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第108話 続 護衛その2

 ユキさんの研究室の奥にある扉を通って、洞窟に入った。


 モミジさんは終始驚いていた。


「ここって、私なんかが通っていい場所なの?」


「うーん。普通はダメなんでしょうね。でも、ここから行かないと山越えしかないわよ?」


「そ、そうなのね……」


「それに、もう本当にいろいろ例外が起きすぎているから、これくらいは大丈夫だと思うのよね」


 モカの軽い返事にモミジさんはタジタジだ。



 ユキさんが助け舟を出してくれた。


「モミジちゃん、いいのよ。ここはもともと私の一族が護っていたところ。今はもう私しか生き残りがいないの。だから、私がいいって言っている以上、問題ないのよ」


「そうなのね」



 今の話で思い出した。モカも同じようだ。


「あの、ユミさんはもうお亡くなりになっている?」


「ええ、お祖母様もお祖父様もずいぶん前に病気で亡くなったわ。私の腕輪はお祖母様から受け継いだものなの」


「そうだったのですね。ラグさんに会ったらお伝えしておきますね」


「そうですよね。何かお祖母様縁のものがあればいいんだけど」



 ユキさんは考え込んでいる。


「……あっ! あそこにあったはずだわ。ちょっと寄り道していい?」


「もちろんいいですよ」




 通路があるところのそばの別の部屋に案内された。何やらユキさんが探している。


「たしかお祖母様が大切にしていたものがこのあたりにあったはずなの。お母様に託しているのを見たことがあるのよ。これかしら? うーん。でも中身は空っぽね。手紙は見つかったんだけど…… 失くしちゃったのかしら…… どうしよう……」


「ちょっと見せてもらっていいですか?」


「ん? どうぞ」


 気になった俺が手紙を見せてもらった。



◆◆◆

 ラグちゃんへ



 楽しみにしていたものを作りました。


 これを届けるときまで、私が生きていられるかは分からないし、ラグちゃんもずっと大きくなっているでしょう。


 でも、きっと、きっと、入りたくなりますよ!



 ユミより

◆◆◆



 ユキさんは空箱しか見当たらなくてかなりショックを受けている。


 だが、そうではない。これこそがユミさんからラグさんへの贈り物だ!


「ユキさん、その箱がラグさんへの贈り物ですよ」


「え? この箱が? でも、空っぽよ?」


「空っぽだからいいんですよ」


「え?」



 クルルたちは分かったようだ。


「これはネコ人の神様同士にしか分からない神様の道具プイ」


「そうナノ。ガトアルデでも、ヤマが作った空箱にネコ人がどんどん吸い寄せられて入っていったノ。大人も子どももみんな夢中だったノ」



「え!?」



「いや、神の道具も何も単なる箱なんだけどね。ネコ人はこういう箱が大好きなんです。それに、ラグさんにはそのお手紙も宝物になりそうですね」


「そ、そうなのね…… 良かったわ。では、ヤマさんに託してもいいでしょうか?」


「もちろんです」



(スッ)



 箱をインベントリにしまっておいた。箱自体はしっかりとした木でできているから今でも全然問題なく入れそうだ。



「本当に何から何まで規格外すぎるのよ、ヤマさんは……」


 横でモミジさんは驚きを通り越して呆れているようだったが。





◇


 無事にユミさんからの贈り物を託された俺たちは、ユキさんに見送られながら通路に踏み出した。


 さすがに暗いので、モカが明るくした。


「えっ、モカさん、それって……」


「ん? ひょっとして見たことあるかしら?」


「ずっと私の記憶違いだと思っていたんだけど、昔、まだ私が小さかった頃にノエさんが使っていたのを見た気がするの……」


「そうなのね…… たぶん記憶違いじゃないわよ。でも、内緒にしてね!」


「分かったわ。そういえば、ノエさんにもそう言われた気が……」




 唖然としてばかりでかわいそうなので、フォローしておこう。


「明るくて便利でしょ?」


「えっ? そ、そうね」


「俺の便利技みたいにみんなそれぞれ便利な技があるんだよ」


「え……」


「ヤマ、全然フォローになってないわよ……」


「えっ、そう?」



 とりあえずフォローに失敗したらしいので、諦めて通路を進むことにした……


 通路は長いものの、キメラがいるわけではないので、少し急ぎ足で進む。




 しばらくして、行き止まりが見えてきた。


「ここから向こうが、また別の洞窟よ。今はクルルの岩でふさいでいるけど」


「プリン、念のため、向こうの気配を確認してもらえる?」


「分かったノ」


(ピクッ…… ピクッ……)


「大丈夫ナノ」


「ありがとう。じゃ、行こうか」



(スッ)



「えっ……」



 ふさいでいた岩を消して進む。


「じゃあ、クルル、またふさいでくれる?」


「まかせてプイ」



(ドン!)



