第四十話 プラチナ級冒険者アルズ・カスケード
城塞都市レグナードから王都へ戻って数日後。
ギアライト修理店に、一通の金級指名依頼が届けられた。
依頼書には王都冒険者ギルドの正式印が押され、発行番号、担当職員名、危険度、報酬額まで不足なく記載されている。
内容は、王都北東に位置する地下遺跡《カロス深坑》に出現した金級指定魔物、《クリスタル・マンティス》の討伐。
全身を硬質な魔力結晶に覆われた巨大なカマキリ型の魔物で、近隣鉱山の採掘隊に複数の被害を出しているという。
「討伐後の素材は、半分まで優先取得可能……」
受付台で依頼書を読んでいたリネアは、報酬欄の下に記された条件へ目を止めた。
クリスタル・マンティスの結晶殻は、魔導兵装の絶縁材や魔力増幅器に利用される希少素材だ。
ルクスの装備補修にも間違いなく使える。
期限も厳しすぎず、危険度も金級依頼としては妥当だった。
「また大きな依頼ですね」
セアが期待を込めて覗き込む。
「でも、レグナードから戻ったばかりですし、少しくらい休んでも……」
「魔物の所為で採掘が止まってるなら、長引くほど困る人が増えるから」
リネアは依頼書を畳んだ。
金級冒険者になった以上、危険な依頼を避けるわけにはいかない。
何より、ルクスは既に修復を終えていて悪くない状態だ。
デルタバーテックスとの戦いで損傷した可変盾も、アンカーショットのワイヤーも交換済みだった。
『依頼難度、対応可能範囲』
裏庭からルクスの声が届く。
「うん。じゃあ、受けよう」
リネアは指名依頼を受注し、カロス深坑へ向かっていく。
その依頼が、よく作られた餌だとは知らずに。
◇
《カロス深坑》は、かつて魔力結晶の採掘場として使われていた地下遺跡だった。
採掘を進めるうち、旧文明の石造区画が発見され、内部から魔物が出現したことで封鎖されたという。
坑道は広く、ルクスの巨体でも問題なく進めた。
リネアは背部の搭乗席から周囲を見渡す。
壁には採掘時代の支柱が残り、その奥には人の手で造られたとは思えない滑らかな石壁が続いている。
「魔物の気配、ある?」
『小型個体の反応を複数確認。ただし、依頼対象と推定される大型反応は未検出』
「もっと奥かな」
道中で遭遇したのは、洞窟ネズミや小型の岩蜥蜴程度だった。
金級指定魔物が縄張りにしているにしては妙に静かすぎる上、戦闘痕も見当たらない。
リネアは何度か疑問を覚えたが、依頼書に添付された地図は正確だった。分岐、崩落地点、旧採掘区画の配置まで、実際の坑道と一致している。
やがて二人は、最奥部の巨大空洞へ辿り着いた。
天井は高く、中央には旧文明の祭壇らしき石造物が残されている。
そして、その前に討伐対象がいた。
「クリスタル・マンティス……」
巨大な蟷螂型魔物が横たわっている。だが、生きてはいない。
結晶に覆われた二本の鎌は地面へ投げ出され、胴体中央の魔石は光を失っていた。
『対象個体、生命反応なし』
リネアはルクスから降り、慎重に死骸へ近づく。
腐敗は始まっていない。殺されてから、それほど時間は経っていないはずだ。
「他の冒険者が先に倒したのかな」
そう言いながら傷口を調べ、そこでリネアは表情を変える。
結晶殻がほとんど壊れていない代わりに、首の付け根、脚の関節、腹部の神経節、魔石と身体を結ぶ魔力管だけが正確に破壊されている。
無駄な傷が不自然なほど一つもない。
「違う……魔物同士の争いじゃないし、普通の討伐でもなさそう」
リネアは断ち切られた関節へ指を添えた。
「素材を傷つけず、動けなくなる場所だけを狙ってる。これを倒した人は、クリスタル・マンティスの構造を事前に全部知ってたみたい」
それだけではない。死骸の下には、乾いていない黒い体液が残っている。
依頼が発行された時点では、まだこの魔物は生存していたはずだ。しかし討伐隊の記録も、依頼変更の連絡もない。
