第111話 想定外の場所
護りの腕輪をかざした。
すると、いつものように、扉が開いた。
扉の向こうは、第1から第5施設よりはだいぶ広い部屋だった。だが、見た目は良く似ていた。そして、部屋の片隅には武器なども置いてあった。見た限り、第6施設と言って間違いなさそうだ。
部屋に入って進むと、やはり声をかけられた。ただ、いつもとは少し違った。
「テン? マリ? いや、あなたたちはテンでもマリでもありませんね?」
「はい。私たちはテンでもマリでもありません」
「そうですか。私には時間を知る機能がないため、テンとマリとお話してからどのくらい時間が経ったか分かりませんが、ずいぶんと話をしていません。どのくらい経っているでしょうか?」
「私の知る限り、1万年くらいだと思います」
「1万年? ではテンやマリはもう亡くなっているのですね?」
「はい、間違いないと思います」
「それだけ月日が経ってから、その護りの腕輪とネックレスを持つあなたたちが訪れたということは、ついに来たのですね。『世界の調停者』が」
初めて聞く言葉が登場した。
「いったい何のことでしょうか? 『世界の調停者』とは…… まさか……」
「テンとマリ、そしてユリが目指した世界を実現することができる者のことです。テンたちはそのように呼んでいました」
「テンたちが目指した世界とは何でしょうか? 時間が経ちすぎて私たちには伝わってないのです」
「そうですか…… では、説明しましょう」
何が語られるのか、モカが真剣な表情で機械が話すのを待つ。
「テンとマリ、そしてユリが目指した世界とは、『人間と全ての亜人とキメラが共存できる世界』です。彼らにはそれを実現できませんでした。また、彼らが生きているうちには実現できないと言っていました」
「そうですね。今現在もまだその世界は実現できていないと思います」
「すごいな。俺たちが目指している世界を1万年前に目指してたなんて」
「みなさん、他の施設と同様に順番にここに手を触れてください」
指示通り、順番に触れた。最後に触れたのは俺だ。
「最後に触れたあなた。あなたが『世界の調停者』ですね?」
「えっ?」
「やっぱりそういうことですか……」
「どういうこと? モカ?」
「特殊チップを持つもの、ということですよね?」
「あなたはマリのように賢いのですね。その通りです」
「えっ、でもこの特殊チップってユキさんに託されただけなんだけど……」
「ユキさんというのは、ユリの子孫ですか?」
「はい」
「そうであれば、あなたが『世界の調停者』で間違いありません」
「もう少し説明していただけますか?」
「分かりました」
とりあえず話を聞こう。俺とモカはそれがよさそうだと感じた。機械が語ってくれた。
「ご存知だと思いますが、特殊チップはテンが生み出しました。ですが、マリは早くから特殊チップの持つ力とその危険性を見抜いていました。力の使い方を間違えると、人間たちの関係に悪い影響を及ぼすと。マリはそれをテンに説明しました。テンは理解するとともに、そのことを教えてくれたマリに深く感謝していました」
「それと同時に特殊チップはすべての種族間をつなぐことができる『世界の調停者』が持つべきものだと考えるようになったのです。彼らは、キメラと共存する世界を目指していましたが、それはたやすいことではなかったからです」
「テンたちが目指すべき世界に気付いたときには、既にキメラにより多くの人間が殺されていました。そのため、人間の中にはキメラを恨むものが多くいたのです。そのような者が力に目覚めると、キメラを滅ぼしてしまうと考えたのです。そのため、『世界の調停者』として適した人間はこのキメラのいる世界にはいないのではないか、と考えたのです」
「ふんふん」
ついに、モカのふんふんタイムが始まった。
「キメラだけではなく、スミロ人に対しても同様です。テン自身も、スミロ人と敵対しすぎていました。人間を絶滅させないために、既に別の地域に追いやった形になってしまっていたのです。そのため自分たちがスミロ人を説得して共存するのは無理だと判断していました」