「えっ……」



「じゃ、行こうか」


「あっちよ」


「プリン、クルル、周りの確認をよろしくな」


「「分かったプイ(ノ)」」



 ここはまだキメラがいない場所だ。万一誰かに遭遇するかもしれないが、今のところ生き物自体を見たことがない。今回も特に生き物の気配はなく、出口まで真っ直ぐ進んだ。





◇


「さて、ここから先はキメラがいる地域になるから気を付けて行きましょうか。感覚的にはフィナルメンシウタットそばの山にいると思ってもらうと近いと思いますよ」


「えっ!? それものすごく危険じゃない?」


「大丈夫よ。私たちが護るから」


(ガガガッ)


 扉を開いた。すぐにあらかじめ決めておいた並びになった。




 小声でプリンとクルルに聞く。


「プリン、クルル、キメラはいそう?」


(ピクッ…… ピクッ……)

(くんくん)


「すぐそばにはいないけど、離れたところにはたくさんいるノ」

「私もそう思うプイ」


「ありがとう。今のうちに進もう」




 周囲に気を付けつつ、山を下りていく。やはり、山にはキメラが多く住んでいるようだ。


(ヒュッ)

(……ドサッ)



 ほとんどプリンが片付けてくれるが、油断してはいけない。モミジさんが1発でも食らったらアウトだ。警戒しながら進むとプリンが止まった。


(ピクッ…… ピクッ……)

(くんくん)


「これは…… クマワシかもしれないノ。強い羽根の音が聞こえたの」

「においもそうかもしれないプイ」


「このあたりでは1番厄介な相手よね」


「そうだな……」




 狭い場所で岩を使われると危ない。それに岩壁を作ると、壁自体が崩れるかもしれない。


「こんな柔らかい傾いた地面に壁は作れないな。モカ、風でモミジさんを護ってほしい」


「もちろんよ。木が多くあって、自由に飛びにくいはずよ。だから前と違って水は使えると思うの。でも、ヤマは岩の対処を最優先にしてほしいわ」


「そうだな。この地形を利用してくるかもしれない」


「上から岩を転がしてくるということね。気を付けましょう」



「わ、私はどうしたら?」


「大丈夫よ。私のそばにいて自分で動かないでね」


「わ、分かったわ」




 ちょっと思い付いたことがある。


「プリン、クルル。氷も溶けたら水だし、氷で水を隠せるかもしれないよ」


「なるほどナノ。クルルの水と一緒に氷を出すということナノね」


「そう。氷か水が当たればしびれさせられるから、そしたらプリンの居合抜きで。俺はすぐに岩の対処に行くから」


「「分かったプイ(ノ)」」



 向こうがこちらに気付かないことを祈りつつ進む。だが、気付かないなんてことはやはりなく、こちらに向かってきた。



「来たプイ」


(ズバババン)

(ドン!)

(ザバッ!)


 クルルとプリンが一気に水と氷で攻撃した。


 最初の水の弾丸はほぼかわされたが、氷の塊をよけた先で水が降ってくるのは予想外だったようで、クマワシが水をかぶる。


(ブカッ!)

(ドン)


 怒ったクマワシは、俺が放電を使う前に岩を山の上側から落として来た。たぶんあらかじめ出すつもりでいたのだろう。


(ヒューッ)


 モカがモミジさんごと避難した。俺たちはまだ濡れていない。これならなんとかなるかもしれない。


(ビリビリ!)

(ビクビクッ!)

(ブ、ブッ……)

(ヒュッ! ヒュッ!)



 放電でしびれさせることまではできたが、気絶はしていないようだ。動きは封じたため、居合抜きが予定通りさく裂した。


 これでクマワシを倒せるのはほぼ確定だ。


 あとは岩を消さねば。クルルの叫び声が聞こえた。



「ヤマ、あっちプイ!」


(ゴロゴロ! バキバキッ!)


 思っていたよりたくさんの岩が1列になって木をなぎ倒しながら落ちてきた。普通なら飛ばない限り逃げられない。普通なら。


 俺は焦らずに岩を消していく。当然、他にないかも確認しつつ。


(スッスッスッスッスッ)

(スッ! スッ!)


