第102話 侵入経路
演劇を楽しんだ俺たちは、行列に並んで買い物を済ませて、マポリンが戻ってくる夕方近くまで、ゆったりと過ごした。マポリンと話をしてからレイシュトに行きたいからだ。
夕方が近づき、そろそろマポリンが戻ってきているだろうと思い、俺たちはマポリンの家に行った。
(チリンチリン)
いつものように、呼び鈴をならした。
「はあい」
(トトトト!)
今日は最初から軽快な足音だ。俺たちだと気付いているのだろう。
「やっぱりプリンたちね! 今日は来てくれてありがと!」
「とっても楽しかったノ!」
「みんなもふもふしてたわね」
「やっぱりモカプルンが最強ナノ」
「それに、イヌ人ならではの解決方法だし、面白いよな。人間だとああいう解決はできないよな」
「そうなのよ! ドル先生はイヌ人だから、そういうところが分かるのよ。あっ、みんなはまた出かけるの?」
「そうナノ。明日にはレイシュトに向かうつもりナノ」
「そうなのね。忙しい中、観てもらえて良かったわ」
「まだ公演は続くノ?」
「そうね。結構人気だから、卯月までやるかもしれないよ」
「すごいノ。身体に気を付けて頑張ってほしいノ」
「頑張るわ! プリンたちも気を付けてね」
「頑張るノ!」
マポリンにあいさつできた俺たちは宿屋に戻り、休むことにした。
◇
次の日、俺たちはレイシュトに向けて出発した。
ユキさんたちは先に向かっている。インベントリの荷物を返したから、俺たちほどの速度では歩けていないだろうが、それでもさすがに先に到着しているだろう。
一応、分かれ道あたりから先は、周りにも注意していたがユキさんたちは見当たらなかった。
数日後、レイシュトに着いた俺たちは、ユキさんの家の離れを目指した。
G世界経由で帰っても良かったのだが、宿屋からいきなり消えるわけにもいかないし、なかなか使い所は限られそうだ。使うなら洞窟の奥、例えば施設からいきなり帰るとかくらいじゃないだろうか。
ユキさんの家に着くと、音で気付いたのか、リアさんが出てきてくれた。
「おかえりなさいニャ!」
「ただいま帰りました。ユキさんたちは先に帰ってきているかしら?」
「帰ってきてますニャ。今は研究所ニャ」
「なら良かったわ」
無事にユキさんたちが帰ってきていることを確認した俺たちは離れでゆっくりと休んだ。
◇
翌朝、ユキさんが呼ぶ声に気付いた。
「あら、ユキさん。おはようございます」
「良かったわ。帰ってきてくれたってリアから聞いたの。実は相談したいことがあって」
「立ち話もなんだから、中で話しませんか?」
「そうね」
ユキさんを離れの中に案内した。みんな座ったあと、話を聞く。
「私たちはレイシュトに戻ってきてからスミロ人が入ってきた入り口を探していたの」
「見つかったのね?」
「ええ、たぶん。スミロ人と戦った部屋の奥には長い通路があるの。その先は行き止まりのはずなんだけど、そこの壁が崩れてたの」
「えっ、ということはまた何かが入ってくるかもしれないわね」
「そうなの。テルが洞窟内を調べてくれているけど、今のところ、何も入ってきてないみたい。だけど、いつまでもそのままというわけにもいかなくて」
「俺たちなら岩でふさぐことができるから行こう!」
「そうよね。すぐ行きましょう」
「ありがとう。あっ、でも、それだけじゃないの」
「えっ?」
「その通路なんだけど、西のほうに伸びているのよ。西というより少し南西寄りだと思うけど」
「え…… まさか、それって……」
「西に行くというのは、その通路を通れということかしら」
「そうかもしれないと思って」
「うーん。仮に西にスミロ人の住むところがあるとして、あのスミロ人のベルはもともとは違うところからこっちに来れたはずよ。じゃなきゃメノヴィーアやエーンスタットのほうに行けないもの」
たしかにそうだ。レイシュトの研究所の地下は護りのアクセサリーがないと出入りができない。仮に出れたとしても、研究所の中を通って外に出るのは目立ちすぎるから誰かに気付かれるはずだ。
