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第101話 偉大なもふもふ

 目的を達成した俺たちは、メノヴィーアの遺跡から出て、トライオラシに向かうことにした。


 行きと同じで数日の道のりだ。キメラはたまに出たものの、俺たちと一緒に移動している限り、ユキさんたちに危険はない。



 特に何事もなく、トライオラシに到着した。





◇


 ユキさんもテルさんも普段は研究で忙しいため、出来るだけ早くレイシュトに送り届けてあげたほうが良さそうだ。宿屋に向かいつつ、俺はそう思っていたのだが、プリンがあることに気付いた。


「ねえ、今って、もう弥生ナノ?」


「うーん。私たちには分からないわね。たぶん弥生になってると思うけど」



 話を聞いていたユキさんが教えてくれた。


「たぶん今は弥生の真ん中あたりよ。何か予定があるのかしら?」


「良かったノ。私の友達のマポリンが出る演劇が弥生開幕ナノ。だから、ドスシウダに観に行きたいノ」


「えっ、あの人気の演劇?」


「そうナノ。楽しみにしているノ」



「まだ弥生の真ん中あたりなら、レイシュトに行ってからでも間に合いそうね」


「いや、もう始まってるなら、ヤマさんたちはドスシウダに寄ってからレイシュトに行ったほうがいいわよ。私たちはここから先なら2人で大丈夫よ。それに、先に戻って、スミロ人の侵入経路も調べておきたいし」



「そうですか…… まあ、もうトライオラシですし、大丈夫ですよね。分かりました。スミロ人の侵入経路を調べるときに危ないときは、無理せずに俺たちを呼んでくださいね」


「分かったわ。じゃあ、宿屋に泊まったら明日私たちはレイシュトに向かうわ。メノヴィーアまで連れていってくれてありがとうね!」


「いえいえ、またお話させてくださいね。あとで、部屋に着いたら荷物を届けますね」


「あっ、忘れてたわ! ありがとう!」


 宿屋の部屋に入ったあと、インベントリの中身を出して、ユキさんたちの部屋に届けた。




 俺たちとユキさんたちはここから別行動とすることになった。俺たちは一応確認しておく。


「トライオラシでキメラ研究所とか寄らずにすぐにドスシウダに行くよな?」


「ん? いいと思うわよ」


「演劇楽しみプイ」


「そうナノ」



「どんな内容かしらね」


「なんてったって『もふもふ狂騒曲』だからな……」


「ちょっと想像つかないわね」


 もふもふしている亜人たちが登場することだけは間違いないと思うが、いろいろ勝手に想像しつつ、久しぶりの布団でゆっくりと休んだ。





◇


 次の日、俺たちはドスシウダに向かうことにした。


 ユキさんたちはもうレイシュトに出発したようだ。俺たちに遠慮させまいという気遣いだろう。



 トライオラシの北門から出て、ドスシウダに向かって歩く。


 この道も何度か通った道だ。たまに湖側からキメラが出てくるものの、強いキメラは少ないため安全なほうだ。半年もしたら、洞窟のキメラが強くなり、このあたりにも少し強めのキメラが出るだろう。


 そういう意味ではこの時期に演劇をやるのは理にかなっている。偶然なのか、護り人の巡回タイミングの影響で自然とそうなっていったのかは分からない。





◇


 数日後、ドスシウダに到着した俺たちは、まだ明るかったため、催事場に向かった。催事場の掲示板には、『もふもふ狂騒曲、演出ドル、絶賛公演中!』と書いてあった。



「間に合ったわね!」


「良かったノ! 明日観るノ!」


「そう言えば、マポリンが観覧券を4枚用意してくれるって言ってたよな?」


「そうだったノ。マポリンのお家に行くノ!」


「もうお家に帰っているかしら?」


「大体公演は午前、午後の2回だから、この時間はお家に帰っていると思うノ」



 そのまま、マポリンの家に向かった。どうやらマポリンは家にいそうだ。


(チリンチリン)


 呼び鈴をならした。



「はあい」


(ドタドタッ!)


 今回は転ばずに出てきてくれそうだ。公演中に足をくじいたら大変だ。



「どちら様? あっ、プリン! 来てくれたのね!」


「そうナノ。今日、ドスシウダに来たノ。演劇を観るためにナノ!」


「うれしいわ! そうだ! ちょっと待ってて」


(トトトトッ)


 軽快な足音を立ててマポリンが家に戻っていった。


(トトトトッ)



「これよ。観覧券を用意しておいたの」


「ありがとうナノ!」


「明日の朝に起きるためにそろそろ私は寝ちゃうところだったの。渡せて良かったわ!」



 この時間から寝ないと朝起きられないというのはすごい話だ。だが、プリンはすごく納得しているようだ。


「そのほうがいいノ! マポリンの邪魔をするつもりはないからゆっくり寝てほしいノ」


「そうね。私たちはトライオラシから今さっき着いたばかりだから、このあと宿屋でゆっくり休むわ」


「うん。じゃあ、また明日ね」


「頑張ってね!」


「うん!」



 観覧券をもらった俺たちは宿屋に行き、明日が待ちきれない中、なんとか眠りについた。





◇


 翌朝、催事場に向かった。


 催事場にはすでにちらほら観客が来ているようだ。俺たちも観覧券を受付に提示して、席に着いた。



 しばらくして、観客で満員になった頃、ついに演劇が始まった。



◆◆◆

「やっぱりニンジンは最高ナノ!」


(もぐもぐ)