リネアは胸元の金級識別証へ触れた。
「ギルドへ確認を――」
通信は繋がらなかった。
識別証の紋様が一瞬だけ光り、すぐに沈黙する。
『通信阻害を検出』
ルクスが周囲へ単眼を巡らせる。
『複数の魔力構造体反応。空洞外周に配置済み』
リネアは立ち上がり周囲を注意深く見回す。
壁際に、地図には記されていない金属杭が埋め込まれていた。等間隔に六本。
杭には複雑な魔術回路が刻まれ、淡い光が流れ始めていた。その術式にはどこか見覚えがある。
「転移装置……?」
「正解よ」
女の声が、空洞の奥から響いた。
弾かれるように振り返った先で、石柱の陰から、白い外套をまとった銀灰色の髪の女性が現れる。
その隣には、大柄な男が続く。その男の右腕は肩から先まで金属で覆われていた。
二人とも冒険者には見えないし、ただの魔術師や技師でもないだろう。
「初めまして、リネア・ギアライト」
女性は穏やかに微笑んだ。
「あなたと、その子に会いたかったわ」
『敵性反応を確認』
ルクスが即座にリネアの前へ出る。そしてクリードディフェンダーを抜き、可変盾を展開した。
「まさか、あなたたちが、レグナードの防壁を壊したの?」
「ええ」
女性は悪びれる様子もなく答えた。
「まずは名乗っておきましょうか。私は第三席次ミリア。世界を正しい形へ作り直す組織の魔導工兵よ」
大柄な男が機械腕を鳴らす。
「同じく第五席次、ベイカーだ。冥土の土産に教えといてやる」
ミリアの機械じみた紫色の瞳がルクスへ向けられる。
「ルクスはここで破壊する。あなたは生きたまま連れて帰るわ、リネア」
「私を……?」
「あなたの知識が欲しいの。その機体を目覚めさせ、成長させた技術がね」
ベイカーは不敵に笑った。
「大人しくしていれば、女の方は痛い目を見ずに済む。獣は諦めろ」
「断ります」
リネアは迷わず毅然と答える。
その瞬間、六本の転移杭が一斉に輝いた。空間が歪みゆく。
やがて青紫色の光の中から、脚を持たない多眼の機体が浮かび上がった。
修復された《デルタバーテックス》
切断したはずの右腕には、新たな連結式十二銃身チェーンガンが装着されている。
その反対側では、赤い魔力火花を撒き散らしながら、巨大な戦車型機体が転移してきた。
無限軌道の下半身に重装甲の人型上半身が載っている。左右の腕には種類の異なるエネルギー系と思しき重火器を携えており、両肩部にも武装が装備されている。
《アトラス・ドレッドノート》
移動要塞と呼ぶに相応しい巨体が、唯一の退路を塞ぐ。
『敵戦力を解析』
ルクスの声が低くなる。
『デルタバーテックス、完全修復を確認。新規大型敵機、火力および防御力ともに高水準と予測』
「勝てる?」
短い沈黙が降りる。これまでルクスは、どれほど強い相手にも攻略法を提示してきた。
だが、今回の返答は違った。
『両敵機との同時戦闘における勝利確率、低』
リネアの背筋に冷たいものが走る。
『リネアの生存を最優先。退路確保を試行』
デルタバーテックスのチェーンガンが回転を始めた。
同時に、アトラス・ドレッドノートの両肩で兵装が起動する。
『リネア、後方へ』
ルクスは可変盾を広げ、直後に猛烈な弾幕が空間を埋め尽くした。
チェーンガンの高密度弾体が盾へ降り注ぎ、アトラスの肩部砲塔から放たれたグレネード弾が床と壁を同時に爆砕する。
岩片と炎が飛び散る中、ルクスはリネアを庇いながら横へ跳ぶ。
しかし、地下空間では《フォースフィールド》を使える範囲が限られる。
次の瞬間にはデルタバーテックスが高速で滑り込み、レーザーブレードを鋭く振るってくる。
ルクスがそれをクリードディフェンダーで受け流した直後、アトラスの右腕のプラズマキャノンが発射された。
青白い弾体が可変盾へ直撃してエネルギー爆発を起こし、盾表面が一瞬で赤熱した。
