第44話 第五席次、闘神顕現
アトラス・ドレッドノートの全身で、複数の兵装が同時に起動した。
右腕のレーザーキャノンへ赤白い光が収束する。左腕のプラズマキャノンでは、青白い電光が砲身の内側を荒れ狂い、右肩の大型グレネードキャノンが低い駆動音とともに仰角を調整している。
『高出力攻撃、複数同時発射を確認』
ルクスが警告した直後、三つの火力が戦場へ解き放たれた。
レーザーが大地を横薙ぎに走る。巨大なプラズマ弾が地面を溶かしながら迫り、頭上からは複数のグレネードが弧を描いて降り注いだ。
「散って!」
アルズが腰から円筒形の魔導具を引き抜き、足元へ叩きつける。
筒が破裂し、虹色の光を含んだ濃密な煙が、三人とルクスの周囲へ一気に広がる。
《プリズム・スモーク》
微細な魔力結晶粉末が光学照準を乱し、侵入したレーザー光を無数の方向へ屈折させ無効化する。
アトラスのレーザーキャノンが煙幕を貫こうとするが、一本だった光線は内部で幾筋にも分裂し、威力を失いながら地面と空へ散っていく。
プラズマ弾も当初の照準を外れ、ルクスの側方で炸裂した。青白い爆炎が巻き上がり、周囲の小型ゴーレムをまとめて吹き飛ばす。
頭上から落ちてきたグレネードは、ユズリハが白雨で一発を弾き、アルズが盾を傾けてもう一発の軌道を逸らした。
それでも残る数発が地面へ着弾し、立て続けの爆発の後、土砂と機械片が視界を埋め尽くした。
それと同時に、デルタバーテックスが動く。無数の眼が煙幕内部を走査し、右腕の連結式十二銃身チェーンガンが高速回転を始める。
火を噴くような弾幕が、今度こそ土煙と虹色の煙を引き裂いた。
「ルクス、前へ!」
『了解』
ルクスはリネアの前へ出て可変盾を最大展開する。ただし、真正面には構えない。
ユズリハとの特訓で身につけた通り、盾面を僅かに傾け、弾体を正面から止めずに左右へ流す。
高密度弾体が盾へ連続して激突して、甲高い音と火花が連なり、弾丸が斜め方向へ跳ね返って周囲のゴーレムへ突き刺さる。
『盾基部負荷、許容範囲』
以前ならば耐久力だけで強引に受け止めて破綻していただろう。
今では敵の力そのものを、別の方向へ逃がしている。ユズリハが横目でその動きを見て少し頷く。
「ようやく、盾を壁以外に使えるようになったか」
デルタバーテックスはチェーンガンを撃ち続けながら、地面すれすれを滑るように高速移動していた。
一方のアトラス・ドレッドノートも、煙幕によって照準を乱されながら前進を止めない。左右の履帯が逆方向へ回転し、巨体がその場で急旋回する。
レーザーキャノンの砲身が、アルズとユズリハへ向いた。
「師匠、あっちは私たちで!」
「言われずとも分かっている」
ユズリハが白雨を構え、煙幕から飛び出した。アルズもその後を追う。
デルタバーテックスは、槍と刀の間合いから逃れるように高度を上げた。
人間の脚では、その一撃離脱を追い続けるのは難しいが、ルクスなら違う。
「ルクス、デルタを追って!」
リネアは敵二機の位置を見比べる。
前回のように真後ろから追いかけては、距離を維持されてしまうことは明らかだ。
「追いつこうとしないで。アトラスから引き離して!」
『了解。敵機進路の誘導を開始』
ルクスは正面に展開したフォースフィールドを蹴った。
《フィジカル・ブースト》が起動し、黒い巨体が一気に加速する。
デルタバーテックスはチェーンガンを連射しながら後退した。
ルクスは弾幕の隙間を縫い、敵の正面へは入らない。
左側へフォースフィールドを追加展開し、さらに《ミラージュ》を前方へ走らせる。
碧い残影が、デルタバーテックスの退路を塞ぐように飛び込んだ。
