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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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従姉妹の留学


 翌週、寮から帰宅するとアーヴェルンの屋敷にカーティスが来ていた。

 『診察』のためである。


「ちょっとは落ち着いた?」


「うん……消化はしきれてないけど、もう混乱はしてない」


「アーヴェルン伯爵から、私から事情説明する許可を得てるから、順序だてて話すわね」


 お義父様は、帝国に視察という名目で滞在中だ。

 現在アーヴェルン家はエレナ伯母様が代行で取り仕切っている。


「まずね、帝国のクーデターは無血開城だったけどちょっとまだ政情は安定してないの」


「うん」


「で、寮だと暗殺が懸念されてるから、通学というのが帝国の希望。まあ、当然の懸念よね」


「そうなるのかな、うん」


「何故アーヴェルンが指名されたかって言うのは、聖女を抱えた完全に中立的な家柄だからっていうのと、この家の跡継ぎが現皇太子と皇女の従姉妹だから」


 従姉妹。

 父の兄弟の子だものね、確かに。


「王家側は、もう事情を知ってる。リリィの血縁ってのは公にはしない……今はね」


 私は口を挟まずおとなしく聞いている。

 まず全部聞いてからじゃないと、なにも判断できないから。


「なので、中立の家柄だからというのを名目にして、アーヴェルンから通学させる方向で調整しているところよ」


「秘密って言っても、あの髪を見たら……」

 

 まるっきり同じ色なんだから、勘ぐられるのは間違いないと思うんだけど。


「あ、二人ともワイン色に染めて過ごすみたいよ?」


「あ、そうなの? 学園では血縁関係は隠すってことね?」


「そういう方向よ。なので、特例としてリリィも通学出来るように学園側と交渉中」


「なるほど、厄介な面もあるけど寮から出られるチャンスでもあると」


 カーティスが資料を片付けながら、こちらに向き直った。

 無造作に束ねられた髪が光を受けて柔らかに輝いている。


「敵しかいないことになる寮は、出られないなら退学も考えるレベルで危険よ。なにか起きても、先方に都合がいい証言しかでないもの」


「そうね、既にユリが数回狙われてる」


「帝国の子たちは正直、手がかかって厄介事って感じだけどいい面もある。通学でお互い一緒にいる事で、安全」


「皇女と一緒に動けばいいのね」


 ユリが紅茶を淹れなおし、室内に香気が満ちる。

 カーティスはマカロンを摘まんで口に放り込み、頷いた。


「皇女が側にいる事で、侍女も付けられる。セレスティーナも学園内で、おいそれとは動けないはず」


 皇女に何かあれば国交問題になるから、その警護網にあやかるわけね。

 私の方にもかなりの恩恵があると。


「正直、セレスティーナと同時期に学園に在籍する必要性も無いじゃない? 退学か留年も視野にいれてたのよ、正直」


「そうねぇ、なんかゲームから逸脱してきてるし……」


「ああ、それね。私、考えたんだけど。なんだっけ、追加コンテンツ? で、帝国の話が発表されたとか……そういう可能性はない?」


 あっ、あり得るかも?


「あり得なくもない……でも、確認しようがないよ」


 カーティスは肩をすくめ、カップをテーブルに戻した。


「そういう話は微塵もなかった?」


「全く。ゲームではブライヤーとは不仲、くらいの情報しかなかったし。原作にはそもそもブライヤーが出てこないもの」


「うーん、ここに来て知らない物語がぶっ込まれてきたって感じよねぇ」


「私と無関係な物語じゃないあたりが、不安しかないのよね」


 カーティスは分厚い帝国貴族名鑑をめくりながら、頷いた。


「ヒロインの出生の秘密が明かされたわけだから、確かに無関係とは言えないわね」


 ユリはどう思う?とカーティスが問いかける。


「王国の物語、帝国が舞台の物語。幾つかの物語が混ざってめちゃくちゃになってるように思います」


 私は凝り固まって背中を伸ばすために立ち上がって、呟いた。

 

 「ヒロインと悪役令嬢の話と、ブライヤー関係は違う『物語』として扱うべきよね」


「そうねぇ、あなたとユリはセレスティーナに集中すべきよ。特に最後の一年はね」


 ユリはカーティスの言葉に同意し、心配そうな視線を私に向けた。


「寮から出られれば、命の危機は半減しそうよね。でもセレスティーナが諦めるとは思えない」


「リリィはセレスティーナの王妃ルートの邪魔になるから廃除、ユリは彼女の悪事の生き証人だから抹殺ってとこよね〜」


 カーティスの声は淡々としている。

 同じように静かに佇むユリ。


「ユリ、退いてもいいんだよ」


 私の小さな声に、ユリは薄っすらと微笑みを浮かべた。


「いいえ、リリィ様。彼女の悪事が明るみに出るまで、私は絶対に退きません」


「わかった。一蓮托生ね」


 私たち全員はもう戻れない、前に進むしかない。



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