるらしい。
「いろいろ分かったわよ」
「ま、まあ、中に入ってゆっくりしてからでいいんじゃない?」
「そうプイ」
「モミジさんはさすが研究者ナノ」
「あ、そうね。つい、ね」
玄関で話し込もうとしていたことに気付いたモミジさんは、俺たちの指摘で素直に奥に入ることにしたようだ。
リビングにしている部屋に移動して落ち着いてからモカが話を始めた。
「とりあえず、あそこの遺跡は何かの研究所の跡だったわ。かなりボロボロで崩れていたわ。かなり昔に人がいた形跡があって。下手したら1万年前の遺跡よ」
「えっ、そんな前のものだったの?」
「土器のようなものの破片とかも多く落ちてたの」
「なるほど、それだとかなり古そうね」
「あとは生き物の骨もそれなりにあったけど、たぶんそこにいた人が食べたものだと思うわ」
「キメラ?」
「それは私たちには分からなかったわ」
「あっ、少しだけど、回収して持ってきたよ」
「えっ、ありがとう!」
俺は持ってきた骨をモミジさんに渡した。やっぱり喜んでもらえた。モミジさんは骨を手にとり、真剣なまなざしで見ている。
「見た感じは何種類かの生き物の骨がありそうね。じっくり調べればどの種族の骨か分かるかもしれないわ」
「さすがモミジさんね。いつの時代の骨か分かる情報があればよかったんだけど……」
「大丈夫よ。少なくとも今は使われていない土器があるような時代なんだから、十分古い、で問題なしよ」
なるほど。テン世界だとそのくらいで十分なんだな。年代測定ができないからしかたがないのかもしれない。
「あとは、ちょっと気になることもあってね。私たちはレイシュトのほうにしばらく戻ろうと思うの。各都市のそばの洞窟に行くつもりなの。そこにあるものと似たようなものがあったからなの。ひと回りしたらまた戻ってくるわ」
「なるほどね。そんな役目できるのはあなたたちだけだわ。私はまだここでやることがいっぱいあるから大丈夫よ」
一方のキメラ研究はどんな感じか気になるので聞いてみる。
「そういえば、モミジさんの研究のほうはどう?」
「うん。驚きの連続だったわ。キメラって、凶暴性がないとかわいいのよ」
「そうなのか…… 『人間の子どもが、キメラと知らずにキメラの子どもと仲良くなってしまったという事例』は本当の話かもしれないな」
「ええ、そうなのよね……」
「キメラ園にその答えがあるのかな」
問題はキメラ園のどこが特殊なのかだ。モミジさんはそこにも何か気付きがあるようだ。
「まだ確証はないんだけど、レイシュトで読んでもらった本の内容と、キメラ園でのキメラの育て方に少しだけ違いがある気がするの。まだ、話に聞いているだけで、実際に見てないから分からないけど、もう少ししたら確認できると思うわ」
「すごいわね。もう答えに近づいているかもしれないのね」
「試してみないと分からないけどね。最後にはあなたたちにも協力してもらわないと研究が完成しないかもしれないけど」
「え? 俺たちに?」
「まあ、それはそのときのお楽しみで」
「なるほど。そのほうが楽しみが増えていいよな!」
「……ほんとヤマらしいわね」
「「そうプイ(ナノ)」」
いったい何を俺たちにお願いするつもりだろうか。俺たちは研究者じゃないからモカ以外はまともなことはできないだろうけど。楽しみにしておこう。
モミジさんには無事に報告ができたから、明日にはここを出発することになりそうだ。
「あっ、そうだわ。私たちは、明日、ラグさんに会って少しお話してからレイシュトに行こうと思っているの」
「ラグさんならいつも研究所にいるから会えると思うわ。私はずっとキメラ園にいると思うから気にせずに出発してちょうだい」
「分かったわ」
ずっとキメラ園にいたいくらいキメラがかわいいのだろう。モミジさんらしい。
「じゃあ今日はプルンでも作ってみんなで食べましょうか」
「いいわね!」
「おっ、久しぶりだな!」
「楽しみプイ」
「私も手伝うノ」
そのあと、モカプルンパーティをみんなで楽しんだ。キメラヴィルにモカプルンが広まるのも時間の問題だろう。
◇
翌日、ラグさんに会いに、研究所に向かった。
研究所兼管理施設ということらしいが、俺たちは主に研究所として訪れている。
入り口に着いたところで、守衛にラグさんからもらったカードを見せた。
「おはようございますワン。ラグ所長は所長室にいるワン。場所は分かりますかワン?」
「あ、はい。以前案内いただきましたので」
「では、どうぞ、お入りくださいワン」
「ん? 勝手に行って大丈夫ですか?」
「はいワン。所長からそのように伺っていますワン」
「そうなんですね。ありがとうございます」
さすがラグ所長。俺たちを信頼しつつ、守衛の手前を省く采配をしてくれていた。俺たちは間違って変なところに迷い込まないよう、モカの後ろについて所長室に向かった。
(トントン)
「はあいニャ」
「おはようございます。戻ってきました」
「おかえりなさいニャ! こちらへどうぞニャ」
前回同様、椅子に案内された。ラグさんとモカのお話が始まった。