 転がってくる大量の岩と空中に出てきた岩をすべて消した。



(……ドサッ)


 岩を全部消したとほぼ同時にプリンの居合抜きによりクマワシは息絶えていた。



「ふう、うまくいったな」


「そうね。クルルの視力のおかげね」


「そうだな。気付くのが早かったから全部消せたよ」


「えへへプイ。プリンの居合抜きが発動してたから、私たちはあとは護るだけだったプイ」


「そうよね。私もあのあとは護ることしか考えてなかったわ。さすがプリンよ」


「えへへナノ」



「ほんとすごいわね…… 見たことのないすごい戦いだったわ。シカトラを余裕で倒せるのも納得だわ…… それにさっきのキメラ、見たことがなかったわ」


「そうなんですか? 並行世界研究所でもこの前出たんですよ」


「えっ? 姉を護っていただいたときですか?」


「そうそう」


「あんなのに会ったら姉たちだけだったら絶対助からないわ……」


「まあ、あいつはなんか最後に相討ち狙いにくる厄介なキメラなんで危険なんですよね」


「あれはヤマじゃないと対処が難しいプイ」


「そうナノ。倒すだけなら簡単でも、無傷で倒すにはヤマが必要ナノ」


「そ、そうなのね……」



 さすがにモミジさんも驚きで固まっている。このレベルの戦いは普通では見られないからしかたがない。それでも奥の手は使っていないのだが。



「ま、とにかく、みんな無事で何よりだな。今のうちに下山しちゃおう」


「そうね。急ぎましょう」



 そのあとも数匹のキメラをプリンが一瞬で倒し、夕方前には下山できた。





◇


「今日はここでキャンプして、明日進もう」


「そうね。モミジさんも疲れたでしょうしね」


「ありがとう」




 例によって、土壁で防護してキャンプをする。それでもここでは見張りを欠かすことはできない。


「私だけじゃ、とても来れないわ。私だけじゃないわ。ヤマさんたちがいなかったら誰も来れないわ」


「なるほど。そういう考え方もあるか。何もしなくてもキメラがいるから自然と行き来できなくなるわけか……」


「そうよね。山を越えることも誰も考えないわけだし、自然に壁になっているのよ」


「そういう常識というか先入観を乗り越えるのは大変なの。ヤマさんたちだからできているのよ」


「まあ、俺たちはこの辺の常識がないからしかたないよな」


「そうね」




「ところで、ここからキメラヴィルまでどのくらいなの?」


「3日くらいかしら? 夜でもとにかくたどり着けば、私たちの家で休めるわよ」


「えっ、家?」


「あれ? 言わなかったかしら。キメラヴィルって宿屋もないのよ。だから、家を借りたの」


「そうなのね」



 モミジさんのあの顔は住む家をどうするか考えているようだ。モカも察してすぐに言う。


「私たちの家を一緒に使いましょ」


「えっ? いいの?」


「もちろんいいわよ。あっ、お金は向こうと同じなの。もし、手持ちが無かったらあとで渡すけど、大丈夫かしら?」


「ええ、お金は持っているから大丈夫よ」



「一応、この先でキメラに襲われたら肉を取っておこう。それを売ればしばらく生活には困らないだろうから」


「なんか何から何まで本当ありがとう」


「いいのよ。私たちが来てほしいから連れて来ちゃったわけだし」


「さあ、明日からまた歩かないといけないからもう休もう」


「そうね」





◇


 翌朝からキメラヴィルに向けて進んだ。


 山と違って、ある程度見通しがきくため、キメラを見つけやすい反面、見つかりやすい。


 結果的に何度かキメラに襲われた。その中でもおいしそうな肉をいくつか取っておいた。




 平地というだけでだいぶ護りやすく、3日ほどでキメラヴィルに到着できた。


「本当にこんなところに町があるのね……」


「でも、あれを見たらもっと驚くわよ」


「そ、そうよね……」




 町に入り、俺たちの家に向かった。


 モミジさんはキョロキョロしている。


「町自体は本当に向こうと変わらないわね」


「そうなの。宿屋がないのにはちょっと驚いたけどね。家はこっちよ」



 モミジさんを連れて、家にたどり着くことができた。


 家に入って、ゆっくりとくつろぐと同時にプレッシャーから少し解放された気がした。俺たちですらそうなのだから、モミジさんの緊張はすさまじかっただろう。疲れ切った顔をしている。


 今日はゆっくりお風呂に入って疲れを癒やそう。




 ようやくここまでのモミジさん護衛任務を完了できた俺たちだった。


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