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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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王太子妃

追い詰められる王太子妃

 寒々とした大きな会議室。

 素っ気ない室内だが、魔法遮断材で作られており防御や遮音対策も万全だ。


会議室にいるのは国王、王妃。

王太子。

ヴァレフォール公爵。

ヴィユノーク公爵。

私、義父、カーティス。

数人の騎士。


 ユリや他の証人は隣室にいるようだった。


 カーティスから事前に聞いた話によれば、証人の数は魂の壊れた人を含めて数十人もいるようだ。

 全て魔法契約で他言無用となっており、王家から充分な報酬を支払われる予定なんだとか。

 実際隣室にまで来ている証人は数名らしいけれど。


(断罪劇と言うには少ない人数だし見物人もいない……)


 本来なら国王、王太子、公爵家当主二名で決まっても不思議じゃない。

 この件はカーティス主導で明るみに出たため、私たちの同席が許されているだけだと言う。


 ちらり。

 

 こっそり奥の方を見ると、王太子の横の席が空席。

 全員、彫像のように無表情なのがこれから起こることの重大さを物語っている。


(セレスティーナは王太子の横に座る……王太子妃として)


 彼女は未だ正式な妃として扱われてはいる。

 だけど、これから罪を暴かれる──成婚前ではなく、今このタイミングで。


 私はそれを考えると政治の底知れぬ恐ろしさを感じ、身震いした。

 だって……婚約破棄ではなく、悪女だとわかっていてわざわざ妃にする必要ある?


(この理不尽な感じ……非効率というか、なんというか。政治って感情は関係ないのね、本当に)


 けれど、セレスティーナが我が国の妃であるという事実が絶対条件なのだろう。


 扉が静かに開いた。

 侍女に先導され、セレスティーナが入室する。


 クリーム色のシンプルなドレス。

 アクセサリーも彼女にしては簡素なものだが、セレスティーナの美しさは損なわれていない。

 顔色こそ優れないが背筋はまっすぐに伸び、穏やかな表情を浮かべている。


 カツ、カツ──

 磨き上げられや硬い石床に靴音が響く。

 息を潜めたように誰も言葉を発さず、空気が一層張り詰める。

 セレスティーナは王太子の隣の席へ歩み寄り、

そこで一度立ち止まった。


 王太子は微動だにせず、視線は机の上に落とされたまま。

 重苦しい沈黙が落ちる。


「……座りなさい」


 低く、国王が告げた。

 その声に従い、セレスティーナは音もなく腰を下ろす。


 静寂が刃物のように威嚇してきているような空気感。

 私は自分が断罪されるわけではないのに、その雰囲気に気圧され、小さく震えていた。


「セレスティーナ妃──何故、ここへ呼ばれたか分かっているか」


「いいえ」


 僅かに首を傾げ、無邪気にさえ見えるその優雅な所作。

 その返事は、まるで夜会での世間話のように柔らかだった。

 緊張で呼吸が浅くなる私の耳に、セレスティーナの落ち着いた呼吸音が聞こえる気がした。


(……強い)


 私は息を呑んだ。

 ここまで完璧に笑っていられるものなの?

 会議室の空気はこんなに張りつめているというのに。


 私自身は震えて胃のあたりが痛くなっている状態なのに、当のセレスティーナの完璧な仮面……貴族らしさに驚嘆した。


(さすがだわ、敵ながら天晴れってヤツよ)


「セレスティーナ妃。そなたにかかる嫌疑は一つや二つではない。だが今日ここで扱うのは、ネリネ・ヴァレフォール襲撃事件、アーヴェルン家侍女ミアの拉致未遂事件、サラ・フォレスト令嬢──当主を含めたフォレスト一家殺人事件への関与及び禁術使用の疑い。これ以上の混乱を防ぐため、証人を集め事実を確かめる」


 王太子は微動だにしない。

 公爵たちもだ。


 カーティスも私も、身じろぎすらしていない。

 内心はどうだか知るよしもないけれど。


「……幼少の頃から、幾つかの不審死や失踪事件があったと、複数の証言が上がっている。だが今日裁かれるのは現在の嫌疑だけだ──忘れるな」


 セレスティーナの微かな笑みは崩れない。

 小首を傾げ、不思議そうに陛下に顔を向けている。


「セレスティーナ妃、証拠は出揃っておる。──申し開きはあるか」


 国王の問いに、セレスティーナはわずかに瞬きをしてから、にっこりと笑った。


「──申し開き、でございますか?」


 柔らかい声音。

 だがその声色には、微塵の怯えもない。


「何も、存じませんわ」


 静かな会議室に、しんと沈黙が落ちる。


「義母が襲撃されたと? ですがそれが、どうしてわたくしと?」


 首をかしげる仕草さえ優雅だった。


「ミアとやらの拉致未遂──その方とわたくしが知り合いですの? お会いしたことは無いと存じますわ」


 淡々と、しかし楽しげですらある調子で言葉を重ねる。


「禁術? まあ、物騒ですこと。わたくしは王太子妃。王家の名誉を穢すような行いなど、決していたしませんわ」


 一語一語が刃のように整い、完璧に研がれていた。


 沈黙が落ちる。

 まるでセレスティーナが、この場全体を支配しているかのようだった。


「ふむ。認めぬか。ならば証人を」



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