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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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カーティスのお屋敷

カーティスのお屋敷

 翌朝、私はふかふかの羽毛布団から身体を起こした。

「全く休まった気がしない」

 

孤児院の薄っぺらいマットから、いきなり貴族の上質ベッドで体がびっくりしてるのかも。


 起き上がると、すぐに侍女が部屋に入ってきた。

 昨日の夜も、彼女が着替えを手伝ってくれたんだろうけど。

 頭が混乱してて、ほとんど覚えていない。


「おはようございます、お嬢様。ミアと申します。──お召し物はこちらでよろしいでしょうか?」


 差し出されたのは、パステルカラーのふわふわドレスだった。

 どこが袖で、どこが裾なのか分からない。


「リボンがいっぱいね」


「カーティス様のご指示で気に入りそうな服を、数パターン用意してと……」


「ああ、不満がある訳じゃなくて。孤児なので華美なものになれてないの」


──お下がりしか着たことがないのだ、この身体は。


 乙女ゲームのヒロインだって、ここまでフリルまみれにはならないと思う。

 いや、なるんだろうか……?

 なんとか無難なドレスに着替え朝食をとるために案内された部屋に行くと、すでにカーティスが紅茶を楽しんでいた。


「おはよう、リリィ。着替えは……ごめんなさい、数がまだ揃わなくて」


「いえ。お気遣いありがとう。ちなみにドレスはシンプルなのが好みよ」


「うふふ、次はもう少しシンプルなのを用意させるわね」


彼はティーカップを傾けながら、軽く笑った。


(外見だけなら、どの通常攻略対象より美形ってのが──隠しキャラならではの理不尽さよねぇ)


 朝食後、私は屋敷内を案内された。


 広すぎる廊下、無意味に多い客間、湿度管理された地下書庫──どこを見ても金が唸ってる変人の匂いが漂っている。

 特に書庫の充実ぶりはすごくて、分類法も体系も独特。

 魔術に関する記録だけでも五棚分あり、加えて「未分類:異界理論」なるコーナーまであった。


「書庫はご自由にどうぞ。あ、でも禁書には赤リボンをかけてるから、そこだけは読まないでね。読んでもいいけど、夢見が悪くなるわよ」


「……それって、警告じゃなくて、むしろ誘ってない?」


「バレた?」


 冗談めかして言うカーティスに、私は思わず苦笑した。


 そして一通りの案内が終わる頃には、屋敷のルールも説明された。

 私は忘れないよう、メモをとった。


◆ 屋敷ルール


カーティスは大抵、研究塔に籠もってる(行動不能NPC状態?)


食事と生活のサポートは全自動。

侍女たちは優秀。


一日の終わりには進捗報告を求められる(好感度イベント?)


地下室と塔の最上階には立入禁止エリアあり(絶対伏線)


屋敷の外出にはカーティスの許可が必要(ルート固定用フラグ?)



 つまりこれは、ルート固定型拠点イベント期間というやつだ。

 選択肢が出ない代わりに、プレイヤーが情報を集めて攻略に備える時期。


(本来ならまだまだ先の話なのに──)


 それにあの男の人達が、まだ自分を狙ってくる可能性もある。


「ねえカーティス」


「なに?」


「あなたの屋敷の外壁、南側の塀に裂け目がある。わざとよね?」


カーティスは紅茶を置き、小さく頷いた。


「ええ。あの裂け目は──変なものを誘き寄せる釣り餌。あそこは普通の人間には通れないの」


「私が異例だった、ってわけ?」


「そうね。物理的な穴じゃなく、認識の隙間に入り込んだようなそんな感じ」


「認識の隙間ねぇ……」


「あなたが通った痕跡はあったけれど、物理的には通れない隙間よ。普通の存在なら、ね」


 私は腕を組んで思案した。

 この世界はまだ始まっておらず、それゆえの未知も多い。

 でも、目の前のこの屋敷とカーティスの知識は。

 確かにそれを解き明かす鍵になる。


 私は、シナリオが始まる前に退場する予定だった。

 が、こうなった以上は受け身ではいられない。

 

──私は相当な負けず嫌いなのだ。


 窓辺に立ち、静かに遠くを見つめる。

 この世界はもう始まりかけていて、物語は何故か予定より早く動き出した。

 私の意志と無関係に。


(──なら、何故今こうなってるかをいち早く把握すべきよね)

 

 あがいて過去も運命も書き換えられるなら、やってやろうじゃないの。

 背後からカーティスの声が聞こえた。


「さて、今日も観察日和ね。魂の不思議なリリィさん」


 私は振り向き、にっと笑った。


「こっちこそ隠しキャラの不思議な日常、じっくり観察させてもらうから」


「隠しキャラねぇ……待って! って事は──私、あなたか悪役令嬢と恋愛するってこと? やだー、八歳でしょ? 私、幼女趣味じゃないんだけど!?」


 私は今日何度目かのため息をつき、呟いた。


「だから、本編は十五歳からよ……」

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