第103話 未知の地域
俺たちは迷わないように山道を慎重に進んでいる。
ただ、やはりキメラはいるようだ。
(ヒュッ!)
(……ドサッ)
「ここにいるキメラはトライオラシの南で山のそばにいたキメラと同じだな」
「そうね。山に住むキメラたちのようね。クマワシくらい強いものもいるかもしれないから気を付けましょう」
「そうだな。道に迷いたくないから、できるだけモカ以外で倒そう。プリンの居合抜きと、あとは俺とクルルで気絶させる感じだな。モカは道案内をよろしく」
「「分かったプイ(ノ)」」
「しょうがないわね」
◇
そのあとも何体かキメラを倒しつつ進んだが、なんとかその日のうちに下山できた。
「ここから先はどうなっているか分からないから、このあたりでキャンプしちゃおう。今日倒したワシブタとかはおいしく食べられそうだし」
「そうね」
山側に少し入ったあたりで土壁で防護してキャンプをした。これまでと違って、何が出てくるか予想もつかないため、見張りを交代で実施しながら休むことにした。
翌朝、木がそれなりに生えた草原のような大地を西に向かって歩き始めた。
よく見ると、全く道がないわけではなく、獣道に近いような道があった。
スミロ人が使っているかもしれないと警戒しながら進むことにした。たまに襲ってくるキメラはフィナルメンシウタットのそば並みの強さだ。俺たちにとっては大したことのない相手だが、ユキさんたちを連れて来ていたら護りながら進む必要があるため、初めての道では大変そうだ。
◇
3日ほど歩くと、遠くに町のようなものが見えてきた。ベルは村長と言っていた気がするのだが、見えてきているものは村と言うには規模が大きい気がしなくもない。
「何か見えてきたわね。このまま歩くと今日中に着くけど、もしスミロ人の住んでる村なら夕方に着くのは避けたいわね」
「村って言う割には大きくないか? でも、警戒は必要だな。ちょっと早いけど、道から外れた見えにくいところでキャンプして、明日朝早めに移動しよう。そうしたら昼前には余裕で着けると思うよ」
「そうしましょう」
もし、ベル並みに強いスミロ人に囲まれたら俺たちでも打開するのはかなり難しいだろう。そう思うとかなり緊張してきた。
みんな同じようで、なかなか寝付けない。
「やっぱり緊張するよな」
「そうプイ」
「ドキドキするノ」
「ベルの言葉を信じるなら、きっと大丈夫よ」
「そうだな。でも、緊張するのはどうしようもないな」
「寝袋で密着して寝るプイ!」
「それがいいノ。いつもより密着ナノ」
「それがいいかな。落ち着けるなら」
「うふふっ、そうしましょう」
こういうときはもふもふが1番癒される。もふもふは最強だ。
◇
もふもふのおかげで眠ることができた俺たちは、翌朝出発した。
ほどなくして、町に近づくと人の姿が見えてきた。ところが、どうやらスミロ人ではなさそうなのだ。
「なあ、あれ、どう見ても普通の人間だよな。それに、ネコ人とかもいるし」
「イヌ人も見えるプイ」
「普通の町ナノね」
「レイシュトの西にも普通にあったのね」
「でも、こんなところに町があるなんて聞いたことないノ」
「そうよね。交流が全くないわけよね。言葉が通じればいいけど」
「大丈夫だよ。だって、スミロ人とも話できたし」
「たしかにそうね。言葉は大丈夫そうね」
「行こう」
スミロ人じゃないと分かり、急に気持ちが楽になった俺たちは町の門に到着した。
門はやはりイヌ人が護っているようだ。
「旅の人かワン? 珍しいワン」
「こんにちは。私たち、初めて来たんです。ここは何て言うところですか?」
「ここはキメラヴィルだワン」
「えっ? キメラヴィル!?」
モカがものすごく驚いている。
「どういうこと? モカ?」
「だって、キメラの町とか都市っていう意味よ」
「プ? キメラがいるプイ?」
「ワン? 普通にいますワン。見たことないワン?」
「いや、戦ったことはありますけど……」
「ワン? それは外にいるキメラのことワン。中に行けば分かるワン」
「「?」」
「あっ、ひょっとして、初めてということは家もないワン?」
