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第68話 神の庭に至る獣


挿絵(By みてみん)

【挿絵→アーキテクト第二席次ネメシス】



黄緑色の燐光が満ちる森の最奥で、白と黒の機体は互いを見据えていた。

白い全身装甲に黄緑の光のラインが走るネメシスの、油断なき黄緑に輝く双眸。

黒き機体フレームに碧い光のラインが走るルクスの、深い智謀を湛えし碧い単眼。

正面から対峙した二機の尋常ならざる機械兵は、決闘の始まりを待っているかのようだ。


中央制御装置を囲む六つの《セーフティ・バンカー》そのすべてに安定した生体反応があることを、ルクスの単眼は確認している。

だが、もはや探索隊の誰もが囚われて自力では動けない。


地中には無数の《生態誘導杭》が埋め込まれ、黄緑色の光を脈打たせている。

それらを束ねる中央制御装置からは、同期の進行を示す低い駆動音が絶え間なく響いていた。


ネメシスは右手の白棒を下段に構えたまま、わずかにも揺れない。

ルクスもまた、右腕の《クリードディフェンダー》を正面へ向けていた。柄を中心に両方向へ長大な刃が伸びた、黒き両刃剣。その重量を支える機械腕から、低い唸りが漏れる。

先に動いたのは、ルクスだった。


『《レーザー・ディスチャージャー》照射』


ルクスの背部の連装砲が左右へ展開する。次の瞬間、幾筋もの碧い拡散レーザーが扇状にほとばしった。

一本ごとの威力は絞られている。その狙いは撃破ではなく、ネメシスが回避に使える空間を、右斜め前方の一点へ限定するための牽制射撃だ。


ネメシスはレーザーの光条の間へ身を滑らせる。

その一歩を踏み出した時には、ルクスの姿が正面から消えていた。


四脚が白い障壁を蹴り、機体を砲弾のように射出する。局所展開された《フォースフィールド》を空中の足場にして、ルクスは無理矢理に進行軌道を折り曲げた。

ネメシスの選んだ、ただ一つの退路へと猛進するために。


《クリードディフェンダー》が振り下ろされ、白棒が刃の腹へ触れた。激突の寸前、ネメシスは両眼を閉じる。


重さには、重さで抗わない。


白棒の先端がわずかな弧を描き、刃の進む方向を外側へ逸らす。ルクスは流された勢いをそのまま回転へ変え、柄の反対側から伸びる刃で逆袈裟斬りを放った。

ネメシスは半歩だけ退き、白棒の中央で柄元を精確に押す。それにより二撃目が空を切るが、そこへ間髪入れずに三撃目がネメシスを襲う。


右からの横薙ぎを受け流された直後、反対側の刃が左下から跳ね上がる。通常の剣に必要な「刃を返す」という予備動作が、両刃剣《クリードディフェンダー》にはほぼ存在しない。