『可変盾、損傷率上昇』
さらにアトラスの左腕のレーザーキャノンが空間を薙ぐ。
ルクスはアンカーショットを天井へ撃ち込み、リネアを抱えたまま強引に射線から離れた。
辛うじて回避したのも束の間、着地先にはデルタバーテックスが待っている。
レーザーブレードが迫るのを、再びクリードディフェンダーで弾く。
しかし、その隙を狙ってアトラスの砲口が火を噴く。まるで逃げ場がない敵機の連携と猛攻。
高速機が動きを止め、重装機が回避先をことごとく焼く。
ミリアとベイカーが狙って組み上げた、対ルクス用の殺傷陣形だった。
『防御継続困難』
ルクスの演算が敗北へ傾き始めた、その時。
鋭い金属音が響き、デルタバーテックスのレーザーブレードが、横から突き出された槍によって弾き上げられる。
「二対一で新人狩り?」
明るく張りのある女の声が通る。
「ずいぶん品のない真似をするね」
空洞へと続く上方の亀裂から、一人の冒険者が飛び降りてきていた。
長い銀白色の髪を高く束ね、右手には細身の長槍。左腕には傷だらけの中型盾を装備している。
槍撃が突き出され、穂先はデルタバーテックスの装甲そのものではなく、左肩マニピュレーターの関節へ正確に入り込んだ。
同時に高い振動音が聞こえる。槍内部の機構が作動し、関節の結合部を内側から揺さぶっているのだ。
デルタバーテックスの盾が強制的に下げられる。
「アルズ・カスケード……」
ミリアの表情から、初めて余裕が消えていた。
「プラチナ級上位冒険者が、なぜここにいるの?」
「依頼書が変だったからさ」
アルズは槍を引き抜き、振り向かずに答えた。
「印章も署名も発行番号も完璧。でも、カロス深坑を管轄する支部の識別番号が三年前のものだった。現場を知らない奴が、古い記録から作ったんだろうね」
リネアは目を見開く。自分は、何も疑わずに受けてしまった依頼である。
「ギルドで確認した時には、あなたたちが出発した後だったから追ってきた。間に合ってよかったよ」
アトラス・ドレッドノートのレーザーキャノンがアルズへ向く。
アルズは腰の筒を引き抜き、床へ叩きつけた。
「目を閉じる必要はないよ。ただし、レーザーは撃たない方がいい」
筒が破裂し、その中から虹色に輝く濃い煙が空洞へ広がる。
《プリズム・スモーク》
微細な魔力結晶を含んだ煙幕が、レーザー光と照準用の探査波を乱反射させていく。
アトラスのレーザーが放たれるが、光線は煙の中で何重にも細かく散乱し、威力を失って壁面へ逸れた。
デルタバーテックスの無数の眼も、次々に焦点を失う。
「煙の粒子が光を乱してる……」
リネアが呟く。
「機械兵相手に正面から火力比べをする必要はない」
アルズは煙の中を迷わず走った。
「見えなくして、考えられなくして、それから壊す!」
チェーンガンが火を噴く。アルズは左腕の盾を僅かに傾け、飛来した弾体を正面から止めずに床へ弾いた。
槍撃が再び連続で閃く。
一撃目はデルタバーテックスのセンサー。二撃目はフロート機構の姿勢制御板。三撃目は盾を保持するマニピュレーターの付け根。
装甲を無理に貫こうとはしない。
動くため、見るため、守るために必要な場所だけを正確に狙っている。
リネアはその機械の壊し方を知っている動きに、息を吞む。
ただ強いのではない。敵の構造を見て、必要な場所だけを選び取って攻撃している。
アトラスの無限軌道が動き、アルズを押し潰そうと前進する。
それと同時に右肩のグレネードキャノンが煙幕内部へ乱射された。
アルズは後方へ跳びながら、盾の裏側から短銃を抜く。
その銃から撃ち出されたのは、細い針を備えた特殊弾だった。
弾頭はアトラスの左肩、パルスシールド発生ユニットの基部へ突き刺さる。
『異常信号を検出』
ルクスが思わず、といった様子で反応した。特殊弾から、膨大な無効命令と偽情報が敵機内部へ流れ込んでいる。