「これらのことから、少なくとも隔離されたスミロ人への直接的な恨みがなくなった世代において、さらに、キメラへの恨みが確実にない人間に目指す世界の実現を託すしかないと考えたのです」
「ふんふん」
「既に交わることのない状態のスミロ人はともかく、キメラと人間を隔離することはもはや不可能だった、というのも理由の1つでした。そのため、キメラへの恨みが確実にない人間はこの世界にはいないと考え、別の世界へ助けを求める方法をテンは研究しました」
「ふんふん、それがあの遺物ね……」
「はい。その結果、テンは自らが幼い頃に死に、キメラが生まれなかった世界と接続することを目指したのです」
「ふんふん」
「さらに、託す人間は、世界の未来を自分のために作り変えるような野心を持っていてはいけません。そういったことも考えているとテンは言っていました。ただ、そのような人は、長い間、現れないかもしれない。だから、今の状態で数百年くらい長く世界を維持できるよう、長期計画を立てたのです」
「ふんふん。ん? 数百年?」
「はい。1万年と聞き、私の持つ情報と違い驚きましたが、テンが聞いたらもっと驚いたでしょう」
「なるほど……」
機械も驚くのか。俺はそっちに驚いた。
「長期の維持のために作られたのが、既にご存知の護り人を育てる第1施設から第5施設です。施設は主にマリとユリの協力で作られました。テンは施設を維持する私のような存在と、護りのアクセサリー、護り人用の武器と護りのコートを生み出しました。武器に用いた硬い物質を岩石から作り出す方法は、ユリにも伝えられたそうです」
「さらに、これらの施設を護りのアクセサリーで封印することを思い付いたのはユリです。そのため、そのような扉にはユリの模様が付けられました」
「ふんふん。あれ? ここは第6施設ではないのですか?」
「ここは、『マリの施設』とテンたちは呼んでいました。テンとマリがここでずっと研究を続けたためです」
「なるほど……」
「マリの施設にはもっとも強力な武器と護りのコートがあります。また、火のコネクトを使うスミロ人に対抗するために必要となる水と風のコネクトも用意されています」
「ふんふん」
「おっ…… (水と風があるのか……)」
「ですが、第1施設から第5施設で力をつけた護り人が、このマリの施設でさらに力をつけるとスミロ人よりも強くなってしまうことにマリたちは気付きました。そこで、マリの施設を、来たるべきときが来るまで護り人たちから隠すことにしました」
「来たるべきときというのは、護り人が継承できなくなったとき、ですね?」
「はい。テンたちの記憶が強く残る世代は大丈夫でも、数百年もすれば記憶が薄れ、予定外のことが起きて継承できなくなると考えたのです。まさにそのときが『世界の調停者』に助けを求めるときだと定めたのです」
「なるほど……」
「第1施設から第5施設を巡ることで、施設近傍で育つキメラとちょうど良い均衡が保てたことも理由の1つです。それだけではなく、テンは人間にとって有用なキメラも生み出すことで、人間からキメラを絶滅させる動機を失わせることにしたのです」
「施設近傍でキメラが強くなるようにしたのは、人間にキメラを滅ぼさせないためですね」
「そのとおりです。これらにより、全体としてうまく均衡が取れたのです」
「そして、最後に、護り人がこのマリの施設に簡単に来れないようにするために、レイシュトより西側を封印し、西側からしか開けられないようにしたのです」
「えっ……」
「レイシュトより東側では、特殊チップとキメラを護るようユリの子孫に託されました。テンとマリは一部の信頼できる人たちと西側に残り、ここで研究を続けました。ただし、西側はスミロ人が住む地域に近く危険なため、テンとマリの子どもはユリに託されたそうです」
「西側に残ってテンたちが続けた研究は何でしょう?」
