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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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現実

現実では公開断罪はあり得ない

 十年前の誘拐未遂から、ずっと続いていた物語の決着が、もうすぐ訪れる。


 断罪劇も起こらない。

 

 そんなことをすれば、『国』として侮られる。

 戦争こそ起きないだろうが、国交では自国の隙を見せた方が不利になる。

 条約や輸出入の取引──何もかもに、影響を及ぼす。


(オラトリオ王国は、有能な妃を迎え順風満帆でなくてはならない……裏はどうなっていても)


 それが、政治なのだ。


(なんか、子供時代の盤面ゲームみたいだったわ)


どんなに一生懸命考えて、駒を置いて戦っても時間が来れば大人に「寝なさい」と言われて片付けられ、ベッドに追い込まれちゃう感じ。

 あんなに必死に頑張ったのに、大人が介入し始めたらあっという間に蚊帳の外だ。


(ゲームはゲーム。現実は現実)


「はぁ……政治って闇が深いわね……」


 カーティスとユリがクスクス笑いだした。


「そうね。でも、大人になったリリィなら──イカサマも出来るわよ? 頭を使いなさいな」


「そうね。大人と子供じゃ出来ることが段違いだものね。なにかと勝負するなら、これからね」


 カーティスの言葉に妙に納得した私は、なんとなく晴れやかな気持ちになった。

 私は名実ともに大人の立場を手に入れたのだ。


 嫌だったら、逃げても良いんだわ。

 駆け落ちした、母のようにね。

 母は不幸ではなかった……自分の人生を勝ち取り、戦ったのだから。


(私も自由に生きていきたいわ。その為に、ファピンで知識と生活基盤を整えないと。三年後、なにが起こるかわからないけれど──その時に、自分で選べる立場と力を身につけないとね)


 うん、私は深く頷いた。



「リリィ、明日王城に行くよ。服装は華美ではないフォーマルで。ミアと決めておきなさい」


「はい、お義父様」


 あれこれ服やアクセサリーを選びながら、ミアに聞いてみる。


「ミアも行くの?」


「いいえ。調書を作るときに事情聴取は受けましたけれど」


 なるほど、登城する人間は最低限なのね。

 証人は別として。


(公的な断罪はナシ……それはそれで逆に怖い。だって、無かったことにされるんだもの)


 本当にスッキリしない結果になりそう。

 だけど、現実的な落とし所ってそういう感じにするしかないんだろうな。

 貴族って面倒な生き物だわ。


私は藍色の簡素なデザインのワンピースを選んだ。

アクセサリーはシンプルなもので。


(地味な格好で行くべきよね? もう私はヒロインじゃないし。明日の主人公はセレスティーナだもの)



 いつお渡りがあっても良いように、毎日きっちり準備だけはする。

 セレスティーナは今日も夜着に着替え、薄化粧を施してソファーに座っていた。


(きっと、今日も来ない。忙しいと言う通達以外、情報もない……)


 侍女たちは従順だ。

 湯浴みと言えば用意するし、退屈だと言えば本を持ってくる。

 粗雑に扱われてるわけでもない。


(もう五日経つ。部屋から出られないし、手紙も止められている……どうにかしてお父様に連絡を取らなくては)


 この、わたくしが。

 父はヴァレフォールの娘が不当な扱いを受けているとは思っていないだろう。

 パレードが終わるまで、あんなに完璧だったのだから。


(王家に対して、失態など無いはず……)


 どこをどう思い返しても、王家への対応は失敗などしていない。

 嫁入り前にノートやメモ、証拠になる書類は全て目の前で焼却してある。

 灰すら水に混ぜて、処分したのだ、


(問題がそこじゃないとしたら、なに?)


 形として残った証拠はひとつも無いはず。


(可能性が高いのは、イルマ。だけど証言だけだわ)


 物的証拠は残っていない。

 家格が高いわたくしの証言の方が、優先されるはず。


(ネリネ。この線も考えにくい……六人を介して手筈を組んだのだから、わたくしにたどり着く術はない)


 その六人は早々に自害させてあるから、セレスティーナとの繋がりは追えない。

 露見していたら、父が黙っていないはずだ。


(ミアの拉致……これも用心に用心を重ねてある。たどり着く要素がない)


(居なくなったメラニー……あれはアイテムでわたくしの不利になるようなことは言えないし、出来ない)


 後はなにがある?


 眠れぬ夜を過ごしたセレスティーナだったが、朝はいつもと様子が違った。


「陛下のお召しです」


 エドではなく、陛下?

 セレスティーナは訝しみながらも、上品な笑顔で応じ身支度に取り掛かった。


 血色の悪い顔に、普段より濃いめに紅を差したセレスティーナはやはり美しかった。


(コンディションは万全とは言いがたいけれど、上出来だわ)


 装飾品は『王家』から贈られたものから選んだ。

 セレスティーナは王太子妃なのだ。

 十二年以上ずっと望まれてきた、愛されるべき女。


 セレスティーナは完璧な装いで部屋を出た。

 王宮の高い天井からのひんやりとした空気が頬を撫でる。

 王宮の豪奢な雰囲気に飲まれない、完璧な淑女。


 セレスティーナは優雅な一歩を踏み出した。

 心は石を抱えているような感じがしているが、それはおくびにも出さない。

 品の良い笑顔を浮かべて。

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