「えっ? もちろんです。宿屋はないのですか?」
「旅の人なんて、私が衛兵を始めてから初めて見ますワン。北の方に家を貸してくれる場所があるワン。少し入ったところを右に曲がった先に新婚さんたちが家を買う前に住むための貸家があるワン。行ってみるといいワン」
「ありがとうございます! 行ってみます」
どうやらこのあたりには他に町もないようだ。宿屋がないところは初めてだ。すべてがこの町で完結するということだろう。
なお、キメラがいると聞いてビクビクしながら町の中に入ったのだが、別にキメラが歩いているわけではなかった。むしろ普通に人間や亜人が歩いており、他の都市と変わりない。
「見た感じ普通の町よね。いったいどこにキメラがいるのかしら?」
「そうだよな」
「それよりもまず貸家を見たほうがいいプイよ」
「そうナノ。夕方になる前に借りておかないと、外でキャンプしないといけなくなるノ」
「そうよね」
まずは貸家を探すことにした。
先ほど通った門、おそらく東門から入ってすぐは衛兵施設が両脇にあった。やはり、キメラから護るためだろう。そのあと、小さな酒場があり、少し進むと右に曲がれるところがあった。
「ここかしらね? 右にいくつか小さな家がありそうね」
「そうみたいだね。あそこにあるのが事務所っぽいな」
「行ってみましょう」
右に曲がった先の道の左側にいかにも事務所風な建物があった。中に入るとウサ人がいた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませナノ」
「あの、家を借りたいんですけど、ここで合ってますか?」
「合ってますノ。どんな家を借りたいのですノ?」
「4人で住める家がいいのですが……」
「大丈夫ですノ。空いている家がありますノ」
「あっ、お金はどのくらい必要ですか?」
「お金でもいいけど、畑で働いていただくか、外にいるキメラを倒してお肉を持ってきていただければそれでいいノ」
「えっ? そうなのですか? キメラだとどのくらいですか?」
「1回持ってきていただければ3カ月分くらいですノ。おいしさによっては最大半年ナノ」
キメラなら簡単に取ってこれるからそっちかな。リュックから出す振りをしながらインベントリから肉の塊を出す。
「ここに来るまでに倒したキメラなんですけど、これなんかどうですか?」
「それは…… ワシブタの肉ですノ? いい肉ナノ! すごいノ! 半年分の家賃として受け取りたいの!」
「良かった。じゃあ、これでお願いします。また倒したら持ってきますね」
「うれしいノ!」
これでとりあえずしばらくは大丈夫そうだ。このあたりはキメラがそれなりの強さだからキメラ肉は貴重なのだろう。
「ではこれからご案内しますノ」
ウサ人に連れて行かれたのは、事務所の隣にある貸家群の中の1軒だ。見た感じ普通の家だ。
「鍵はこれナノ。家具は備え付けがあるノ。壊さないで大事に使っていただけるとうれしいノ。家を買うまでの短い間だとは思うけど、よろしくナノ」
「そ、そうですね。分かりました」
どうやら俺たちは家を買うまでのつなぎの家を探していると思われたようだ。そういえば衛兵もそう言ってたな。
あっ、そうだ。せっかくだから、聞いておかねば。
「あの、変なこと聞いていいですか?」
「なんですノ?」
「キメラヴィルの中で、キメラがいるのってどのあたりですか?」
「? 本当に変なことを聞きますノね。南のほうですノ。キメラ園のことを仰っているノですよね?」
「えっ? キメラ園……」
「ええ、そんなところかしら。他にも作れたらいいなって話してただけよ」
「なるほどナノ。他にはまだないと思いますノ。外に行けばいっぱいいますけど、危ないですノ」
「そうですよね。じゃあ、家に入りましょうか。ありがとうございました」
「こちらこそ、お肉ありがとうございましたナノ」
唖然としてしまったが、うまくモカが話をつないでくれて助かった。
それにしてもキメラ園とは…… まるで、動物園のようだ。家に入って、ひと通り設備を見たあと、くつろぎつつ話をする。
