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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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勝負の行方

現実的な断罪

 静かな国王の言葉を受け、数人の男達が捕縛されたまま入室した。

 サラから指示を受けたと言う証人たちの証言を、セレスティーナは一笑に付した。


「まあ。サラが? わたくし、存じませんわ。そこの方々とお会いしたこともないですもの」


「なるほど。そなたは本当に賢く、貴族的だ。素晴らしいだけに残念だ。気が付いていたか? 学園の三年生になったとき、そなたには既に監視がついていたことを」


 王のその言葉に、セレスティーナは初めて言葉に詰まったようだった。

 やがて静かに、ハッキリと答えた。


「──監視、ですの? 例えそうだったとしても構いませんわ。わたくし、なにもしておりませんもの」


「実行犯や繋ぎはサラ・フォレスト令嬢。ネリネ夫人襲撃、ミア夫人拉致未遂、フォレスト一家殺害──全て王家の影、ヴィユノークの諜報員、そこにおるカーティスの手の者が最初から見ておる」


 セレスティーナの声が僅かに震えたが、笑顔はそのままだ。


「存じませんわ」


「禁術利用に関しても、証人と証拠を──ああ、否定しても構わんよ」


 国王は無表情のまま、次々に証人を呼び証拠を提示する。

 セレスティーナは知らぬ存ぜぬの一辺倒だ。


「さて、最後の証人だ。イヴォンヌ・クライブ伯爵令嬢殺害の証人でもある」


 ピクリ。


 セレスティーナの肩が動いた。

イヴォンヌ・クライブ伯爵令嬢は六歳の時、セレスティーナとボート遊びをしている最中に湖に転落、死亡したものだ。

 生きていれば、ファピンの王子レオニスの婚約者になったはずの娘。

 ゲームでは彼女が婚約者だった。


「まあ、イヴォンヌ嬢に関しては今は問わぬ。だが、調査は入ると心得よ」


「…………」


「さて、この娘に見覚えはあるか」


「リリイ・アーヴェルン嬢の侍女ですわ」


「いかにも。それ以外に言うことは?」


セレスティーナは不思議そうに首を傾げた。


「いいえ、それ以外でお会いしたことはないと存じます」


「ユリよ。発言を許す」


深く一礼した後、ユリはまっすぐセレスティーナを見た。


「──妃。わたくしは五歳から十二歳まで、あなたのそば付き侍女でした」


 セレスティーナは笑みを浮かべたまま、ほんの少し首をかしげた。


「まあ、イルマなの? 髪色をかえたのですね、気付きませんでしたわ。失踪して以来ですわね」


ユリはそれに答えず、静かに言葉を継いだ。


「六歳のある日、イヴォンヌ・クライブ伯爵令嬢と湖で舟遊びをしたとき、妃は笑っておられました。……そのまま、イヴォンヌ様を湖に突き落とされた」


 会議室に沈黙が落ちる。


「助けを呼ぼうとしたわたくしを、妃は笑顔で制しました。『あの子は泳げるはずよ、見ていましょう』とそのまま……」


 ユリの声は淡々としていたが、まるで氷が這うようだった。


「それからです。使用人たちが次々とおかしくなり始めたのは。謎の指示で誰かがいなくなり、別の者が補充され……屋敷の空気が変わっていった」


 ユリは一度息を整えた。


「公爵様ご自身も、一時期は記憶が曖昧でおられました。わたくしは直接、アイテムを手渡され、特定の人物に使えと命じられました。──そのときは、それが当たり前だと信じていました」


 一瞬、ユリの喉が震えた。


「私の家族の抹殺指示も、私が破落戸に指示書を渡しました。疑問にも思わず……」


 セレスティーナは、しばし無言だった。

 やがて、ゆっくりと肩をすくめる。


「まあ、よくできた物語ですこと。……どこまでが真実かしら?」


 微笑みは、まだ崩れていない。


「謎のアイテムって何かしら? そんなものが存在していると? 見たことも聞いたこともございませんわ」


 セレスティーナ以外、全員が苦々しい顔で沈黙している。

 やがて、国王が重々しく口を開いた。


「セレスティーナよ。そなたが言うとおり、状況証拠しかないのは事実だ。だが、我々はそなたがやったと知っている」


 低い声が会議室に響く。


「この場は裁判ではない。王家と公爵家二家が揃った場である以上、そなたの命運はここで決まる。──我々の意志が、そなたの運命を裁くのだ」


 セレスティーナは一瞬だけまばたきをしたが、笑顔は消え人形のように無表情になった。


「わたくしは、なにも、しておりませんわ」


「セレスティーナよ。そなたはエドワールとは白い結婚とする。公式の場で正妃として振る舞う事は認めよう」


 セレスティーナは凍りついたように、父親であるヴァレフォール公爵を見つめる。

 国王が話を続ける。


「ヴァレフォール公爵はそなたを切り捨てた。次代でまた王家と縁を繋ぐということで、既に話はついておる」


「そんな──お父さまが」


 初めてセレスティーナの声が震えた。

 ヴァレフォール公爵は前を向いたまま、黙している。

 緊迫した沈黙の後に訪れたのは、夕凪のように穏やかな声だった。


「……そう、でございますか。ではわたくしは──」


 声は驚くほど澄んでいた。

 だが、机の下で握りしめられた両手の指先は真っ白だっただろう。


「──王家の名誉を背負う、正妃としての務めを果たしてまいりますわ」


 淡々と告げるその声音に、もはや感情はなかった。

 どこまでも不遜で、どこまでも気高く。

 それがセレスティーナだった。


 国王が付け足すように言葉を紡ぐ。


「そなたには北の離宮を与える。出入りの使用人は、毎回魂見の術に長けたものが仔細にチェックする」


 セレスティーナはうつむき、言葉を発さない。


「謎のアイテムは我々には見えぬ。だが、使用痕跡ならば、わかるのだよ」


 セレスティーナが顔をあげ、呟く。


「……わたくしは、存じませんわ」


「魂見の術師は少ないが、離宮通用口に常駐させるゆえ、心得よ──連れていけ」


 騎士が動く前に、セレスティーナは静かに立ち上がった。

 ゆっくりと、誰よりも優雅に一礼する。


「謹んで承りましたわ」


 それはまるで舞踏会の挨拶のように美しい所作だった。

 しかしその瞳は興味を失ったかのように、もう誰も映していなかった。

 扉が閉まるまで誰も動かず、誰も息をつかない。


(全然、ザマァとか思えない……怖い)


 セレスティーナは正妃になる。

 これは彼女の望み通りだ。


(これは──セレスティーナは勝ったの? 負けたの?)


 なんとも後味の悪い話だ。

 セレスティーナは、過去にしてきたことを罰せられない。

 目論見通り、証拠不十分だから。


 だけど、お飾りの正妃。

 どう考えてもハッピーエンドではない。

 

(勝ってやるって思ってたけど──なんて哀れな結末なの)


 ゲームより、ずっとずっと。

 現実は残酷だ。




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