敵の無数の眼が一斉に明滅して鋭い反応を示す。
過去の戦闘記録から、デルタバーテックスも《ミラージュ》を学習していたようだ。
一部の眼は残影を追い、残る眼は周囲の魔力変動から本体を探している。
それでもチェーンガンの銃口が二度、僅かに揺れた。
残影か、本体か。デルタが判断に迷ったその一瞬で、ルクスは敵機の右側へ回り込む。
『進路を制限』
クリードディフェンダーの斬撃が、デルタバーテックスの左側面へ迫る。
そこでマニピュレーターに接続された二枚の盾が割り込み、刃と盾が激突する。
デルタバーテックスは衝撃を受け流し、フロート機構を最大出力にして後方へ滑った。
しかし、その方向にはルクスが先んじて展開したフォースフィールドがある。
その碧い壁へ接触する寸前、敵機は急激に高度を変えた。
「上!」
リネアが叫ぶと、ルクスはアンカーショットを地面へ撃ち込み、巻き取りの反動で機体を横へ振る。
直後、デルタバーテックスのレーザーブレードの一閃が頭上を通過した。
『攻撃軌道を回避』
「そのまま左を塞いで!城壁側へ戻らせないで!」
ルクスはデルタバーテックスへ食らいつき続ける。
速さで追いつくのではなく逃げられる方向を減らし、敵自身に進路を選ばせ、その選択先へ先回りする。
それはユズリハから繰り返し叩き込まれた間合いの作り方だった。
一方で、アルズとユズリハは、アトラス・ドレッドノートの周囲を左右へ分かれて走っていた。
アルズの槍が、右腕レーザーキャノンの照準器へ伸びる。
アトラスは巨体に似合わない速度で旋回し、履帯が地面を削り、土砂を巻き上げながら機体正面をアルズへ向ける。
瞬間、左腕のプラズマキャノンが至近距離で発光した。
「させるか!」
アルズは安易に盾で受けず、槍の穂先を砲身の側面へ叩きつけ、射線そのものを上方へ逸らす。
プラズマ弾が空へ向けて放たれ、飛行型ゴーレムの群れへ直撃して青白い爆発が空中で咲いた。
その隙に、ユズリハがアトラスの左側面へ踏み込む。正刀白雨が履帯の連結部へ振り下ろされた。
しかし瞬時にパルスシールドが展開される。半透明の障壁が刃を的確に受け止め、衝撃で大きく波打った。
「硬いな」
ユズリハが呟くと、アトラスの右肩が動いた。
大型グレネードキャノンが、ユズリハの足元へ照準を合わせている。
「師匠、下がって!」
発射された砲弾にもユズリハは退かず、白雨の腹で一発目の砲弾を豪胆にも弾いた。
即座に爆発が側面で起き、彼女の外套を激しく煽る。
そして二発目の着弾寸前、アルズが横から盾を滑り込ませた。爆風に押され、二人は数歩後退する。
アトラスはその機を逃さず、履帯を高速回転させて急速前進した。巨大な車体が師弟を押し潰すように迫る。
「大きいだけの木偶ではないか」
ユズリハの口元に、薄い笑みが浮かぶ。
「師匠、感心してないで手伝ってください!」
ユズリハは再び踏み込み、白雨がレーザーキャノンの旋回基部を狙う。
アルズの槍は、パルスシールド発生ユニットへ繋がる導管を突く。
だが、アトラスは左肩のシールドを細かく動かし、二人の攻撃を交互に受け止めた。
そして盾で防ぎながらも、砲撃を止めない。
レーザーで間合いを離し、グレネードで足場を潰し、プラズマキャノンで致命打を狙う。
重装甲と高火力だけではない、隙がない攻撃の連鎖。
それらを使い切るための演算能力と機動力まで備えた、アトラスはまさしく移動要塞だった。
▲▽▲―――▲▽▲
ヴァレリア外壁前。
主力同士の激突が始まった一方で、無数の冒険者と王国兵もまた、魔導ゴーレム軍へ立ち向かっていた。
「押し返せ!」
盾を並べた王国兵が、中型獣ゴーレムの突進を受け止める。
