特例
ヒロイン、その後
私は三年間楽しく留学生活を楽しんだ。
殿下とは時々書簡を交わしていたし、彼が王の名代でファピンやその周辺に来た時はお忍びでデートもした。
「正妃が子を産まなかった場合、側妃が立てられるのは知っているな?」
エドワールはファピンの大きな公園のベンチで、屋台で買った焼いた肉を器用に串から食べつつ、私に話しかけてきた。
「法律ではそうなってますね、エド様」
「私は君を推すつもりだが──」
「無理でしょう、私は来月には聖女を襲名するんですよ?」
「確かに現役聖女が王家に嫁ぐ前例はない」
「だったら……」
エドワールは私を遮り、ニヤリと笑った。
「前例は作るものだ」
そんなにうまくいくのだろうか?
確かに前例は作るものだとは思うけれど。
「諸侯たちの承認はもぎ取った。私たちに子が授かった場合、王家の色の子は王族に。アーヴェルンの色の子はアーヴェルンに」
「そんなにうまくいきますかね? 私に何人産ませる気ですか」
「何人いたっていいだろう」
「まあ、そうですけど」
「カーティスとイルマの結婚式では、ブーケをしっかり受け取ってたじゃないか」
エドワールは私の頬についた汚れをハンカチで拭き取り、額にキスを落とした。
「ヴァレフォールはどうするんですか」
セレスティーナをどうするのかが問題じゃない?
また狙われるのは勘弁して欲しいもの。
「ヴァレフォールは私たちの子と婚姻出来れば問題ないと言っている」
ヴァレフォール公爵とネリネ夫人の間には既に男児が二人産まれている。
これからも生まれるだろう。
ネリネ夫人はまだお若いから。
「で、当の正妃はどうなるの?」
「三年子ができなかったら、離縁もありなのだが……あれを野に放つのは危険過ぎる」
「じゃあ、今のまま離宮で?」
「そうなるな。ただし、王妃としての公的な仕事もこれからは徐々に君が引き継ぐことになる」
確かに噂話として、セレスティーナ妃は子が授からず気鬱になってらっしゃる……と言うものが流れている。
ファピンの庶民の間でも話題になるくらいだから、自国ではもっと。
これも王族側の情報操作なのだろう。
「うーん、前例が出来るってことね……」
「そういうことだ。聖女は側妃にはなれないが、王家に入らず婚姻を結ぶ特例を作った」
「聖女になれそうな人物、今は私しかいないですからね」
「思ったより難航はしなかったんだよ、セレスティーナがやったことが次から次へと出て来て──そっちの口止めが大変だったほどだ」
「あ、そうなんですか……まあ、色々やってたんでしょうね」
「高位貴族の子女に危害を加えていたのがな。私はそれに全く気が付かなかった。当時の自分を悔やんでるくらいだ」
「完璧な令嬢でしたもんねえ」
エドワールは頷いて、子供達が戯れる噴水を眺めた。
「何もせずとも、正妃になるのは決まっていただろうに……一体何故彼女は」
木漏れ日のさす公園は賑やかだ。
私たちの陰惨な話は誰の耳にも届いていない。
「完璧主義だったからですかね? こればっかりは本人に聞くしかないんでしょうけど」
「そうだな」
エドワールは深いため息をつき、足を伸ばした。
「私は公的なことがない限り彼女に会うこともないし、真意を聞く機会は無いだろうな」
そう、課金アイテムがどこから出てきてどのように使われていたのか。
そこは依然として謎のままだそうだ。
なので、エドワールとセレスティーナの接触は必要最低限。
年に数回といったところだ。
私は試合に負けて、勝負に勝ったといったところだろうか。
セレスティーナが正妃なのは変わらない事実。
公的に見れば、私は二番手になる。
(別にそれでも構わない、私はセレスティーナみたいな野心家じゃないもの)
生きたままエンディングを迎えて、好きな人と恋愛してる。
これって凄く個人としては幸せなんじゃないだろうか。
貴族、政治としては勝ってないんでしょうけどね。
「私、そこまで地位にこだわりはないんです」
私は言葉を選びながら、慎重に自分の考えを述べた。
「セレスティーナ……彼女はこのままそっとしておいたほうがいいと思いますし」
エドワールが無言で頷く。
「彼女にとって正妃でいることが大事なのであれば、そうしておくほうが……他に被害も出ないと思いますから」
それが自由のない鳥籠だとしても。




