第110話 研究所跡!?
研究所跡と思われる遺跡を、まずは外から眺め、中に入っても大丈夫かを確認することにした。
正面から見た2つの建物は、渡り廊下のようなものでつながっていた。左の建物のほうが少し大きいようだ。そのため、最初は左側にある建物の周りから確認し始めた。
ゆっくり歩きつつ、建物を見ながらモカと話し始めた。
「まさに廃墟というか遺跡という感じだよな。天井もかなり崩れているし、中は崩れたものでいっぱいで、もともとどうなっていたのか全然分からないな」
「そうね。この辺からはそう見えるわね。とりあえず裏にまわってみましょうか。何かあるかもしれないわ」
「そうだな」
左側から裏にまわろうとして、意外な事実に気付いた。
「あれ? この遺跡、山に食い込んでない?」
「そうみたいね。山が崩れてきたのか、それとも、最初から山とくっついていたか……」
「山が崩れたにしては、建物がしっかりしている気がするから、最初からこうだったんじゃないかな」
「うーん。まさかね……」
モカが考えている。こういうときはいつも俺たちは待つことにしている。
「……ヤマの言うとおりよね。山側は意外としっかりと残っているのよね…… ひょっとしたら、山の中に続いているのかもしれないわよ」
「えっ…… ここに見えている建物だけじゃないということ?」
「そうかもしれないわ。そうじゃなければ、山崩れを恐れて、山からもう少し離して建てるのが普通じゃない?」
なるほど。山のふもとに建てることを考えたらそうなのかもしれない。
「となると…… やっぱり中に入ってみたいよな……」
「ええ、もう1棟も見たら入れそうなところを探しましょう」
ここで、俺は大事なことを思い出した。
「プリン、クルル。中に生き物の気配はないかな?」
「「確認してみるプイ(ノ)」」
(ピクッ…… ピクッ…… ピクッ……)
(くんくん…… くんくん……)
「ここからだと特に感じないノ」
「私もプイ」
とりあえずキメラはいないか……
「ありがとう。となると、施設のある洞窟みたいにキメラを寄せ付ける何かがあるわけじゃなさそうだな」
「ヤマ、それすごく重要なことよ。施設のある洞窟は入り口あたりからキメラが多かったわ」
「だよな。だから、ここはそういうところじゃないということだな」
とりあえず強いキメラがいる危険性が低そうなことに少しだけ安心して、調査を再開することにした。
◇
次に、右側にあるほうの建物に向かった。
こちらのほうが少し小さい建物だ。
外から見た感じは左の建物とあまり変わらない。というより、こちらもかなり崩れていて、同じくらいよく分からないというのが正しそうだ。
しかたがないので、こっちも山に食い込んでいるか確認するために、右側に大きく回り込んだ。だが、後ろに到達する前に、すぐに左の建物との違いに気付くことができた。
「こっちは山から離れているよな」
「そうね」
もう1つの建物と違って、山から壁まで数m以上はあきらかに離れている。となると、やはり、もう1つのほうは山の中に続いている可能性がありそうだ。
山との間を見ている俺とモカとは対照的に、クルルとプリンは周囲を探ってくれている。
(ピクッ…… ピクッ……)
(くんくん)
「こっちの建物も、何も音がしないノ」
「生き物のにおいもしないプイ」
「ありがとう」
「どちらもキメラの危険性はなさそうね」
「じゃあ、とりあえず入れそうなところから入ってみるか。俺は壁とかが崩れてきたら対処する必要があるから、主な調査はモカがしてくれる?」
「分かったわ。まずはこっちの小さい建物からね」
「そうだな」
壁が崩れているところから慎重に中に入った。
中はボロボロだ。まともに残っているのは石でできているであろう床くらいだ。
壁も石でできているが、過去の地震とかで崩れたのかもしれない。壁の1番高い位置からすると、ひょっとしたら2階建てかもしれないが、上に上がるような階段や、2階の床らしきものは見つけられなかった。
その代わり、土器のような入れ物の破片がたくさん見つかった。あとは、ナイフのようなものや、生き物の骨が固まっている部分もあった。
