殺意高すぎじゃない?
殺意高すぎじゃない?
「でも、逆ザマァは……通常ルート攻略後のコンテンツなのよね」
「けれど、これは現実でゲームとは違う。魂の動きも魔力のうねりも、すべては因果律に沿って流れていくのよ」
「因果ねぇ……」
「ならば、誰かがあなたを狙ってゲームを崩してると考えるべきじゃない?」
「そうなるね」
「自分に都合がいいように下準備──ならば今動いてるのは悪役令嬢側、ね。誘拐指示を出せる立場ですもの」
カーティスが指を鳴らすと、地図に魔術式の光が走る。
いくつかの地点に波紋のような干渉痕が浮かび、最も強い一点──歪みの中心に向かって、すべてが収束していた。
「課金アイテムだわ──こんなに沢山使ってるなんて……」
「中心は──この屋敷。あなた、ね」
「……やっぱり」
間違いなく私と同じような転生者がいる。
(予定されてないイベントが起きた時点で、こうなるのは分かってた)
物語はもう、壊れ始めている。
だからこそ私は動かなければならないのだ
カーティスがひとつの魔道具に手をかざして始めた。
淡く光る水晶球の中に、屋敷内の空間構造と魔術的な流れが立体的に浮かび上がっている。
(金に物言わせて揃えてるわね……)
「……どうも、引っかかってるのよね。さっき、侍女の一人が自分の部屋が二つあるように感じたって、妙なことを言い出して」
「二重記憶? 幻覚系の魔術かも。ちなみにそれも課金アイテムにあるわ」
私が傍らで即答すると、カーティスが「ご明察」と笑った。
「結界が乱れていたの。誰かが、範囲的に記憶をいじった痕跡がある」
「範囲? 個人じゃなくて?」
「ここには選ばれた人しか入れないもの。でもね、見て?」
カーティスは水晶球を回転させながら、屋敷の一角を指さした。
そこには、微かな魔術の焼き跡が残っていた。
無理に内側から侵入した形跡──外部の結界に干渉した者がいる。
私は目を細め、その痕跡を覗き込んだ。
「このパターン……見覚えがある。防御結界の押し開き型。しかも紋様の残留がある……」
光の線がいくつか交差する位置。
その形に、私は凍りついた。
「──これは……ヴァレフォール家の式紋。悪役令嬢本人はさすがに来てないだろうから──誰かに渡した課金アイテムの残滓だと思う」
言葉にした瞬間、じわじわと恐怖が這い上がってくる。
「ヴァレフォール……あの王太子の婚約者様の御実家ってやつ?」
「そう、悪役令嬢セレスティーナ・ヴァレフォール。彼女の魔術は癖があるの。使用魔力の回路が特殊で、圧力のかけ方も独特……まあ、『リリィ』も独特だけど。──これは間違いないわ」
「特徴」
「そう。セレスティーナは薔薇のモチーフ、私は百合。キャラのイメージフラワーから来てるんだとおもう」
カーティスは顎に指を当てて考え込み、にやりと口元を歪める。
「これはもう、前哨戦じゃないの」
魔術的な干渉、それも明らかな個人の攻撃紋。
しかも全部強力な課金アイテムだ。
(──こんなに早く『本気』の標的になるなんて、正直思ってなかった)
リリィが顔を出すはずのないこの時期に、ヴァレフォール家の魔術が無関係のはずのカーティスの屋敷の結界に干渉している──これは偶然ではありえない。
(いったいどこで私は見つかったんだろう? 最初から私の存在を知ってないと、このタイミングでは無理でしょ)
「つまり……」
「ええ。セレスティーナがあなたの存在を知っている。少なくとも、消すべき対象として認識してる」
私は、l背筋がぞくりとするのを感じながらも、冷静にうなずいた。
「……転生者、それもヘビーユーザーの大人ね。こんなに課金アイテムも買えて、全部無駄なく投入してる──」
「ってことは、廃課金ガチ勢……だっけ? ソレが今この世界に降臨してるってわけ?」
「そうだと思う。そして私を排除しようとしてる。課金アイテムがどうやって持ち込めているのかも、サポートキャラがいるのかもわからない……」
(出せる情報は惜しみなく共有すべきよね)
私は黙ったままのカーティスに向かって、話を続けた。
「そのサポート役は、デフォルトならそば付きの侍女なの。でも……サポートキャラを変える課金アイテムがあるからね」
表情が自然に引き締まる。
(このまま、見つかるまで逃げ続ける?──違う。私はそんなことのために記憶をリロードしたんじゃない)
「ねえ、カーティス。このままだと、向こうがどんどん先手を取ってくるわ。そろそろ、こっちから動く時かもしれない」
「ようやくその気になったのね、リリィ」
カーティスが水晶球を消し、扉の方を向いて言った。
「さあ、話を詰めましょう。あなたの次の一手を考える時間よ」