上下、左右、袈裟、逆袈裟。一撃ごとに岩盤を砕き得る重量を有する、二つの刃が可能にする絶え間ない連撃。


その息をもつかせぬ猛攻の渦中でも、ネメシスは目を閉じたまますべてを的確に捌き続けている。

白棒が両刃剣へ触れるのは、いつもほんの一瞬だった。


大気の揺らぎ。足場を伝う振動。装甲の継ぎ目から漏れる熱と、武装へ流れ込むエネルギーの偏り。

視覚よりも深い場所でそれらを読み取り、攻撃が形になるより早く、その行く先へ白棒を置いているのだ。


ルクスが大きく踏み込み、両刃剣が頭上から叩きつけられる。

ネメシスはそれを受けなかった。最小限のサイドステップで刃をかわすと、沈み込んだルクスの胸部へ白棒を突き出す。


彼女の狙いは装甲の破壊ではない。星紋安定環。魔力と機体制御を結びつける、ルクスの急所だった。

白棒の先端が円環の中心を正確に貫く。しかし、そこに手応えはない。黒い機体が、碧い光の粒子へ変わる。


「《ミラージュ》……」


幻影に気付いたネメシスが目を開くと、背後にはすでに本物のルクスがいる。

《ミラージュ》が複製したのは、見せかけの姿だけではない。駆動音も、熱量も、魔力波形も、足元へ伝わるはずの踏圧さえも、擬似的な反応として周囲へ刻み込んでいた。

心の瞳とでも呼ぶべきネメシスの超知覚さえ、幻影は欺いたのだ。


《クリードディフェンダー》が横一文字に振り抜かれる。ネメシスは反射だけで身を屈めた。

黒い刃が頭上を通過し、遅れて生じた風圧が白い装甲の表面を鳴らす。あと一瞬遅ければ、首元を直撃していた剣筋。


低い姿勢のまま、ネメシスはルクスの懐へ踏み込む。その左腕の側面に、白い粒子が集束した。

生成されたのは、中央に黄緑色の宝玉が埋め込まれた白盾だ。


白盾が《クリードディフェンダー》の柄元を跳ね上げ、同時に白棒がルクスの右肘関節を打ち、機械尻尾の刺突刃が左肩の駆動索を狙う。

ルクスは左腕の可変盾で刺突を逸らし、右腕を強引に引き戻して反対側の刃をネメシスの脇腹へ走らせる。

そこに素早く白盾が割り込み、黒い刃と白い盾の激突が、森に重い衝撃音を響かせた。


両者は互いに一歩も退かない。ルクスが斬れば、ネメシスは盾で弾き、踏み込んだ脚へ白棒を返す。

ネメシスが突けば、ルクスは装甲の傾斜で軌道を変え、空いた間合いへ両刃剣を滑り込ませる。

機械尻尾の刺突刃が死角から迫れば《フォースフィールド》が刃先を押し曲げた。

ルクスが幻影と位置を入れ替えれば、ネメシスは短距離転移によって包囲の外へ抜ける。


一合ごとに、攻防の速度も精度も上がっていく。

ネメシスの予測は正確だったが、ルクスは同じ攻撃を二度受けることはない。

白盾の角度、白棒を握る指の位置、短距離転移の直前に生じる微かな魔力の収束――得られた情報を瞬時に解析し、次の攻撃へ反映している。


戦いが長引くほど、ネメシスの技は解き明かされていく。

だからこそ、彼女は守りに徹することをやめた。


白棒、白盾、機械尻尾。三つの軌道が同時にルクスへ襲いかかる。

ルクスもまた、《クリードディフェンダー》と可変盾、四脚すべてを用いて迎え撃った。


白と黒の残像が、中央制御装置を巡って目まぐるしく交差する。

相手を殺さない。ただし、確実に戦闘能力だけを奪う。

その条件下において、二機の白兵戦能力は完全に拮抗していた。


やがて甲高い警報音が、均衡を引き裂く。

中央制御装置の周囲で、赤い警告灯が明滅する。


『《生態誘導杭》臨界到達』


『全杭の同期を確認《獣禍連鎖》起動待機状態へ移行します』


地中を走る黄緑色の光が、一斉に強さを増す。

それは《獣禍連鎖――ビースト・カスケード》が完成したことを告げる光であった。

あとは起動命令さえ下されれば、森を追われた魔物たちは再び狂奔を始める。今度こそ、止められる猶予はない。


「どうやら、間に合わなかったようですね」