「キメラ園って、動物園のキメラ版かな?」
「行ってみないと分からないわね」
「動物園って何プイ?」
「動物を飼っているところよ」
「カッテイル、プイ?」
「うーんと、ご飯やお水をあげたりして、一緒に暮らすのよ。ほら、卵のために鴨を育てることもあるでしょ? ああいう感じよ」
「なるほどプイ」
「キメラにご飯をあげたりしているということナノ?」
「たぶんね……」
ペットの代表格の動物たちが亜人になってしまったこのテン世界では、飼うという行為そのものが一般的じゃなくなっているようだ。
◇
キメラヴィルでの拠点を確保できた俺たちはキメラ園を見に行くことにした。
東門があった道を西に進むと、南側に向かう道とそのまま西側に続く分かれ道があった。西側はこのまま進めば西門に行けそうな雰囲気だ。俺たちはキメラ園に行きたいので南側に進んだ。
南側にしばらく進むと、右側に広大な畑が広がっているのが見えてきた。クルルとプリンは目を輝かせるが、今はその反対側、左側に広がる部分に注目せざるを得ない。
左側には、塀が長く続いているのだ。おそらく、この塀の向こう側がキメラ園なのだろう。
塀が始まる直前には研究所のような立派な建物があった。キメラを管理する建物なのかもしれない。その建物の少し横の部分だけ塀が途切れており、そこが入り口のようだった。
入り口から入ると、左側にチケット売り場のようなところがあった。このあたりで使えるお金を持っていないことを心配したが、念のためもともと持っていたお金を見せてみたところ不思議と問題なく受け取ってもらえた。お釣りを見ても同じ通貨だった。
これなら、家賃もお金で払えたなと思うものの、それよりも同じ通貨であることのほうで頭がいっぱいになる。
「なあ、モカ。通貨が同じってどういうこと?」
「謎よね。でもその話はあとよ。ほら、あそこ」
キメラ園に入ると、そこはまさに動物園だった。金属でできた檻の中にキメラが入っている。モカは檻のほうを見ていた。
「あれは…… ワシイノ?」
「そう見えるわね。檻におとなしく入っているのよ。コネクトを使って逃げ出したりしないのかしら」
「ワシイノは土を使うからこれなら逃げにくいも思うプイ」
「うーん……」
たしかにクルルの言うことも分かるものの、何か腑に落ちない。モカも同じようだ。
「他も見て回りましょう」
「そうだな」
トカコウ、イノガメ、チーシカなど、比較的弱いキメラが続いた。これなら飼うこともできるのか、と思い始めていたときだ。
「あ、あれはクマシカよ!」
「いくらなんでもあんなの危なくて飼えないよな……」
「どういうことプイ……」
「でも、このクマシカ、おとなしいノ。ゆったり歩いているし、攻撃とかしようともしてこないノ」
その後も驚きばかりのキメラ園だった。
どのキメラも凶暴さを感じない。もちろん、檻越しだから直接接したらどうなるのかは分からないが。
この光景はテン世界に来てすぐだったら不思議には思わなかったかもしれない。だが、施設を巡り、キメラの凶暴さを感じてきた今は驚きでいっぱいだ。
「すごいよな…… いったいどういうことなんだろうな」
「そうよね。ただ、亜人と人間みたいに一緒に仲良く暮らすっていうのは無理なのでしょうね」
「まあ、そりゃ、G世界でだって、猛獣とはこういう感じで接するしかないんじゃない?」
「そうよね。ある意味これで正解なのよね。でも、なんかしっくりこないわね」
「檻に入れるのはかわいそうナノ」
「そうプイ」
「そうよ、そこよ。しっくりこないのは。だって、このキメラたちを町の外に出したら他のキメラに襲われるわよ」
「たしかに。俺たちが町に来るときも普通に襲ってきてたし、衛兵も中にいるキメラと外にいるキメラは別物って感じだったよな」
モカが入り口のほうにあった建物を眺めている。
「あの管理施設なのか研究施設なのか分からない建物に秘密があるのね」
「でも、話を聞けるかな?」
「東のほうから来たっていう話をするしかないでしょうね……」
俺たちは入り口そばの建物を目指すことにした。