どうやら、生活のための建物だったようだ。
「ここは生活の場所に見えるわね。食器っぽいものもあるし、あれは包丁なのかしら。それは銅で作られているし、こっちは鉄かしら。これは…… まさか、玉鋼かしら……」
「ん? これが銅?」
「錆びて色は変わっているけどね」
「玉鋼って、刀のもとになるやつ?」
「そうよ。見ただけでは分からないわ。なんとなく、そう思っただけだから」
モカの『なんとなく』は大体合っていることが多いので、確証がないだけだろう。
「なるほどな。骨がいっぱいあるのは、食べた跡なのかな」
「それは間違いないと思うわ。骨に傷がついているもの。でも、うーん……」
モカが考えている。何か変なことが、あるのだろうか。
「……ここっていつまで使われていたのかしら。もし仮に1万年前だとすると、銅はともかく鉄とかがあるとしたらとんでもなく発展してることになるわよ。数千年は一気に進んだことになるわ」
「そういうものなのか。でも、建物の感じは歴史で習うような1万年前のものとは違うよな」
「そうね。千年前のものかもしれないし、1万年前としてもテンによって発展したって言ってたから、そもそも私たちの常識で考えちゃダメなのね……」
俺たちだとG世界の常識が邪魔をしてしまいそうだ。やはりこういうときはクルルとプリンの意見を聞くべきだ。
「クルルとプリンはどう? 何か気になることある?」
「うーん、この骨はキメラの骨ナノ?」
「えっ? そうね。この骨が何の骨なのかは大事かもしれないわね。でも、何か特徴がないと私には分からないわね…… せめて頭の骨があればいいんだけど。モミジさんなら分かるかもしれないわね。他に何も見つからなかったら、少し持って帰るのはありかもしれないわ」
運良く見たことのないキメラの種類だったり、キメラの元となった動物の可能性もありそうだから、モミジさんの研究の役に立つかもしれない。
ただ、ここがいつくらいの遺跡なのか全く分からないから、どこまで意味があるのかは俺には分からない。G世界のように年代を測定できる機械がないから、今はどうしようもなさそうだ。
一方、クルルは全然違う観点を気にしていたようだ。
「ここに人がいたとして、水はやっぱりコネクトを使ったプイか?」
「たしかに、このそばには川がないわね。水をためていた場所がないなら、コネクトを使うしかないわよね。そうだとすると、コネクトが使えるようになったあと、つまりテンが生まれたあとの遺跡ね。それにしても、そもそもなんでこんな場所にこの建物を作ろうとしたのかしら」
「そうだな……」
こっちの建物だけで分かることはこれ以上はあまりなさそうだ。
「そろそろ、もう1つの建物も見てみない? 別のことが分かるかもしれないし」
「そうね」
◇
もう1つの建物に向かった。
こちらも似たような感じではあるが、建物自体は大きい。中に入って気付いたのだが、見た限り、いくつかの部屋に分かれていたようだ。区切りの跡らしきものがあったからだ。ただ、今はほぼすべての壁が崩れていて、1つの大きな空間になっていた。
そんな中、圧倒的に異質なのは、山側の壁だ。
他と比べてかなり残っている。石垣のような壁だ。壁の手前にはいろいろなものが落ちていて、良く見えない部分もある。山の中に続いているなら、あの奥だろうか。
「山のほうの壁はかなり残っているな」
「明らかに丈夫に作ってあるわよね。ねえ、もしかしたら、あの壁以外のこっちの建物って後付けなんじゃない?」
「そうだよな。そんな風に見えるくらい異質だよな」
「そうなのよ。 ……奥に行ってみましょう」
「足元に気を付けて行こう」
壁のそばまで行くと、崩れ落ちてきたと思われる天井が壁の一部を覆い隠しているのが目についた。
「この天井みたいなやつ邪魔だよな。壊して大丈夫かな?」
「周りとはつながってなさそうだから、壊しても大丈夫に見えるわね」
「クルル。メイスで軽く叩いてみてくれない?」
「分かったプイ」
(トントン…… ドン…… ドン!)
