第109話 遺跡を目指して
久しぶりにぐっすりと眠った。みんな今日は少しだけ寝坊気味だ。
とは言え、朝ご飯を食べ終わったので、まずキメラ肉を売りに行こう。
たぶん、モミジさんはしばらく滞在すると言うだろう、そんな気がするからだ。
キメラ肉を手に入れるのは俺たちがいないと厳しいから、今のうちに必要なお金を稼いでおきたい。
道具屋や食べ物を売っているところは通りに出たらすぐに見つかるところにあった。キメラ肉をしっかりと換金した俺たちは、そのお金をモミジさんに渡した。
「えっ? 私?」
「持っててほしいの。私たちはいつでもキメラ肉を手に入れられるから平気だし、たぶん必要だから」
「え……」
「キメラ園に行けば分かるわ」
そのまま俺たちはキメラ園に向かった。まずは軽く1周しておいたほうが良いだろう。前回同様にチケットを購入して、キメラ園に入った。
そこから先はモミジさんは驚きというか感動の連続のようだった。
俺たちの行動とかで驚いていたときとはちょっと質の違う驚きだ。『探していたものを見つけた』、そういう感じだ。
1周見終わったあとには、モミジさんは決意に満ちた顔をしていた。
だが、その話はあとでどうせすることになるため、とりあえずラグさんのところに向かうことにした。
◇
研究所兼管理施設に入り、守衛にラグさんからもらったカードを見せた。
「お待ちしておりましたワン。どうぞワン」
「ありがとうございます」
守衛の1人がラグさんの部屋に案内してくれた。
(トントン)
「はあいニャ」
「ラグ所長、ヤマ様たちがいらっしゃいましたワン」
「どうぞニャ」
俺たちは部屋に入ると、守衛は元の持ち場に帰って行った。
「こんにちわ。キメラ研究所から研究者のモミジさんを連れてきました」
「はじめまして、モミジと言います。よろしくお願いします」
「ここの所長をしていますラグですニャ。こちらこそ、ご協力いただけて本当うれしいですニャ。こちらへどうぞニャ」
椅子に案内された。
椅子に座ってしまうと箱を出すタイミングを逸しそうなので、ラグさんが向こうを向いた隙に出しておく。
「ようこそ、お越しくださいまし…… ニャ? ヤマ様、その箱は何ですかニャ?」
「あっ、気付かれちゃいましたね。どうしよう。先にこの箱の話をしてもいいかな?」
「いいと思うわよ」
俺はユミさんの手紙をラグさんに渡した。
「この手紙は…… ニャ! ユミ様からニャ!」
ラグさんは手紙を読むと、箱に目を移した。
「ユミさんも俺と同じものをラグさんに贈ろうとしてたみたいです。これはユミさんが大切にしていたものだそうです。ユミさんの孫のユキさんから託されました」
「ありがとうございますニャ……」
「ユミ様は…… その……」
「もう亡くなっているのですニャ?」
「はい。ご病気でずいぶん前に」
「そうですかニャ。でも、これを届けていただけて本当に…… 本当にうれしいニャ……」
ラグさんは涙を流して箱を撫でている。
だが、次の瞬間、箱に入った!