「やっぱり、もともとは山を越えたんじゃないかな? 第1施設の洞窟に行ったあと、山を越えて戻ってたけど、今度は地下から来ただけじゃない?」
「そうね。それが1番納得できる動きね。いずれにしろ、その通路の先まで行きたいわね」
「俺たちなら通路を岩でふさぐのも、その岩をどかすのも簡単だから、俺たちが向こうに行ったらふさごう」
「そうしましょう」
◇
ユキさんと研究所に向かった。守衛所もほぼ顔パス状態らしく、一応カードは見せたものの、見せる前から止める気はなさそうな雰囲気だった。
そのまま、ユキさんの研究室を通り、すぐに洞窟へと入った。急いでスミロ人のベルと戦った部屋、今はベルのお墓がある部屋に来た。
改めて部屋を見渡すと、部屋の奥の角にたしかに通路があるのが分かる。
「あの通路ですね?」
「そうよ。かなり長い通路で、曲がったり、上ったり下ったりするけど、ほとんど一本道だから迷わないと思うわ。崩れているところまでは一緒に行くわ」
「ありがとうございます」
みんなで奥の通路に入った。
通路はかなり薄暗いため、モカが光を使ってくれた。ただ、通路に入るとすぐに通路は広がり、5人で歩いていてもそれほど狭さは感じない。ユキさんが言うように、特に目立つ分かれ道はなさそうだ。掘りやすいほうに掘り進んだという感じなのだろうか。
「ここは暗いんだな」
「そうね。ここまではそれなりに明かりが入るように工夫されていたのにね。それにしてもずいぶん長そうね。終わりが見えないわね」
「掘るだけでも大変な通路だよな」
少し不安がる俺たちにユキさんが補足説明をしてくれた。
「たぶん、このあたりはレイシュトの西にある山の地下だと思うわ。だから、山を抜けるくらいまで通路があるのだと思うわ」
「なるほど、そうかもしれないわね。壁がどこにあるかは分からないけど、最終的には山を抜けないと洞窟からは出られなさそうね」
「山を抜けるまでこの薄暗い通路を通ったということは、スミロ人は目がいいんだろうな。スミロ人なら暗くても見えそうだしな」
「ネコ科っぽい見た目だものね」
その後、教えてもらったように曲がったり、下り坂だったり、上り坂だったり、いろいろあるが一本道と言って差し支えない感じだった。ただ、思っていたよりずっと長く、たぶん1時間は軽く歩いただろう。こんなに長いなら簡単に見に来れないのも納得だ。
ようやく、奥のほうに何やら崩れたところが見えてきた。岩が飛び散っている方向からして、向こう側から衝撃が加えられたようだ。
「向こうから壁を壊したのね。きっとスミロ人のベルがやったのね」
「おそらくそうだろうな。こっち側に岩が飛び散っているな」
「そんなに分厚い壁じゃないから、破ろうと思えば破れそうな感じね」
「この先がつながっていると知っているならな」
「そうなのよ。私たちも行き止まりと聞いていたので、まさかつながるとは思ってなかったの」
崩れた先は、通路というより、少し広めの空間があるように見える。
「こっちからは通路の行き止まりにしか見えないから、掘ってみようと思うかもしれないけど、向こうからは壁の一部を壊さないといけないから、やみくもにやってもつながらないかもしれないわね」
「うーん。でも、壁を叩いた時の音が違えば気付くんじゃない?」
「叩くきっかけがあればね」
たしかに、つながる先がない中、壁を叩いて確認してまわることはないだろう。偶然叩いたときに気付くくらいだろうか。
「ま、とりあえず俺たちは向こうに行って、岩でふさぎますから、ユキさんは戻ってテルさんと一緒にいてください」
「ありがとう」
◇
俺たちは崩れた壁の向こう側に移動した。とりあえずユキさんに離れるよう促す。
「一旦、崩れた壁の破片を消すので、離れててくださいね」
「分かったわ」
(スッ)
「じゃあ、岩でふさぎますね」
「ええ、よろしくね」
「行ってきます。じゃ、クルルよろしく」
「分かったプイ」
(ドン!)