ネメシスの手に、掌大の起動認証端末が現れた。

黄緑色の指が起動部へ触れようとする。


『《フィジカルブースト》――最大出力』


次の瞬間、空気が爆ぜ、ルクスの姿が消失する。

ネメシスの感覚をもってしても、その動きを追えなかった。


次に黒い機体が現れた時、《クリードディフェンダー》の切っ先は、彼女の指先だけを避けて認証端末を両断していた。

起動音を発することなく、二つに割れた端末が地面へ落ちる。そのまま返す刃がネメシスの白盾へ迫った。


黄緑色の光が瞬く。刃が捉えたのはネメシスの残光だけ。

ネメシスは数歩離れた場所へ短距離転移し、初めて隠しきれない驚きを黄緑色の瞳に浮かべている。


「まだ速くなれるのですね。少々あなたを過小評価していました。謝罪します」


起動認証端末は失われたものの、中央制御装置から直接命令を入力すれば《獣禍連鎖》は起動できるだろう。

故に、ルクスは装置とネメシスの間へ立った。直後、単眼の奥に微かなノイズが走った。


『――ルクス、聞こえる?』


外部には届かない《アルゴス・レプリカ》の秘匿回線。

それを通じて白い防護殻の中から、リネアの声がルクスへ届いていた。

ネメシスが精神状態の安定に有用だと判断し、あえて切断しなかった接続。その細い一本の糸が、今も二人を繋いでいる。


『私達にも、命を賭ける時が来たのかもしれない』


リネアの声は震えていた。恐れていないはずがない。

それでも、一つ一つの言葉は明瞭だった。


『私のことはどうでもいい。今、《獣禍連鎖》を止められなければ、意味がない。ネメシスが私たちを本当に生かしておくかも分からないからね』


ルクスの演算領域に、機体の状況が展開される。最大出力を継続した場合の過熱速度。兵装群が機能停止へ至るまでの猶予。

主機、駆動系、星紋安定環に生じる不可逆的損傷の可能性。いずれの予測も、許容範囲を大きく逸脱している。


『だからルクス、私の最高の相棒に命じるね』


リネアが息を深く吸う。


『どうか貴方にしかできない闘いをして』


短い沈黙。そして最後の言葉は、不思議なほど穏やかだった。


『ルクスなら必ず、この狂気を止めてたくさんの命を守れるって、心から信じてる』


黒き機兵の演算は、すでに終わっていた。


『リネアの命令を承認。迅速に遂行します』


碧き単眼の光が、強さを増す。


『【最高の相棒】として、リネア・ギアライトの名に相応しい闘いを』


白い防護殻の中で、リネアは目を閉じた。


「……うん。お願い、ルクス」


ルクスの全身で、拘束されていたエネルギーが解放される。


『全兵装、出力制限解除』


『主機供給率、上限再設定』


『オーバーヒート臨界到達を許容』


黒い装甲の継ぎ目から、碧い燐光が溢れ出す。それはもう、機体の内側へ収めておける量ではなかった。

噴き出したエネルギーが黒い四脚機体の輪郭を覆い、燃え盛るオーラとなって大気を震わせる。


《クリードディフェンダー》の二つの刃に《エナジーブレード》が重なり、長大な碧い光刃が形成された。

《フィジカルブースト》は最大出力のまま固定されている。


背部の連装砲、射出機構、障壁発生器、幻影投射系――すべての兵装へ、同時に膨大なエネルギーが注ぎ込まれていく。


「その出力を維持すれば、あなたの機体は――」


『損傷予測は、すでに織り込み済みです』


ネメシスは白銀の長棒を握り直した。

わずかに伏せられた瞳が、再びルクスを見据える。


「覚悟を示されるのですね」


左腕の白盾が拡張し、中央の宝玉が強い黄緑色の光を放つ。


「ならば私も、全身全霊をもってお応えしましょう」


ネメシスが白棒を地面へ打ちつけた。


「《ロアリング・フレーム》!」


轟音とともに、白い装甲の継ぎ目から黄緑色の燐光が噴き上がる。