「ニャ! 思わず入ってしまったニャ! ユミ様……」
「す、すごいわ…… これがネコ人の神様の力……」
モミジさんも驚いている。俺たちには見慣れた光景ではあるが。
ユミさんは俺たちが目の前にいることに気付き、慌ててもとに戻った。
「こ、これは失礼しましたニャ……」
「大丈夫ですよ。ネコ人にとってこの箱は入らないわけにはいかないものですから」
「この箱と手紙は私の宝物ですニャ」
「お届けできて良かったです」
ようやくラグさんが少し落ち着いたようだ。モミジさんのほうを向いて話を始めた。
「あらためまして、ようこそお越しくださいましたニャ。キメラ園はもうご覧になりましたかニャ?」
「はい。本当に驚きました」
モミジさんは姿勢を正した。
「あ、あの…… ここで、研究をさせていただけないでしょうか?」
「ニャ? もちろん私たちは歓迎ですが、キメラ研究所は大丈夫ですかニャ?」
「向こうでできる研究には限りがあるのです。それに、私は…… キメラと仲良くなるための研究がしたいのです。お願いします!」
やはり、モミジさんならこうなると思った。ラグさんは少し驚いた表情をしたあと、穏やかな口調で答える。
「分かりました。モミジさんのその気持ち、十分にここで働く資格があると判断します。さっそく、空いている研究室を使っていただいて構いません。後ほど細かいところは相談しましょう」
「ありがとうございます!」
俺とモカは顔を見合わせてうなずく。モカが話を始めた。
「私たちは実はこうなるだろうな、と思っていました。モミジさんならそう言うだろうって」
「俺もキメラと仲良くしたいし、モミジさんがそういう研究してくれるとうれしいな」
「研究結果が出るまでには時間がかかるでしょうから、その間私たちはちょっとお出かけしましょうか」
「あっ、そうだよな!」
モカが続ける。
「ラグさん。キメラヴィルから南、たぶん南東のほうだと思うのですが、道が続いているように見えました。あちらはどこにつながっているのですか?」
「南ですかニャ? あちらの先には遺跡があるだけニャ。あの辺りはキメラも多いから、誰も行かないニャ」
「遺跡ですか…… モカ、行ってみるよな?」
「ええ、もちろん」
「ニャ!? ユミ様たちと同じ強さのヤマ様たちならたぶん大丈夫なのだと思いますけど、気を付けてくださいニャ」
「もちろん、必ず帰ってきますから」
モミジさんとは一旦ここで別れる形かな。
「あっ、モミジさん、家はそのまま使ってもらっていいですよ。鍵はお渡ししましたし、合鍵は俺たちも持ってますから」
「ヤマさんたち、ここまで予想してさっきキメラのお肉を……」
「だって、私たち、先にキメラ園を見てたんだもの。それに、私たちが町の外にいる間、誰かに家を管理しててほしいじゃない? だから、家の管理をよろしくね! 私たちもキメラヴィルに泊まるときはあの家に泊まるから」
「分かったわ。しっかり管理するわ! うふふっ」
「うふふっ」
「では、モミジさんはこの研究所で大切にお預かりいたしますニャ。またいつでもお越しくださいニャ」
「ありがとうございます。とりあえず遺跡を見に行ったらまた来ますね。では、私たちはひと足お先に失礼します」
俺たちはここでモミジさんとは別行動をすることにした。
◇
研究所をあとにした俺たちは、そのまま遺跡に向かっても良かったが、とりあえず畑に少し寄って、休憩してから行くことにした。
「やっぱりモミジさんはここで研究したいってなったわね」
「だよな。あのキメラたちを見たら、元のキメラ研究所には戻れないよな」
「探し求めていたものがここにあったわけだものね」
俺たちがモミジさんの気持ちに思いを馳せている一方で、クルルとプリンは畑を満喫している。いつの間にかモル人、ウサ人と仲良く野菜をつまみ食いしている。
「クルルたちは相変わらずね。でもああいうのが本当癒しなのよね」
「そうなんだよ。俺たちらしくていいじゃない。 ……ところで、遺跡って何の遺跡だろうな」
「今は見当もつかないわ。ただ、スミロ人の村に行く前にやれることは全部やっておかないといけない気がするの」
「だよな。今の俺たちじゃ、生きて帰れる保証がないからな」
「そうよ。せめて今見えている謎の答えは見つけてから行きたいわ」
しばらく畑を満喫したクルルとプリンが戻ってきた。
「もう大丈夫?」
「大丈夫プイ」
「そろそろ遺跡に行くノ」
「そうだな。行こう」
そのまま、南門に向かうことにした。
◇
南門のそばの衛兵施設の横を通り、門まで来た。
門から見える先は、道はあるもののどこまで続いているかは分からない。ただ、遠くに山が見えているから、その手前のどこかが目的地だろう。見た感じ、数日歩けば着きそうな気がする。
門から出たあと、道はほぼ南方向に続いているようだった。門を出て、しばらく行くとキメラがやはり襲ってきた。あれはウマシカだ。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
プリンがあっさり倒す。どうやら強さが違うとかはなさそうだ。
「どう? 他の地域と比べて」
「あんまり変わらないと思うノ」
「でも、なんかたくさんいそうプイ」
「普段誰も通らないからかしらね」
たしかにモカの言うように、道はあるものの人が通っている気配はない。ここに道があると分かる最大の理由は、細い石畳があるからだ。もし、この石畳がなければ、ここに道があることすら分からないのではないだろうか。東の山、あの洞窟への道のほうがまだ人が通った気配が残っていた。
進むとまたキメラに遭遇した。今度はイノウマだ。風を使って勢い良く向かってきた。
(ピカッ!)