 ウサ人が野菜畑でニンジンを食べているところから始まった。人間の女の人が何やら心配そうにやってきた。あっ、この女の人をマポリンが演じているようだ。


「ラビちゃん? ラビちゃん?」


「どうしたノ? ここにいるノ」


「良かったわ。あっ! そのニンジン食べちゃったの!」


「ナ! ダメだったノ?」


「そのニンジン…… 昨日食べたビットちゃんがお腹壊して寝込んでるの。大丈夫かしら……」


「えっ! ビットちゃんが?」


 いきなり何やら不穏な空気だ…… ビットちゃんの家にお見舞いに行くようだ。




「ビットちゃん大丈夫?」


「どうしたノ? ニンジンが悪かったノ?」


「大丈夫じゃないノ…… ただニンジンを食べ過ぎただけなのに、ここの毛が減ったノ!」


「ナ! 毛はどこに行ったノ?」


「落ちてないノ?」


「ないノ……」


「まさか、盗まれた!?」


 どうやらまさかのサスペンスのようだ。


 しばらく毛を探したり、本当に減っていないか確認したり、なぜかまたニンジンをほおばったりするシーンが続いた。




 その後、シーンが変わり、今度はモル人だ。


「今日はブロッコリーを食べ過ぎたプイ…… もう動けないプイ……」


 モル人が寝たあと、暗転した。これは毛が無くなる流れだな。


「よく寝たプイ。プ? プイィ!」





◇


 モル人の叫びとともに、また暗転した。連続窃盗事件のようだ。


 次はイヌ人とネコ人が何やら相談しているシーンとなった。


「ポチ探偵、毛が盗まれる事件がドスシウダで連続して起きているようですニャ。衛兵隊長からポチ探偵に犯人を探してほしいという依頼が来ているニャ」


「分かったワン。タマ、まずは現場に行くワン」


「分かりましたニャ!」



 どうやらネコ人のタマは助手で、イヌ人がポチ探偵のようだ。


 最初にウサ人が毛を奪われた現場を調べるシーンが続く。部屋の鍵や窓、落ちているもの、聞き込みなど、サスペンスそのものだ。



 何やらポチ探偵は考え込んでいる。



 次に、モル人の現場に行くようだ。そして、今度は何か発見したようだ。


「この毛は…… ウサ人の毛ワン」


「どこかで見た気がするニャ」


「毛を盗まれたと言っているウサ人のビットさんの毛と似ているワン」


「あのウサ人が私の毛を盗んだプイね!」


「あっ、ギニさん、どこ行くワン!」


 モル人はギニさんと言うらしい。どこかに走り去った。



 その後もギニさんの家を2人が調べるシーンが続く。特に新しいものはないようだ。


「ギニさんの行方が気になるワン。ビットさんのところに行くワン」


「分かりましたニャ。あのウサ人が犯人なのかニャ」


「いや、そうではないはずワン」



 シーンが変わり、ウサ人のビットさんとモル人のギニさんが喧嘩しているシーンとなる。


「私の毛を盗んだのはあなたプイね!」


「違うノ。モル人の毛をもらわなくても私は十分もふもふナノ!」


「私の毛ももふもふプイよ! 見てみるプイ!」


 まさかのもふもふ争いだ……



 深刻さよりはかわいさが先にくる演出だな。しばらくもふもふ度合いのアピール合戦が続く。


 観客の受けもよさそうだ。しばらくして、ポチ探偵が到着した。



「ギニさんの毛を盗んだのはビットさんではありませんワン」


「「プイ(ナ)?」」


「でも私の家に毛が落ちてたプイ」


「ビットさん、昨晩あなたは何をされていましたかワン?」


「ナ? ラビちゃんたちとニンジンパーティをして、そのあとは、また食べ過ぎて苦しくて寝てたノ」


「ギニさん、あなたは鼻がいいはずですワン。毛が盗まれたころ、ニンジンのにおいはしましたかワン?」


「プ! しなかったプイ…… でも、お肉のにおいがした気がするプイ」


 なるほど。亜人ならではの確認方法だ。





◇


 その後、どうやら決定的な手がかりが得られないうちに、イヌ人、ネコ人にまで被害が広がっていく。そのたびに調べるが、犯人を絞り込めないようだ。ポチ探偵が何やら不思議がっている。


