第104話 深まる謎
キメラ園をちょうど1周した形になった俺たちは入り口そばの建物のあたりに戻ってきた。
意を決して建物に入った。
建物に入るとすぐに守衛所があった。ここはモカに任せよう。
「何か御用ですかワン?」
「あ、あの、すみませんが、1つ伺ってもいいですか?」
「何でしょうかワン?」
「『奇跡の超天才』テンのことはご存知でしょうか?」
「ワン? 当たり前ですワン。どういうことですかワン?」
「実は、テンの妻マリの妹ユリの子孫の方に頼まれてこちらに来たのです。なので、ここのことを良くご存知の方に会わせていただけないかと思いまして」
「ワン!? ちょ、ちょっとお待ちくださいワン」
守衛のイヌ人が慌てて奥に行った。
しばらく待っているとネコ人を連れて帰ってきた。非常に綺麗な毛並みで青い目が美しいネコ人だ。
「お待たせしましたニャ。私はここの所長をしていますラグですニャ」
「はじめまして。モカと言います。こちらはヤマ、クルル、プリンです」
「こちらへどうぞニャ」
「あっ、ありがとうございます」
思った以上にすんなりと案内してくれた。大丈夫なのだろうか、と不安に思ったが、案内されたのは応接室のような立派な部屋だった。
「おかけくださいニャ」
「ありがとうございます」
椅子にみんなが座ったのを見届けてラグさんが話し始めた。
「みなさんはまだお若いですけど、ユミ様に頼まれていらっしゃったのですかニャ?」
「えっ? ユミさんのことをご存知なんですか? 私たちが頼まれたのはユミさんではなく、ユミさんの孫のユキさんです」
「ニャ? ユミ様のお孫さんですかニャ。私がユミ様とお会いしたのはもう何十年も前のことニャ。当時はまだお子さんもいなかったはずニャ。もうお孫さんがいらっしゃるのかニャ」
ラグさんが、見た目に反して、意外と年長者であることに俺は驚いた。もふもふがそう見せているのだろうか。
「そうだったのですね。てっきりキメラヴィルとレイシュトの交流はないものだと思っていました」
「普段は全くないニャ。でも、キメラヴィルは人口が少ないニャ。たまに違う血を混ぜないと維持できないニャ。なので、数十年に一度、ユミ様の家系の方の協力で、血を混ぜさせていただいていたニャ」
「なるほど」
「思っていたよりも早い時期だったのですが、何か問題でも起きたのですかニャ?」
これは想定外の事実だ。どう答えたものか。さすがのモカも少し考えている。
「……ラグさんは、スミロ人をご存知ですか?」
「もちろんですニャ。この研究所兼管理施設を預かるものとして当然の知識ですニャ」
「それなら話が早いです。ベルというスミロ人にレイシュトより東側の町の1つが滅ぼされたのです」
「ニャ!? ベル…… まさか……」
「それだけではありません。ユミさんの娘であるユイさん夫婦も殺されました」
「そ、そんな、まさかニャ!」
「ユイさんの娘であるユキさんはまだ結婚したばかりで、ユミさん、ユイさんから十分に引き継ぎができていなかったようです。キメラヴィルのこともご存知ありませんでした。ですので、こちらに何があるのか確認するのが私たちの役目でした」
ラグさんはとても驚いている。
「そ、その、ユミ様の娘のユイ様は、ユミ様と同じくらい強いのですかニャ?」
「ユミさんの強さをご存知なのですね。そのとおりです」
「それならやはり本当にスミロ人のようですニャ…… ユミ様くらいの方がキメラに殺されるなどあり得ないニャ。ユミ様はもう亡くなられたのですかニャ?」
「私たちはユミさんにお会いしたことがないので分かりません。今度ユキさんに聞いてみます」
「そうでしたかニャ。もうネコ人の神様はいないのですニャ……」
ものすごくしょんぼりしているラグさん。そんなことまで知っているのか。
「プ? ネコ人の神様ならヤマもそうプイ」
「そうナノ。ユミさん以来のネコ人の神様ナノ」
「そ、そうなのですかニャ!?」
「あ、まあいっか……」
俺はゲンタのお守りを見せた。
ラグさんは懐かしそうにお守りを見つめている。