細身の機体を包んだ光は炎のように揺らめき、周囲の燐光すべてを従えるように大きく膨れ上がった。


二機が同時に地を蹴る。碧と黄緑の閃光が、正面から激突した。

爆発にも似た衝撃が広がり、六つの《セーフティ・バンカー》が背景で激しく震える。


ルクスが一体から二体へ分かれた。二体が四体、四体が八体へ。

なおも増殖する碧い幻影が森の最奥を埋め尽くし、すべてが異なる角度から《クリードディフェンダー》の致命打を振るう。


ネメシスの白盾が一閃を弾き、白棒が背後の機体を打ち払う。

ネメシスが幻影相手に白棒を振り切った一瞬へ、ルクス本体の碧いエネルギー刃が迫る。


ネメシスは柔軟な短距離転移で頭上へ逃れた。

しかしその転移先へ、待ち構えていた碧い光条が交差する。


《レーザーディスチャージャー》が退路を焼き、局所的な《フォースフィールド》が回避軌道さえ押し曲げる。

ネメシスは白盾を前へ突き出した。宝玉から展開された黄緑色の多層障壁へ、拡散レーザーが雨のように降り注ぐ。


そこへ《アンカーショット》が撃ち込まれた。

鋼索が白盾へ巻きつき、ルクスが四脚すべてで地面を掴む。

ネメシスの全身が否応なく障壁ごと引き寄せられていく。


碧い両刃剣が迫る中、ネメシスは自ら鋼索の方へ踏み込み、張力が失われた一瞬に機械尻尾の刺突刃で切断した。

続けざまに白棒を豪速で突き込み《クリードディフェンダー》の軌道を逸らす。


白盾の縁がルクスの胸部装甲を打ち、星紋安定環の目前へ白棒の先端が迫る。

ルクスは避けない。左腕の可変盾を斜めに差し込み、白棒をその表面で滑らせる。

その間にもネメシスの脚は止まらず、中央制御装置へ一歩近づいた。


そしていよいよ装置の入力盤へ手を伸ばす。

しかし、ルクスの光刃がその手と装置の間だけを薙いだ。


白い指を断つことはない。ネメシスの機体中枢回路を狙うこともない。

全兵装を破壊的な出力で稼働させながら、ルクスの攻撃は一貫していた。


ネメシスを殺さず、ただ中央制御装置から遠ざける。

そして自らが先に装置へ到達して破壊し、《獣禍連鎖》を止める。

そのためだけに、ルクスは自分自身を削り続けているのだ。


「――っ!」


ネメシスの白盾へ、碧い光刃が初めて深く食い込む。黄緑色の宝玉に亀裂が走った。

同時に、白棒がルクスの右肩を強打する。機械腕の装甲が砕け、《クリードディフェンダー》がわずかに下がる。


それでもルクスは止まらない。白棒の二撃目を可変盾で受け、三撃目を脇腹の装甲で受ける。

四撃目が前脚の関節を打ち抜くより先に、機体そのものをネメシスへぶつけ体当たりした。


二機はもつれ合い、地面を削りながら中央制御装置の脇を通過する。

その直後にネメシスが短距離転移で離脱。ルクスも《ミラージュ》と位置を入れ替え、すぐにその背後へ回る。


再び白棒と両刃剣が高速で衝突した。百を超える打撃音が、一つの長い轟音へ重なる。

もはや囚われた他の者たちの目には、二機の姿を捉えることなどできなかっただろう。


白い防護殻の中で、リネアだけが《アルゴス・レプリカ》を介し、途切れかけるルクスの視界を追っていた。

そこには、次々と警告表示が浮かんでいる。


『《レーザー・ディスチャージャー》冷却能力限界』


背部の連装拡散レーザー砲から白煙が噴き上がる。

最後のレーザー光条の束を放ち、連装砲が強制停止した。


『幻影投射系、過負荷』


森奥を埋め尽くしていた碧い機体の幻影が、一体、また一体と掻き消える。


『右肩部駆動率、低下』


『主機温度、臨界域』


『《フィジカルブースト》出力維持不能』


まさしく異次元だった速度が、目に見えて鈍っていく。


「ルクス……」


もう止まって。そう命じれば、彼はきっと従う。

けれどリネアは、その言葉を口にしなかった。


命を賭けてほしいと告げたのは自分だ。