衝撃で数人の足が浮いたが、それでも列は崩れない。
後方から冒険者たちが飛び出し、露出した関節へ斧や槍を叩き込む。
その間にも上空から飛行型ゴーレムが魔術弾を降らせてくる。
魔術師部隊が障壁を張って防ぐが、シージ・ベヒモス群による第一射の被害で人手が足りない。
障壁の薄い場所を火球が抜け、地上で爆発した。
一人の冒険者が吹き飛ばされ、近くの仲間が駆け寄ろうとした。
「構うな!俺は大丈夫だ」
倒れた冒険者が血を吐きながら叫ぶ。
「今さら砲撃がなんだってんだ!恐れるものか!」
彼は欠けた剣を杖代わりに立ち上がる。
「俺たちのヴァレリアは渡さねぇ!野郎ども、続け!」
その叫びに、周囲の冒険者たちが応じる。
「「おお!」」
人型ゴーレムの剣が振り下ろされれば、二人の盾役が同時に受け止め、別の戦士が横から脚部を切りつける。
魔術師が敵の足元を凍らせ、弓使いがセンサー部へ矢を撃ち込んだ。
一体を倒しても、後ろから続々と次が来る。
重装型、射撃型、多脚型。
明らかに先ほどまでより性能の高い個体が増援として送り込まれていた。
そうした戦況の渦中にあっても中堅冒険者たちは少しずつ前進している。
だが、直衛ゴーレムの壁が厚すぎて、シージ・ベヒモスに有効打を与えるまでにはまだ遠い。
それでも誰一人として背を向けなかった。
彼らが魔導ゴーレム軍をここで引きつけ続けているからこそ、精鋭部隊は敵主力と戦えているのだ。
誰もが、自分にできる役割へ命を懸けていた。
西側では金級冒険者パーティ《暁の剣》が、一体のシージ・ベヒモスへ肉迫していた。
「カイル、右側の直衛を止めろ!」
パーティリーダーのレオンが剣を振るい、盾型ゴーレムの腕部を鮮やかに切り落とす。
敵の装甲へ力任せに叩きつけるのではなく、関節や継ぎ目を選んで刃を通している。以前よりも無駄の少ない剣筋だった。
「もうやってる!」
後方からカイルが叫ぶ。かつて通常の弓を扱っていた彼の手には、魔力回路が刻まれた魔導弓が握られていた。
弦を引くたび、魔力によって属性矢が形作られる。
青い矢が狙い澄まして二本同時に放たれた。
一矢は飛行型ゴーレムの翼を凍結させ、もう一矢は地上の砲撃型ゴーレムのセンサーへ突き刺さる。
続けて、カイルは矢の属性を変えた。
黄白色の雷矢が盾型ゴーレムの間を縫い、後方の小型障壁発生機へ命中する。
数瞬の後、障壁が明滅して消えた。
「レオン、今だ!」
「分かってる!」
レオンは仲間たちとともに、シージ・ベヒモスの片側固定脚へ攻撃を集中した。
ミーナの炎魔術とレオンの剣撃が炸裂して装甲を砕き、エリスの聖光術が露出した魔力管を焼く。
レオンが最後に大きく踏み込み、剣へ全身の力を乗せる。
渾身の一閃で鋼鉄と魔力回路が同時に断たれた。
直後、巨大な固定脚が根元から折れてシージ・ベヒモスの巨体が片側へ大きく傾く。
背部砲身の照準がヴァレリアから外れ、内部の安全機構が砲撃を中断する。
「一体止めたぞ!」
しかし歓声を上げる間もなく、残る三体のシージ・ベヒモスは既に装填を終えていた。
長大な砲身が再びヴァレリアの都市へ向けられる。
「伏せろ!」
遠くで誰かが叫んだのとほぼ同時に、三つの轟音が重なった。《複合破城弾》が再び空へ撃ち上げられる。
一発目は損傷した防御障壁へ直撃した。魔術師たちが必死に支えるが、物理弾体が障壁を押し込み、内部の属性魔力が爆発する。
光の壁が砕け、魔力の破片が瓦礫とともに雨のように降った。
二発目は外壁防衛塔へ命中した。
厚い石造りの塔が中ほどから折れ、設置されていた大型弩砲と兵士たちが瓦礫の中へ消える。
三発目は市街地へ落ちた。
大爆発とともに建物が吹き飛び、炎が大通りを走る。