「……まさしくユミ様が身に着けていらっしゃったものと同じですニャ。もし、よろしければ、ネコ人の神様と呼ばれたきっかけを教えてくださいませんかニャ?」
「そうですね。あれは――」
俺はゲンタを助けた話とガトアルデでのネコ人ホイホイの話を簡単にした。
「なるほどニャ。ヤマ様がネコ人の神様と呼ばれるのは納得ですニャ。再びネコ人の神様にお会いできてうれしいですニャ」
「いえいえ、そんなかしこまらなくていいですよ。なんなら、今度ちょうどいい箱を作りますから」
「本当ですかニャ!?」
ラグさんの目が輝いている。
「あっ、はい。材料があればいつでも作れますから」
「うれしいですニャ!」
「さすがヤマ、ナノ……」
「あっという間にラグさんの心をつかんだプイ……」
なんかクルルとプリンがゴニョゴニョ言っているが、仲良くなれたほうがいいに決まっているので気にしないことにする。
で、何の話をしていたんだっけ。俺が思い出す前にラグさんが話を始めた。
「ところで、あなたがたは、ユミ様のお孫さん、ユキ様ですかニャ? そのユキ様から頼まれるほどの方ニャ。もしかして、強さを引き継がれているのですかニャ?」
「さすがですね。仰るとおりです。今は私たちがユイさんたちの代わりですね。いつかユキさんたちに引き継ぐときがくると思います。ユイさんたちを殺したスミロ人と先日戦って、ようやく勝ちましたし」
「ニャ…… あのスミロ人に勝ったニャ? 信じられない強さニャ」
いろいろと新しいことが多くて、まだ頭の整理が追いつかない。
ただ、どうもラグさんはベルのことを知っていそうだ。触れていいものか迷っていると、目があったモカが本題に移る。
「ところで、ここのキメラ園を先ほど見させていただきました。本当に驚きました。ここのキメラは凶暴じゃないのですね」
「そうなのですニャ。ただ、実はなぜここのキメラはおとなしいのか理由は分かっていないニャ。町の外にいるキメラは凶暴なままなのニャ」
「何か特別なことはしていないのですね?」
「してないはずニャ。でも、コネクトで攻撃されたりもしないニャ」
「そうなのですね。おとなしい理由をお聞きしたかったのですが……」
またまた意外な事実だ。てっきり何か秘伝の技があるのかと思っていたのだが、そうではないらしい。
モカも考え込んでいる。
「うーん…… あの、私たちの友だちにキメラ研究所で働いている優秀な研究者がいるのです。彼女はキメラに凶暴性がなければ良かったのに、と言うような研究者です。彼女の力を借りたら何か分かるかもしれません。連れてきてもいいでしょうか?」
「もし力をお借りできたらうれしいニャ。でも、キメラ研究所からここまで連れて来られますかニャ? 途中、キメラから護らないと難しいニャ。いくらあなたたちでも簡単ではないと思いますニャ」
「私たちなら頑張ればなんとかできると思います」
今度はラグさんが考え込んでいる。
「ありがとうございますニャ。でも、どうしてそこまでしてくださるのですかニャ?」
「それは簡単なことです。俺たちはキメラとも仲良くしたいんです。スミロ人もそうだし、どんな種族とも仲良くしたいんです!」
「ニャ!?」
「もう、ヤマったら……」
「ヤマ様は、本当にネコ人の神様ですニャ…… あのユミ様と全く同じ考えニャ…… 分かりましたニャ。みなさんに託しますニャ!」
なぜかすごく信頼されてしまった。
そう言えばリアさんと話したときにユミさんと思考が似ていると思ったことがあったような気がする。
これもすべてユミさんのおかげだな。
「ヤマのあの顔はユミさんのおかげだって感心している顔プイ」
「そうナノよね」
「私たちのヤマはいつもああよね」
「やっぱり神様なのニャ……」
「ん?」
良く分からないが呆れられた? まあいいか。
ラグさんが机のところに行き、何やら書き込んでいるようだ。少しして、戻ってきてカードをくれた。
「その研究者の方をお連れいただいたら、これを守衛に見せてくださいニャ。ここに案内してもらえると思いますニャ」
「ありがとうございます」
じゃあ、トライオラシに行くか、と思っていたところで、モカが追加の確認をしたいようだ。