何より、ルクスは今、自らの意志でその願いに応えようとしている。

最高の相棒だと信じた彼の闘いから、最後の瞬間だけを奪うことはできない。


《エナジーブレード》が明滅する。碧い光刃が短くなり、ついには《クリードディフェンダー》本来の黒い刃だけが残る。

ネメシスの白棒が可変盾を跳ね上げ、さらに白盾が胸部へ叩き込まれ、ルクスの機体が大きく傾いた。


前脚の一本が地面へ沈む。もう一本の膝が折れる。

なおも立ち上がろうとした後脚から火花が散り、黒い四脚機体はついに大地へ沈み込んだ。


《クリードディフェンダー》が手を離れ、重い音を立てて転がる。

同時に、ネメシスの《ロアリング・フレーム》も収束し始めていた。


白い装甲の各所には深い傷が刻まれ、左腕の白盾は半ばまで砕かれている。それでも彼女は立ち、ルクスと中央制御装置の間にいる。

勝敗は決した。あとは制御装置へ触れ《獣禍連鎖》を起動すればいい。


それでも、地に伏したルクスの碧い単眼は消えなかった。動作不良を起こした機械腕が、中央制御装置へ伸びる。

機械の鋭い指先が地面を掻く。到底届かないが、決して諦めずに、もう一度。

肘の駆動部から火花を散らし、自らの重量を少しずつ引きずる。


「……もう少しでも動けば、あなたは壊れます」


『命令は……未完遂』


黒い機械腕が、また装置へ向かって伸びる。


『《獣禍連鎖》の……停止を……』


ネメシスの白棒を握る手が震えた。彼女の脳裏に、先ほど投げかけられた言葉が蘇る。


古の約定には、森と人界を滅ぼしてまで守る価値があるのか。


あの時、ネメシスはその問いに答えられなかった。履行する義務がある。ただ、それだけを機械的に繰り返しただけ。

命を慈しむと語りながら、人々を檻へ閉じ込め、約定のために無数の命を災禍へ晒そうとしている自分。

対して、獣の名を冠する黒い機械兵は、誰一人殺そうとしなかった。敵であるネメシスの中枢回路さえ、一度も狙わなかったのだ。


守るべき者から託された願いのために、ただ自分だけを燃やし尽くし、それでもなお手を伸ばしている。

この黒い機械獣が示したものは、ネメシスが五百年守り続けた約定とは、あまりにも違っていた。そして、あまりにも眩しい。


ネメシスは、ゆっくりとルクスへ背を向け、中央制御装置へ歩み寄る。

赤い警告灯が白い装甲を照らし、地中の《生態誘導杭》が起動命令を待って脈打っている。


彼女は白銀の長棒を両手で握った。黄緑色の雷撃がほとばしる。ルクスの単眼が、その後ろ姿を見つめていた。

ネメシスは白棒を振り上げ、そして、自らが守り続けていた中央制御装置の中枢へ、深々と突き立てた。


黄緑色の雷撃が装置の内部を駆け巡り、制御盤が弾け、赤い警告灯が一つずつ消えていく。

地中を満たしていた光も端から途切れ、森全体を覆っていた低い駆動音が急速に弱まった。


『同期異常――』


『《生態誘導杭》全基停止』


『《獣禍連鎖》――起動不能』


最後の音声が途切れ、静寂が戻った。

ネメシスは砕けた装置から白棒を引き抜くと、地に伏したルクスを振り返る。

その黄緑色の瞳に宿っていたものを、ルクスはまだ定義できなかった。


畏れ。敬意。あるいは、長いあいだ見失っていた希望。


「……あるいは、あなたなら」


ネメシスの足元に巨大な転移陣が広がる。

立ち昇る黄緑色の光が、白い機体を包み込んでいく。


「あの領域――神の庭に辿り着けるかもしれません」


光が天へ奔った、次の瞬間、ネメシスの姿は消えていた。

長距離転移の黄緑色の残光だけが、夜明け前の森へ静かに降り注ぐ。


砕かれた装置の前で、ルクスの碧い単眼はまだ消えずに輝いている。


神の庭。


その言葉だけが、戦いの終わった森に残されていた。



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