《演算阻害弾――デジタルジャマー》
アトラスの動きが一瞬だけ完全に止まった。パルスシールドが明滅し、展開に失敗する。
グレネードキャノンの照準がずれ、放たれた砲弾が天井を破壊した。
「リネア!今だよ!」
アルズが叫ぶ。その一声で、リネアの思考が切り替わった。
呆けて見ている場合ではない。自分も戦うためにここにいるのだ。
「ルクス、アトラスの左肩!障壁が戻る前に発生ユニットを壊して!」
『了解』
ルクスの胸部で星紋動力環が輝いた。
《フィジカル・ブースト》
四脚が床を蹴る。アトラスのプラズマキャノンが動くが、演算阻害の影響で照準が遅い。
ルクスはアンカーショットをアトラスの胸部装甲へ撃ち込み、巻き取りの勢いで巨体の側面へ跳び上がった。
空中でクリードディフェンダーへ《エナジーブレード》が重なる。
碧い斬撃が、左肩のパルスシールド発生ユニットへ狙い違わず叩き込まれた。
装甲が裂け、内部の魔導回路が露出し、次の一撃で完全に切断された。発生しかけていた障壁が掻き消える。
『敵防御機能、一部喪失』
「いいね!」
アルズは軽妙に笑い、すぐにデルタバーテックスへ向き直った。
デルタバーテックスは煙幕から離脱しようと高度を上げている。
しかし姿勢制御板を損傷し、以前ほど滑らかに動けていない。
その隙を見逃さず、アルズの槍が地面を突く。
柄をしならせ、その反動でアルズ自身が高く跳躍した。
その勢いのままフロート機構の側面へ、振動を伴う槍撃を叩き込む。
青紫色の眼光が不規則に明滅してデルタバーテックスが傾くが、それでも執念で右腕のチェーンガンをアルズへ向ける。
そこでルクスが間へ割り込み、クリードディフェンダーとレーザーブレードが激突した。
『アルズ・カスケードへの攻撃を阻止』
「助かるよ、ルクス!」
アルズはルクスの背を踏み台にし、デルタバーテックスの右腕へ飛び込んだ。
槍の穂先が、チェーンガンの連結部へ突き刺さる。一度では完全に切断できない。
だが、固定機構が歪み、十二本の銃身が不自然に傾いた。追撃にルクスが可変盾で砲身を殴りつけると、連結部から火花が噴き上がった。
一方、アトラス・ドレッドノートも無傷ではなかった。
パルスシールドを失い、デジタルジャマーによって照準と姿勢制御が乱れている。
それでもプラズマキャノンを強引に発射する。
それに対しルクスは《ミラージュ》を展開。碧い残影が砲撃を受け、その隙に本体が横へ抜ける。
煙幕の中からアルズが飛び出し、レーザーキャノンの照準器へ槍を突き込んだ。割れたセンサーから火花が散る。
二機の魔導兵器はまだ戦える状態ではあったが、当初の優位は失われていた。
デルタバーテックスは高速機動を封じられつつある。アトラスは照準と防御機能を失い、得意の制圧砲撃を押しつけられない。
ミリアの機械眼へ、戦況予測が高速で表示される。
リネアの生存確保。ルクスの完全破壊。敵増援の排除。
三つを同時に達成する確率が、急速に低下していく。
「撤退するわ」
ベイカーが苛立ったようにそう言うミリアを睨む。
「まだ潰せるだろ」
「目的は勝負ではない。ルクスの破壊よ」
ミリアはどこまでも冷静だった。
「こちらだけが損耗する戦闘を続ける意味はない」
転移杭が再び輝き出す。アルズがその変化に即座に気付いた。
「ルクス、下がるよ!」
アトラスが残るグレネードを一斉発射する。爆発が空洞を揺らし、岩片と煙が視界を覆う。
ルクスは可変盾を広げ、身を挺してリネアとアルズを庇った。
煙が薄れた時、デルタバーテックスとアトラス・ドレッドノートの姿は消えていた。ミリアとベイカーもいない。
残されたのは、焼け焦げた転移杭と、損傷した空洞だけだった。
「逃げた……」
リネアが呟く。アルズは槍を下ろし、まだ警戒しているものの追跡する様子はない。