「あ、あと1つ、スミロ人はどのあたりに住んでいるのですか?」
「ここからずっと西に行った先ですニャ。森や川を越えた先と聞いているニャ」
「このあたりには来ないのですね……」
「来ないのですニャ。その気になれば来れるとは思いますが、なぜ来ないのかは私も分からないニャ」
「ありがとうございます。では、またしばらくしたら来ます」
「お気を付けてニャ」
俺たちは研究所兼管理施設をあとにした。とりあえずゆっくりと話したいので、食べ物とか必要なものだけを買った上で家に戻った。
◇
家に入って、くつろぎながら話を始めた。
「キメラ園は驚きの連続だったな」
「ほんと驚いたわ。凶暴性をなくす方法がきっと存在するのよ」
「でも、ラグさんも理由は分からないって言ってたプイ」
「キメラ園にいる個体がたまたまおとなしいノ?」
なるほど、突然変異か。
「そういう可能性はあるわね。生物には突然変異というのが起きるわ。でも生体AIチップに突然変異が起きるのかしらね」
「起きないとは言えないけど、ただ、あんなにたくさんの種類に起きるのかな?」
「なるほど。ヤマ、その視点は重要よ。種族に依らない何らかの理由があるのよ」
「それをモミジさんに調べてもらうつもりプイね?」
「そうよ。モミジさんなら、こういう場所で研究したいって言ってくれそうだし」
キメラや生体AIチップの謎がさらに深まったのかもしれない。解決のためにもキメラ研究所に行かねば。キメラ研究所はトライオラシか。それなりに遠いな。
「問題はここまでどうやって連れて来るかだな」
「さすがにここをヤマ魔法の接続先に追加するわけにも行かないわよね」
「やっぱりそう思う?」
「ええ、接続先を増やすのはどうしても危険が伴うし、ここは賃貸だしね。どこからどう見られているか分からないし、突然見たことがない人が家から出てきたら怪しまれるわよね」
「それに、モミジさんを少しだけとは言えG世界に連れて行かないといけないしな」
「そうね。私たちがレイシュトに戻るのには使ってもいいと思うけど、向こうからは歩いて来たほうがいいわよね」
ここから離れると戻ってくるにはまた何日もかかる。やり残したことはないだろうか。
「いつトライオラシに行く? もう少しキメラヴィルを見てみる?」
「どうしようかしらね。モミジさんを連れて戻ってくるわけだし、モミジさんの話を聞いてからのほうが分かることが多いかもしれないわよ。モミジさんが考えている間に畑でゆっくりできるし」
「畑はゆっくりするところプイ。モミジさんを連れてきてからでいいプイ」
「そうナノ」
畑ってそういうところだったのか……
ともかく、そうであるならトライオラシにすぐにでも行くのが良さそうだ。
「じゃあ、明日にでも出発しよう」
「レイシュトに行くときにはヤマ魔法にしましょう」
「いいけど、どうして?」
「こっちからあの崩れたところを通ると、埋めるのはレイシュト側からになるでしょ? この前みたいにきれいに埋められるか分からないわ。この前のなら気付けないくらいきれいだから、変に消さないほうがいいかなって」
「なるほどな。モミジさんをこっちからレイシュトのほうに連れて帰るときはしょうがないけど、俺たちだけならわざわざ封印をやり直す必要はないよな」
「そうよ」
「だったら、今からもうレイシュトに移動して休むのはどうプイ?」
「うーん。それもありかもしれないな……」
「いや、でもそれは途中からにしましょうよ」
「ん? 途中から?」
「まだ私たちはキメラヴィルに泊まったこともないし、ここからあの洞窟に向かうほうは行ったこともないわ。いつかモミジさんを連れて行くことを考えたら、私たちだけで1回行ってみたいわ。壁をふさいでいる岩を消す必要はないから、そのあたりでレイシュトに移動しましょう」
「なるほどな。何か発見があるかもしれないしな」
「そうね」
「「分かったプイ(ノ)」」
今日は初めてキメラヴィルに泊まった。夜だからといってキメラが叫ぶとかそういうこともなく、いつも通りに過ぎ去った。




