ヴァレフォール公爵の動き
ヴァレフォール公爵の動き
セレスティーナは落ち着かない気持ちで手をさすった。
一応、計画は順調に進んでいる。
療養中だったサビーヌは回復後にそのまま王妃様のところに戻った。
(先日のお茶会ではわたくしのところに戻す、という話だったのだけれど……)
同じタイミングで、王妃からの侍女は全員引き上げられた。
困った事ではあったが、結果的に自分の周囲を手駒で固めることが叶ったので概ね満足だ。
邪魔を嫌うセレスティーナが望んだ通りに、王妃の『目』は居なくなったのだから。
(いつも気まぐれな方。今回も思いつきで決めたんでしょうね)
本当に王妃様は好き勝手に動かれる。
王妃様の希望で週に三回のお茶に馳せ参じていたというのに、今度からは一ヶ月に一回程度でいいわと言い始めた。
王妃の好きな話題は、噂話にパーティーやドレス、流行のお菓子にお小言──正直、退屈であったので回数が減るのは逆にありがたい。
けれど、この王妃の一連の行動はセレスティーナを苛立たせた。
「ごめんなさいね? 私の侍女が手薄になってしまって」
外野から見れば、王妃の行動はセレスティーナと距離をおいたのでは? と勘繰られるものだった。
後日お詫びとして稀少なブルーダイヤのイヤリングを贈ってくださったけれど、噂が回るお茶会などでフォローがあったわけでもない。
噂好きの夫人たちの視線が、称賛より好奇の色を帯びてきている。
さり気なく探りを入れてくる夫人たちに、セレスティーナはいつもしおらしい態度で答え続けた。
「ええ、王妃様の侍女たちが手薄になったと聞いておりますの」
「まあ、王妃様の侍女が……?」
「今まで王妃様のご厚意で借りていた者たちですから。わたくしも自分で侍女を采配する良い機会と思いまして」
「確かに、御自分で采配するのは大切ですわ。王族になるセレスティーナ様に必要は無いでしょうけれど、やってみるということは大切ですもの」
「はい。学びの機会を与えていただけたと思っています」
こうやって当たり障りなく、殊勝な令嬢として夫人たちを敵に回さないよう立ち回っている。
(今はまだ、王妃には素直に従いますわ)
何しろ、あの王妃はまだ社交界の最高峰なのだ。
(それも、後数年よ。数年後にはわたくしがとって代わる)
それまでは、女王気取りでいればいい。
今回の屈辱は、絶対に忘れないわ。
セレスティーナは眉間に寄った皺を伸ばしながら立ち上がり、苛立ちを抑えるために深呼吸をした。
「あら、また……」
家紋入りの馬車が出ていくのが自室の窓から見えた。
ここ最近、父親は良く登城している。
あと一年でセレスティーナが王太子と結婚することから、様々な打ち合わせがあるのだろう。
弟……嫡男が生まれたのは大誤算だったけれど、今はネリネに何かするつもりはない。
行動を起こすには屋敷の警備が手厚過ぎるということもあるが、セレスティーナの今後の目標は『身辺整理』が主たるものになる。
下手にちょっかいを出して、疑念を招くようなリスクは避けたい。
(色々調べさせてた男は処分したし、あと二人もそろそろ処分しておかなくては……)
遠ざかる馬車を眺めながら、セレスティーナは口角を上げ微笑んだ。
エドワールだってヴァレフォール家の強大な後ろ盾を持つ自分と結婚することで、治世が磐石となるのだ。
現時点で気持ちがリリィに向いていても、あの二人が結ばれる未来はない。
この国では成婚三年で子に恵まれなかった場合、側妃が立てられる。
なので、卒業から三年以内にリリィ・アーヴェルンを抹殺しておかないといけない。
(わたくしたちに子が出来ないってことはないとは思うけれど。もしそうなった場合、側妃はただの子供を産む道具でなくてはいけない)
エドの寵愛を得るような側妃は不要、リリィだけは絶対に認められない。
(出産時に不幸にも命を落としてしまっても、問題なさそうな令嬢がいいわね)
セレスティーナは貴族名鑑を取り出して、数年後に成人する令嬢たちをざっと頭の中のリストに入れておいた。
備えあれば憂いなし、ですわ。
「わたくし以外に輝いていい宝石など存在しないの」
自分が王妃や王太子から軽んじられていると周囲に思われるのは、絶対に許せない。
絶対にリリィ・アーヴェルンは舞台から降ろす。
セレスティーナはギュッと拳を握り込んだ。