「追わないんですか?」
「追わないよ」
アルズは即答した。
「あいつらは依頼から地形まで全部用意して、私たちをここへ誘い込んだ。逃げ道に二つ目の罠がない保証なんてない」
その合理的な判断は、かつてデルタバーテックスを追わなかったルクスと同じだった。
勝てるかもしれない好機より、守るべき者の安全を優先する。リネアは、アルズという冒険者を改めて見つめた。
単純に強いだけではない。深い知識があり、戦況に有効な道具がある。観察し、考え、危険を見極める戦略眼も。
これが、プラチナ級上位。自分より遥か先を歩く冒険者の姿だった。
◇
アルズは王都までの護衛を申し出た。
「連中が諦めたとは思えないからね。少なくとも、ギルドへ入るまでは一緒に行くよ」
リネアに断る理由はなかった。
王都へ戻った三人は、通常の受付を通らず、冒険者ギルド最上階の執務室へ案内された。
ギルドマスターの机には、カロス深坑の依頼書と、発行記録が並べられる。
「この依頼は、王都ギルドから発行されていない」
ギルドマスターは厳しい表情で断言した。
「印章も署名も本物と見分けがつかない。だが発行番号に対応する原本が存在しない」
アルズが腕を組む。
「古い支部番号を使っていた。過去の記録へ侵入して、書式を丸ごと複製したんだろうね」
リネアはミリアたちから聞いた言葉を報告した。
裏組織
第三席次ミリアと、第五席次ベイカーという魔導工兵の存在。
目的はルクスの破壊と、リネアの生存確保。
報告を耳にしたギルドマスターの表情がさらに険しくなる。
「これは一冒険者への襲撃だけに留まる事件ではない。冒険者ギルドの依頼制度そのものへ入り込み、信用を武器として利用した」
彼は依頼書を握り締めた。
「今後、リネア・ギアライトへの指名依頼は本部で二重認証し、各支部にも警戒を通達する。アーキテクトについても、王国と連携して調査を始めよう」
報告を終え、執務室を出たところで、リネアはアルズを呼び止めた。
「あの、アルズさん」
「何だい?」
「今日は、本当にありがとうございました。アルズさんが来てくれなかったら、私もルクスも……」
「間に合ったんだから、それでいいよ」
アルズは軽く微笑んだが、リネアは頭を下げるだけでは足りないと思った。
背の長槍にも、左腕の盾にも、今回の戦闘で新しい傷が増えている。
どちらも何度も直され、大切に使われてきた装備だと分かっていた。
「アルズさんの装備の修理、これから優先的に受けます」
「へえ?」
「代金も、できるだけ安くします。だから、壊れたり調子が悪くなったりしたら、いつでもギアライト修理店へ持ってきてください」
アルズが面白そうに目を細める。
「無料じゃないんだ?」
「無料にすると、アルズさんが遠慮すると思うので」
一瞬の沈黙の後、アルズは声を上げて笑った。
「よく分かってるね」
そして右手を差し出す。
「じゃあ、次に装備を壊したら頼らせてもらうよ。リネア」
リネアはその手をしっかり握る。
「はい。必ず直します」
傍らにいたルクスの碧い単眼が、二人の握手を見つめる。
『アルズ・カスケード』
「何だい?」
『リネアおよび当機の救援実績を確認。友好対象として登録』
アルズは少し驚いた後、嬉しそうにルクスの装甲を軽く叩いた。
「光栄だね。次は助けに入らなくても済むよう、もう少し早く会いたいものだ」
リネアも朗らかに笑う。
命を狙う強大な敵が現れた。
冒険者ギルドの正式な依頼すら、もう無条件には信じられない。
状況は、これまでより確実に危険になっている。
それでも、新しく信頼できる人と出会うことができた。
プラチナ級上位冒険者、アルズ・カスケード。
白銀の槍を携えた先達との出会いは、リネアとルクスが次の戦いを生き抜くための、大きな力になるはずだ。