すでに避難が完了していた街区だったが、都市を支える倉庫や工房が次々に燃え上がった。
ヴァレリアが再び炎に包まれる。
遠くからでも、その黒煙ははっきりと見えた。
「まだ三体残ってる……」
リネアの声が震えるが、デルタバーテックスから目を離すことはできない。
敵機のレーザーブレードの一閃が、バックステップでかわしたルクスの胴体を掠める。
『戦闘への集中を要請』
「分かってる!ごめん」
ルクスはクリードディフェンダーで光刃を外へ弾き、反撃へ転じる。
デルタバーテックスは後退して射撃戦の距離を稼ぐが、ルクスは正面から追わず、アンカーショットを左側の地面へ撃つ。
巻き取りによる急旋回で高速移動し、《ミラージュ》による残影を放ちつつ敵の進路へ先回りしてみせる。
デルタバーテックスも多眼センサーを高速明滅させ《ミラージュ》の発生源を追跡している。
チェーンガンの苛烈な弾幕が本体と残影の両方を薙いだ。
ルクスは可変盾で数発を流し、フォースフィールドを蹴って高度を変える。
互いに学習を繰り返し、互いの戦術を把握しつつある。
一つの判断がわずかに遅れれば、その瞬間に致命傷を受ける高速の読み合いだった。
アトラス・ドレッドノートの周囲でも、アルズとユズリハが絶え間なく攻撃を続けている。
アルズの槍が照準器を掠め、ユズリハの白雨がパルスシールドの端を切り裂く。
アトラスも負けじと履帯を翻し、巨体を滑らせるように回転させて二人を砲線上へ捉える。
ユズリハ師弟も決定打に未だ届かずにいる。
ルクスもデルタバーテックスを完全には捕まえられない。
戦闘は、そうした危うい均衡を保って推移していた。
その様子を、第五席次ベイカーは離れた場所から観測している。機械化された右腕を組み、僅かに目を細める。
王国側は、彼の予想以上に粘っている。中堅冒険者たちは高性能魔導ゴーレム軍を相手に退かず《暁の剣》はシージ・ベヒモスを一体止めた。
アルズはアトラスの火力を封じ、ユズリハはパルスシールドの展開周期を読み始めている。
そしてルクス。数日前までとは、明らかに動きが違う。
速度で押すだけでも守るだけでもなく、敵の進路と選択肢を奪い、戦場そのものを操作し始めている。
「想定以上だな」
ベイカーが呟いた。
「人間にしておくには惜しいほどだ」
アトラスの胸部にある拡声器から響いてきたその言葉を耳にして、アルズが低い声で答える。
「褒められても嬉しくないね」
ベイカーは笑わなかった。
「褒めているわけではない。お前たちが現生種という不完全な器に縛られていることを、惜しいと言っただけだ」
やがて彼はおもむろに一歩前へ出た。
隣に佇んでいたミリアが僅かに眉を動かす。
「ベイカー?」
「デルタもアトラスも、よく働いた」
ベイカーはルクスたちを見渡す。
「だが、ここから先は俺がやる」
その瞬間、デルタバーテックスとアトラス・ドレッドノートへ同時に信号が送られた。二機が突如攻撃を中断する。
デルタバーテックスはフロート機構を噴かせ、右後方へ滑る。アトラスはパルスシールドを展開したまま履帯を後退させ、左後方へ移動した。
「逃げるの?」
リネアが警戒を強める。
『否定』
ルクスの単眼がベイカーを捉えた。
『対象ベイカーより、急激なエネルギー増大を検出』
接近してくるベイカーの身体から、低い金属音が響いた。
最初は胸部、次に肩、そして腕と脚部。皮膚の下を、淡い白色の光が走る。
機械化されていた右腕だけではなく、全身の内部に埋め込まれていた機構が、一斉に目覚め始めたのだ。
「古の約定に従い」
ベイカーが低く告げる。背骨に沿って白い光が立ち上る。
