卒業パーティ
卒業パーティ
「どうせ中座するんだから、コルセットは緩めで……グェ」
ユリと侍女たちが、容赦なくコルセットを絞りあげる。
「し、死ぬぅ」
「そんなに締めてませんよ、あと三センチはいけるはず」
「無理無理無理」
ようやくドレスアップが終わる。
光沢のあるクリーム色、シンプルゆえに生地の素晴らしさが映える。
私は、そういう方が好み。
リュリエ様から贈られた蛍石のパリュールが、布張りの盆に乗っている。
「本当にアーヴェルン・グリーンね」
見事なネオングリーンの石だ。
本当に私の瞳と同じ色。
ユリが、普通の蛍石とブライヤー蛍石の違いを話し始めた。
「普通の蛍石は比較的安価ですが、ブライヤーの蛍石は別格です。濃密な魔力を内包しており、色は鮮やか。宝石質であることから非常に高価格で取引されています」
少し不透明なはずの蛍石。
宝石質かつ高魔力のブライヤー産は、エメラルドやサファイアと遜色ない煌めきを放っていた。
「せっかくの卒業祝だから、いただいたけれど……」
私は煌めくグリーンを纏いながら首をかしげ、呟いた。
「リリィ様。ブライヤーからというのが大事なのですわ。先の革命を踏まえ、両国は円満だというデモンストレーション──歩み寄る必要があるのです」
「なるほど、ねぇ……」
パチリとネックレス留め具がはまる音がした。
ちょっと大きすぎるかな?と思えるような大粒の蛍石。
このネックレスの大粒の蛍石は鮮やかな緑色と青が混じりあい、エンジェルフェザーと称される羽のようにも見える内包物が下方に散っている。
「不思議な石ねぇ」
「蛍石は、どのような色も許されておりますから……皇女殿下は紫系の蛍石を身に付けられるようですわ」
「ああ、ローゼは瞳が赤紫だもの、きっと綺麗ね?」
エスコートは、相変わらずお義父様だ。
時間に余裕を持って馬車に乗り込む。
「リリィ、卒業おめでとう。今日は楽しむというより、第二のデビュダントという意味合いのパーティになるけれど」
「はい、お義父様」
「起きること全てに、気を払いなさい。すべての事に政治的思惑が乗っている」
「……はい」
何が起こるというの?卒業パーティなのに。
「ああ、何か起こるわけではないよ」
私の気持ちを察したように、お義父様が言葉を続ける。
「ダンスの順番、それぞれの子女の装い……全てに意味があると思っておくように。私からはこれくらいしか言えないのだけれどね」
(言えない事に、ヒントを与えてくれている──ということ?)
「はい、お義父様。アドバイス、しかと承りましたわ」
ジルベールはホッとしたように微笑んだ。
「リリィ、君は私たちの誇りだよ。聡くて助かる」
「ありがとうございます、お義父様」
馬車の窓から見える学園の夜会場が、灯火に包まれて近づいてくる。
殿下に会える……胸の奥が少しだけ高鳴る。
(お義父様の言う通り──今夜はただのパーティじゃない)
馬車が止まると御者が扉を開ける。
私はドレスを整え、お義父様にエスコートされて会場へ足を踏み入れた。
シャンデリアの光が床に散り、会場の視線が一瞬こちらに集まる。
その中に、殿下の姿があった。
蛍石のイヤーカフが、私の耳元と同じ色で煌めいている。
しばらくは挨拶と談笑。
やがて、照明が絞られてダンスタイムの合図。
ふと気がつくと、先ほどまで女王のように中心にいたセレスティーナの姿がない。
「ヴァレフォール嬢はドレスのトラブルで、中座しているだけだよ」
前を向いたまま、お義父様が呟く。
(やっぱり……大人たちは、ちゃんとなにか見せてくるのね)
殿下は一歩前に出て、私の前に立った。
「アーヴェルン嬢、今夜はおめでとう」
「ありがとうございます、殿下も」
「一曲目、踊っていただけますか」
お義父様が僅かに私の腰を押す。
(行け、ということか──)
差し出された手を取ると、会場の空気がわずかにざわめいた。
けれど、私は微笑んでその視線を受け止める。
(これも全部政治的、見せ場なのね)
「リリィ嬢」
熱い吐息、密着する身体、少しだけ力強いリード。
「私は全て聞いている──リリィ嬢、私に三年くれないか?」
「えっ」
音楽に合わせ、殿下が腕を引く。
くるり、と私は駒のようにターンした。
「私は君を好いている。そして君もそうだと知っている」