(ズザザザ……)
天井だったものが壊れて壁が見えた。
「プ!」
「これは……」
「扉ね……」
プリンが扉に向かった。壁との隙間をのぞきこんでいる。
「鍵は…… たぶんかかっているノ」
「しかも、これ金属でできている扉だな」
「錆びてないのはなんでかしら。新しいのか、錆びにくい金属を作る技術がもうあったのかしら……」
「さすがにここにあって錆びないなら、そういう金属なんじゃないかな? ラグさんから聞いた話だと、この辺には誰も来ないわけだし」
「そうね……」
見ててもこれ以上は分かりそうにないので、開けてみることにする。
「とりあえず俺が開けるよ?」
「うん。気を付けて」
扉の周囲を良く確認しておく。扉を開けた瞬間に崩れられても困るためだ。だが、見た感じ、しっかりしているからきっと大丈夫だろう。
次に扉の鍵の部分をのぞいた。普通の鍵と同じようだ。扉には普通にノブが付いている。そんなに古くないのだろう、と勝手に想像した。
(スッ)
(ギギギッ)
ちょっと古い感じの扉のように開けることができた。
◇
扉の向こうは薄暗い通路だった。
モカが光を当ててくれた。通路はそれなりに長いようだ。特に崩れているところはない。どうやら石で壁が作られているようだ。
(ごくり……)
「……中に入ろう」
「うん。ドキドキするわね」
「ちょっと怖いプイ」
「私もナノ」
「くっついてみんなで一緒に行こう」
「「そうするプイ(ノ)」」
「やっぱりこれよね」
◇
もふもふのおかげで心の安定を取り戻した俺たちは、そろりそろりと慎重に入っていく。
しばらく進むと、道が真っ直ぐと右に分かれていた。右側は少し行ったところにまた扉があるようだ。
「右側はすぐ見えるから、そっちから行くか」
「そうね」
右側にあった扉は入り口のものと似ていたが、鍵はかかっていないようだ。何かの保管庫だろうか。
「開けてみるよ?」
「うん……」
(ギギギッ)
モカが光を当てた。
「これは……」
「プ?」
「ナ!?」
「お墓…… みたいね」
それほど広くない部屋の真ん中あたりに、2人分と思われるお墓があった。小さな石のブロックで囲ったシンプルなお墓だ。墓標は見当たらないため、誰のお墓かは分からない。
「あまり中には入らないほうがいいわね」
「そうだな。別にお墓を調査したいわけじゃないし、死者の眠りを妨げるのは俺の趣味じゃないな」
「うふふっ、ヤマはたぶん怖いだけよね」
「そう思うプイ」
「ヤマはそういうところがかわいいノ」
「……」
半分以上当たっているだけに下手に反論できない……
「まあ、ヤマの趣味はともかく、お墓を荒らさないのは私も賛成よ。それに、ここから見た限り、お墓以外には何もないわよね?」
モカが入念に光を当てて確認している。たしかに何もない。
「これが王様のお墓とかなら副葬品とかがありそうなものなのにね。ここに埋葬されている人はどんな人なのかしら?」
「そりゃ、ここの建物の1番偉い人なんじゃない?」
「まあ、普通に考えたらそうなんだけど、こんな町から離れた場所に作るかしら?」
「たしかに、普通ならお墓参りできる場所とかに作るか……」
「あるいは、ここでひっそりと眠りたかった人なのかしらね……」
2人並んでいる。関係が深い2人のようにも見える。
「2人ということは、夫婦かな?」
「まあ、それが良くある組み合わせかしら」
「誰のものかは分からないしな。……じゃあ、そろそろ扉を閉めて行こうか」
「そうね」
お墓の扉を閉めて、もと来た道に戻った。
今度は最初の入り口から見て真っ直ぐ、今来た方向から見たら右に進むことにした。
◇
少しだけ道が続いた。モカの光が続く道にある壁をとらえた。これ以上は道は分かれておらず行き止まりのようだ。ただし、行き止まりには扉がある。
そこにあったものがさすがに予想外のもので、俺たちは驚いてしまった。
「えっ!? これって……」
「なんでここにあるプイ?」
「不思議ナノ……」
「まさか…… ここにもあったなんて」
「モカが以前気にしていたことが正解だったのかもしれないな」
「その可能性もあるわね」
扉には、ユリの模様が刻まれていた!