胸部の皮膚が複数の線に沿って開き、その内側から硬質な装甲板がせり出した。
「今こそ我が力を、主神に捧ぐ」
肩部が膨張する。内部から展開されたプロテクターが筋肉と骨格を覆い、彼の巨躯をさらに大きく見せる。
腰、太腿、脛。全身へ連続して新たな装甲が形成されていく。
鎧を身につけたのではない。身体の内側に眠っていた鎧が、外へ現れたのだ。
硬質な神代のプロテクターは継ぎ目の一つ一つが淡い白色に発光し、内側を巡る膨大なエネルギーを戦場へ漏らしている。
最後に、両前腕が大きく変形した。
幾重もの装甲が重なり、無骨で巨大なガントレットを形成する。
人間の頭部よりも大きい、破砕に最適化された形状の拳。
彼が指を曲げるたび、周囲の空気が低く震えた。
闘神装
第五席次ベイカーの真なる戦闘形態。
ミリアはその姿を見つめ、機械化された瞳を細めた。
懐かしむような、どこか感慨深い声で言う。
「盟装を使うのね、ベイカー」
彼女の白い外套が、ベイカーから溢れる力の余波に揺れる。
「最後まで見届けるわ、貴方の闘いを」
ベイカーは返事をしなかった。
ただ、一度だけ巨大な拳を握り締める。
轟音がとどろき、高所から降り立った彼を中心に空気が爆ぜて大地へ蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
その衝撃だけで、周囲に残っていた小型ゴーレムの数体が横転する。
ルクスの内部で警告表示が連続して点灯した。
『対象ベイカー、形態変化を確認』
『エネルギー反応、急速増大』
『構造解析、不能領域多数』
『推定戦闘出力――単独で敵大型魔導機兵二機を上回る可能性』
アルズの表情から、一切の軽さが消えた。
愛槍のストームピアサーを両手で構え直す。
「機体を従えている本人が、一番危険ってわけか」
ユズリハは白雨を正眼に構えた。その目だけは、わずかに楽しげだ。
「ようやく、羊飼いが出てきたか」
「師匠、喜んでる場合じゃありませんよ」
「喜んではいない。期待しているだけだ」
リネアはルクスの搭乗席で、乾いた喉を鳴らした。
ベイカーの威圧感は、デルタバーテックスともアトラスとも異なる。
機械兵器のような冷たさでも、巨大な魔物のような本能的な恐怖でもない。
人の形を残しながら、人の限界だけを捨て去った存在。
自ら選び、自ら鍛え、自らを兵器へ作り替えた超越者。
ベイカーは両拳をゆっくりと持ち上げた。
一方を前へ、もう一方を腰の位置へ。
巨大なガントレットを備えていながら、その構えに隙はなく泰然としている。
まるで、三人とルクスを同時に相手取ることなど、当然であるかのように。
デルタバーテックスとアトラス・ドレッドノートは、ベイカーの左右後方で停止していた。
退却したのではなく、主の戦いを妨げない位置へ下がっただけ。
必要とあれば、いつでも再び砲撃と弾幕を浴びせてくるだろう。
背後では、残るシージ・ベヒモスが三射目の装填を始めている。
ヴァレリアから上がる炎と黒煙が、空を暗く染めていた。
ベイカーがルクスたちへ告げる。
「来い、現生種ども」
淡い白色の光が、闘神装の節々からさらに強く漏れ出す。
「我が信念、止められるものなら止めてみせろ」
ルクスがクリードディフェンダーを構え、可変盾を前へ出す。
アルズが槍先を下げ、ユズリハの白雨が燃える都市の光を映す。
リネアは恐怖を押し込み、戦場全体を見渡した。
敵は一人。その一人が、先ほどまで戦っていた二機を上回る。
魔導機兵を従える者が、魔導機兵より弱いなどと。そんな脆い前提を誰が決めたのだろう。
第五席次ベイカー。闘神装
戦場の均衡を踏み砕く存在が、今、彼らの前へ立ちはだかった。