「事件が起きるたびに、それより前の被害者の毛がほんの少し落ちているワン。同一犯なのは間違いないワン。でも、なんで毎回落ちているのかワン……」



 被害にあったネコ人のノルさんのもとに、仲良しの人間の友達が来て慰めている。慰めていると同時にノルさんのもふもふを満喫しているようだ。


 最初は心配そうだったのに、途中からご満悦の顔になる。そのあと帰ろうとした人間の友達の服には、毛がたくさんついていた。


「ワン? ちょっとよろしいですかワン?」


「私?」


「ええ、服を少し見せてくださいワン」


「?」


「…… なるほどワン」


「ポチ探偵?」


「タマ、ちょっと出かけるワン」



 また暗転した。次のシーンではものすごくもふもふのウサ人とポチ探偵たちが一緒にいた。


「アンさん。わざわざフューラスタードからお越しいただきありがとうございますワン。ドスシウダには、あなたほどもふもふな人はいませんワン。安全は私たちが保証しますので、ご協力お願いしますワン」


「分かりましたノ」


 どうやらおとり捜査のようだ。


 そのあと、ウサ人のアンさんがドスシウダで買い物したりするシーンが続いた。その後ろからはポチ探偵たちが尾行していた。どうやら犯人にアンさんを印象付ける意味もありそうだ。




 アンさんが宿屋に戻ったあと、ポチ探偵たちは部屋の中に隠れ、犯人が来るのを待つ。アンさんは疲れて寝てしまったようだ。


 しばらくすると、人間の男が忍び込んできた。アンさんの毛を見つめ、何やらものすごく迷っている。その後、小さなナイフを出して、毛を切ろうとする。


「そこまでワン!」


「逃さないニャ!」


 タマ助手はものすごく運動神経がいいらしい。高く飛び上がるとあっという間に犯人を捕まえた。




 そのあと、事情聴取が始まる。


「あなたが毛を盗んでいた犯人ですねワン」


「えっ?」


「あなたの服に付いているウサ人、モル人、イヌ人、ネコ人の毛が動かぬ証拠ワン。においを嗅げばすぐに分かるワン。あなたは盗んだ毛でもふもふしてたはずワン!」


「ご、ごめんなさい……」


 あっさりと罪を認めた。



 イヌ人の鼻の良さは証拠能力として認められているのだろう。ある意味、警察犬と人間の警察官が合わさったようなものだ。


「なぜ、こんなことをしたのですかワン?」


「僕はもふもふな亜人のみなさんが大好きなんです。本当は亜人に囲まれて暮らしたいんです。でも、恥ずかしくて亜人に声をかけることができなくて…… 我慢できなくて、せめて毛に囲まれて暮らしたいと思って、毛を少しずつもらって、枕かお布団にでもしようと思ったんです」


「でも、そのせいでみなさん怖い思いをしたのですワン!」


「わ、分かっています…… ごめんなさい!」



 犯行理由もほのぼのしているな。タマ助手は同情しているようだ。


「でも、人間はもふもふしてないからかわいそうニャ……」


「ワゥーン…… でも、まず、みなさん謝りなさいワン」


「はい…… 分かりました」


「タマ、みなさんを催事場に集めてくださいワン」


「分かりましたニャ。ポチ探偵はどうするのですかニャ?」


「ちょっと寄るところがあるワン」



 シーンが代わり、犯人が被害者に謝罪している。犯行理由を聞いたみんなは驚くと同時に少しだけ同情する声もあった。


 ポチ探偵が犯人に言う。


「あなたの亜人と仲良くしたいという気持ちは間違っていませんワン。ただ、やり方が間違っていたワン。これからはこれを使うワン」


「こ、これは……」


「これは『モカプルン』ワン! モカプルンはどの種族も大好きな奇跡のお菓子ワン。モカプルンを一緒に食べればみんなすぐに仲良しになれるワン」


「さすがポチ探偵ニャ! じゃあ、モカプルンをみんなで食べるニャ!」


 このあと、みんなでモカプルンを食べ、全種族が仲良くする姿が演じられた。


 そして、エンディングでは、人間が亜人に囲まれてご満悦になっている姿で締められた。


◆◆◆


(パチパチパチパチ!)


 割れんばかりの拍手だった。


「いい演劇だったプイ!」


「いいお話だったノ! やっぱりもふもふはみんなのものナノよ」



 どうやら、ドスシウダではこういうサスペンス的なものが人気のようだ。ひょっとしたらシリーズものかもしれない。


 あと、人間がもふもふしていないのをかわいそうと思う気持ちが亜人には共通してあるのだろう。そういうみんなの気持ちを理解した上で、亜人ならではの犯人を追い詰める手法が俺としては面白かった。


 話は非常にシンプルなのだが、演じる人が上手なのか、楽しむことができた。



「まさかのもふもふ合戦で面白かったな。たしかにどっちももふもふで甲乙つけがたいよな」


「「うふふプイ(ナノ)」」


 俺はクルルとプリンを撫でながら言う。クルルとプリンもご満悦なようだ。



「そうね。プルンもうまく使ってくれてうれしいわ」


「そうだよな。それにマポリンも頑張ってたな」


「そうナノ!」


「たぶん、このあとまたモカプルンが売れまくると思うプイ」


「たしかに……」



 予想通り、演劇が終わったあと、お菓子屋さんには行列ができていた。


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