きれいにふさぐように岩を出してくれた。
こっち側から見たときには分かりにくいように周りの壁と雰囲気を合わせてくれている。さすがクルルだ。
(トントン)
「うん。これなら大丈夫だ。さすがクルルだな」
「えへへプイ」
モカが少し緊張した声で俺たちを促す。
「じゃあ、行きましょうか。ここから先は未知の領域よ。スミロ人が出てきても不思議じゃないから、慎重に進みましょう」
「そうだな。プリン、何か音が聞こえる?」
(ピクッ…… ピクッ……)
「特に気配はないノ」
横でにおいを嗅いでいるクルルのほうを見た。
「特に変なにおいもしないプイ」
「そうか。なら生き物は近くにはいなさそうだな」
「ひとまず安心ね」
今いる部屋を見渡しても、洞窟の一部という感じしかしない。
「ここは洞窟の中の部屋みたいなところかな?」
「そうかしらね。とりあえず、出口はあそこしかないから、行きましょう」
モカが指差す方向には道が続いていた。
道は上り坂のようだ。あの部屋がどのくらいの位置にあったかよく分からないが、レイシュトの研究所の洞窟も地下だったわけだから、地上に出るにはどこかで上る必要があるのだろう。
その先もいくつかの部屋のような空間があった。途中で1箇所分岐があった。正確には俺たちが進んできたほうが分岐の1つになる側に見える分岐だ。
「どうする? クルル人形とか目立つものはあんまり置きたくないんだけど」
「そうよね…… 目立たない印がいいわね」
(ヒューッ)
急にモカが飛び上がった。壁の上のほうにグラディウスで何やら傷を付けている。あの傷は……
(スタッ)
「なるほどな。Yって書いたんだな。これなら読めるのは俺とモカしかいないな」
「そうよ。ヤマって言う意味もあるし、イエスっていう意味もあるわ。どちらにしろ知らなければただの傷に見える文字でしょ。あっちから来たときにこれがあるところに進めばいいのよ」
さすがモカだ。
「で、こっから先はどっちだろうな。見るからにあっちだけど」
上る側になる道を指差した。
「そうよね。ダメならここに戻ってこればいいから行きましょう」
「念のため、プリン、クルル、周りは大丈夫かな?」
(ピクッ…… ピクッ……)
(くんくん)
「大丈夫ナノ」
「誰もいないプイ」
「じゃ、行こう」
引き続き緩やかな上り坂を上ることにした。
「洞窟なのにキメラも動物もいないなんて、レイシュトの地下みたいに封印されているのかな?」
「そうかもしれないわね。最後に扉とかがあっても不思議じゃないわね」
「結構上ったからそろそろ出口になってくれるといいんだけどな」
「そうね」
さらにしばらく歩いて、ようやく道の先に部屋のような空間が見えてきた。そこに入ってみると、本当に部屋という感じだ。
「ここが洞窟の出入り口かな?」
「あれかしら?」
扉のようなものがある。ただ、ノブとかはない。
とりあえず押して見る。
(ガガガッ)
鍵はかかっていないようで、普通に開いた。
◇
扉の外は、山の中腹だった。
扉はこちらから見ると、岩壁になっていて、知らなければ扉だと気付けなさそうだ。
「ベルはこの扉を開けて入ったということだよな?」
「そうね。たぶん牙を引っ掛けて開けたんじゃないかしら?」
「そうかもな。それにしても、ここが扉だと知っていたということだよな」
「そうね」
考えていてもしかたがない。進むしかなさそうだ。
「とりあえず行くか」
「そうね。山を下りる側に行くしかないわよね。迷わないようにたまに木に傷を付けていくわ」
「そうだな。いざとなれば、G世界経由で帰ろう」
「そうね」
「あっそうだ。クルル、プリン、このあたりは何かいそう?」
(ピクッ…… ピクッ……)
(くんくん)
「近くにはいないけど、遠くには何かいるノ」
「においまではしないプイ」
「ありがとう。気を付けながら行けば大丈夫かな」
「そうね」
いよいよ未知の地域に来た俺たちだった。