「主に、キメラの敵対心を減らす研究と言っていました。ですが、研究が完成する前にテンもマリもここに来なくなりました」
「亡くなったのですね……」
「おそらくそうです」
まさか、あのお墓がそうなのかもしれない。
「なあ、モカ、あのお墓……」
「ええ、たぶんテンとマリのお墓ね…… 一緒にいた人がお墓を作ったあと、ここから離れたんだわ」
分からなかったことがいろいろと理解できてきた。やはり、テンはとんでもない天才だ。
モカが少し考えたあと、機械に質問する。
「いろいろと教えていただきありがとうございます。レイシュトの護り人には『世界の調停者』という話は引き継がれていませんでした。それはなぜですか?」
「本来は引き継がれていたはずです。想定よりもあまりに長い時を経て、失われたのでしょう。どこまで護り人には引き継がれていたのですか?」
「護り人を継承できなくなったとき、遺物を使って、特殊チップを託すこと、くらいかしら……」
「託した人をこちらに連れてくることは引き継がれていなかったのですか?」
「えっ? 初めて聞きました」
「では、なぜ『世界の調停者』であるその方がここにいるのでしょうか?」
「えっ、それは――」
ものすごく簡単に俺がこちらに来た経緯をモカが説明した。恥ずかしい部分はうまくごまかしてくれた。
「情報提供ありがとうございます。奇跡としかいいようがありません。いくらテンでもそこまでの奇跡が起きるとは予想していなかったでしょう」
「ヤマも奇跡の人プイね!」
「そうナノ!」
ここまでだまって聞いていたクルルとプリンがなぜかうれしそうだ……
「ところで、テンの研究は完成しなかったと聞きましたが、どうやってキメラと共存する世界を作れば良いのでしょうか……」
「残念ながら、私には情報が登録されていません。テンやマリと親しくしていて、ここにもよく来て一緒に研究していたネコ人の子孫がもし生きているなら、研究が続けられているかもしれません」
「えっ、まさか…… そのネコ人は非常に綺麗な毛並みでしたか?」
「はい。非常に綺麗と言って良いでしょう。あとは青い目が特徴的でした」
「……間違いなさそうね。ラグさんがそのネコ人の子孫の可能性がありそうよ」
「戻ったら聞いてみよう」
「そうね。ありがとうございます。きっと、テンたちが目指した世界を実現できるようみんなで頑張ります」
「よろしくお願いします。あとは、ここでスミロ人にも負けないよう、力をつけることをおすすめします」
「あっ、そうだった! 確認してみようよ」
これまでの施設と同様に、できることをまずは確認してみよう。
◆◆◆
■AI細胞増加(増加後の最大スロット数60)
■AI細胞への登録
脳サポート機能(それぞれ最大レベル20)
コネクト能力向上(それぞれ最大レベル10)
コネクト接続先(『水』、『水』、『水』、『風』、『風』、『風』)
◆◆◆
「すごいな…… 水と風は3人が両方とも使えるように考えられたんだな」
「いや、4人よ」
「ん?」
「だって、第2施設にもあったじゃない」
「そうか」
「たぶん、世界の調停者を入れた4人でスミロ人のところに行くことを想定したんだわ。私たちはたまたまクルルとプリンがいるから、水と風がもう1つずつあるけど、そうじゃないことまで考えられたんだわ」
さすがテンとマリだ。いろいろなパターンを考えていたかもしれない。
「なるほどな。じゃあ、俺とクルルは風を、モカとプリンは水を登録しよう」
「そうしましょう」
「これで私も風を使えるプイ!」
「そうだよな」
「私も水でヤマのビリビリと組めるノ!」
「あとは、それぞれどこまで今伸ばせるかだな。想定してなかったから、最大にはとても届きそうにないけどな」
「また洞窟巡りをすればいいのよ。ちょっと早いけど、キメラも強くなってきているでしょうし」
「そうだな」
もう能力向上しないと思っていたから、ちょっと戸惑いつつ、それぞれの能力向上を行うことにした。