(ヒヒンッ)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
モカが光でサポートした。相手の勢いを消しさえすれば余裕だ。
またさらにキメラが襲ってきた。今度はニワウマだ。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
なんかウマ系ばかりのようだ。ニワウマはきっとおいしいだろうから、お肉としてとっておく。
「ウマ系が多いな」
「開けている地域だからかしら。自由に走れるから」
「あるいはもともとウマが多い地域だったか」
「そうかもしれないわね」
その後もウマ系が続いた。
◇
次の日、少し進むとウマ系以外が初登場した。
「おっ、今度はウマじゃなさそうだよな。あれは、サイガメだな」
(ザバッ)
(ビリビリ!)
(ビクビクッ!)
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
カメ系は硬いし、甲羅に隠れられると若干面倒だが、しびれさせれば簡単だ。
少し行くと、今度はサイトラだ。どうやら次はサイ系の地域のようだ。
(ピカッ!)
(ガ、ガゥッ!)
(ヒュッ! ヒュッ!)
(……ドサッ)
やはり、モカが光でサポートした。急に強いキメラが出るかもしれないから、油断はできない。サイ系はウマ系ほどは数がいないようだ。昨日に比べて襲撃頻度が少ない。
◇
次の日は、またウマ系が続いた。さらに翌日、また系統が変わる。
「今度はイノウシだな。今日はイノシシ系かウシ系か……」
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
しばらく行くと、ブタウシが出た。
「おっ、高級食材が来た!」
俺の声に反応したブタウシが突進してきてしまった。
「もう、ヤマったら興奮しすぎよ」
(ピカッ!)
(ブモッ)
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
モカが相手の突進を止めてくれた。おいしいお肉が食べられると思って興奮してしまったことを反省する……
そのあともウシ系が続いた。
◇
次の日、だいぶ山に近づいてきたこともあり、山で出るキメラに変わった。ほとんどがワシ系だ。
「なんかここに来るまでのキメラの分布は特徴的だったな。かなり似た種族で固まっていたよな」
「そうね。ここまで固まっていたのは初めてよね」
「でも、みんな襲ってきたプイ」
「そうナノ」
「そうね。キメラ園のキメラとは違うわね」
実際に戦っている感触としても、種族が固まっている以外は特に変わりない感じがする。
「あと、施設の洞窟みたいに強いキメラもいないよな?」
「いなかったノ」
「見た感じ、キラキラの鉱石が落ちてることもないし、そこは東側と同じよね」
「プッ! 建物が見えてきたプイ!」
「ん? おっ、ほんとだ。意外と大きくないか?」
「そうよね。町みたいな建物群を想像してたんだけど、どちらかというと並行世界研究所みたいなところね」
たしかに並行世界研究所みたいに大きな建物が少数だけあるように感じる。
「まさか…… 研究所の遺跡?」
「かもしれないわね」
近づくにつれ、俺たちの予想が正しそうなことが分かってくる。
遺跡に到着した俺たちの前には、研究所跡と言って良さそうな、だが、ボロボロになった建物が2棟並んでいた。