「遺跡までたどり着けましたかニャ?」
「ええ、道が続いていましたので」
「おお、さすがニャ」
「まさに遺跡という感じで、かなり古いものでした」
「そうなのかニャ。私は行ったことがないから知らなかったニャ」
「あの…… あそこの遺跡について、ラグさんの一族には何か伝わっていませんか?」
「ニャ? 遺跡があるということくらいしか父や母たちからも聞いたこと無いニャァ……」
ラグさんは心当たりが無いという顔をしている。
「そうですか…… じゃあ、ちょっと変な質問ですけど、ラグさんのご先祖は、『奇跡の超天才』テンと関わりがありませんか? テンや妻のマリと親しかったとか」
「ニャ!? どうしてそれを知っているニャ? ……たしかに仰るとおりニャ。だから、代々この研究所兼管理施設を任されているニャ」
「テンの目指す世界を実現させるためですね?」
「ニャ? テンの目指す世界かどうかは分からないニャ。でも、キメラと共存するにはどうしたら良いのかを一生懸命研究しているニャ。そのためにキメラの生態も研究しているニャ。だから、今1番期待されている研究者がモミジさんなのニャ」
「うーん。そうでしたか……」
「いったいあそこには何があったのですかニャ? 私の一族にも関係するものなのですかニャ?」
モカは少し考えてから話し始めた。
「……これからする話はラグさんの中にだけに留めておいてください」
「もちろんニャ」
「私の推測では、あの遺跡は、ラグさんのご先祖がテンやマリとともに過ごした場所だろうと思います」
「ニャ!? ご先祖様がニャ? そんな昔からある遺跡なのかニャ……」
「それに、あそこにはテンとマリの研究所跡と、たぶん2人のお墓があります」
「!?」
ラグさんは驚き、考え込んでいる。
「……テンとマリのお墓って、たしかこれまで見つかってなかったはずニャ」
「もちろん、2人のお墓という証拠はありません。私の想像だけですけど」
「想像できる状況にあったということかニャ?」
「そうです」
少し考えたラグさんはある結論に到達したようだ。
「ニャ? そのお墓を作ったのは、まさかニャ……」
「私の推測では、ラグさんのご先祖だと思います。他に作れる人がいないので」
「やっぱりそういうことになると思ったニャ……」
ラグさんは考え込んでいる。
「……テンたちが亡くなったから、ご先祖様はキメラヴィルに戻ってきて、研究を続けたのかニャ」
「そうかもしれませんね。その成果がキメラ園なのかもしれませんよ」
「そうかもしれないニャ」
大体報告が終わったところで、モカが違う話をし始めた。
「私たちはちょっと気になることがあるので、レイシュトのほうにしばらく戻ります。モミジさんはここでまだ研究するそうですので大丈夫です。向こうで少し都市を巡ったら戻ってきます」
「分かったニャ」
「なので、今日はこれを一緒に食べましょう!」
「これは、何かニャ? 見たことないニャ」
「これは『モカプルン』プイ」
「甘くておいしいノ」
これまでだまって聞いていたクルルとプリンが急に元気になった。
全員分並べて、みんなで食べることに。よく考えたら俺たちは今日2回目だが、それは気にしないことにした。
(パクッ)
「こ、これはおいしいニャ!」
「うふふっ。作り方はここに書いてあるから、みんなで作ってみてもらえるとうれしいわ」
「な、なんと心が広いニャ……」
「モカは『お菓子の神様』プイ」
「ヤマとモカは神様夫婦ナノ」
「納得ニャ……」
そのあと、俺たちはモカプルンパーティその2を楽しんだ。
◇
研究所をあとにした俺たちは、レイシュトにそろそろ行こうかと思ったが、目の前の畑にクルルとプリンが心を奪われているので寄ることにした。
いつものように、クルルとプリンは畑でまったりとし、俺とモカは休憩所で2人を眺めている。
「ねえ、ヤマ。レイシュトにはヤマ魔法で行きましょ」
「ん? 大丈夫かな?」
「さすがに大丈夫じゃないかな。私たちを何日も見かけないなんて既に普通のことだろうし」
「それもそうか。それにしても都市をひと回りすると時間かかりそうだよな。1カ月じゃ無理だよな」
「普通はそうよね。レイシュトに着いたら試してみたいことがあるの」
「おっ? 何か新しいこと?」
「うーん。そうでもないわ。以前も話したことがある内容よ」
しばらくして、とりあえず楽しんだクルルとプリンが戻ってきた。
「じゃあ、一旦家に行きましょう」
「そうしよう」
「「分かったプイ(ノ)」」
◇
家に入ると、モカは鍵をかけた。じゃないと、俺たちがいなくなったあと、鍵があいたままになるためだ。
「じゃあ、靴を持って行きましょう」
「プ? ヤマ魔法プイね?」
「そうよ」
「時間短縮ナノ」
部屋の隅に行き、俺の部屋につなげることにした。
(ヒュン)
(ヒュン)
俺の部屋を介することで、あっという間にレイシュトのユキさんの家の離れに着いた。
レイシュトからの出発は明日でいいだろう。今日はここで休むことにした。




