ヴィユノーク様
ヴィユノーク公爵
──あと数ヶ月で二年目も終わる頃。
学園の方は相変わらず。
大きなイベントは避けているけれど、小さな接触は頻発。
私の方は私の方で、王太子ルートに流れが向いているようだった。
私とカーティスは、ひとつの説にたどり着いた。
もしかしたら、私もセレスティーナも『主人公』なのかもしれない、と。
だから、物語が歪むのでは?
舞台はひとつしかないのだから。
私は目の前の先代王──ヴィユノーク公爵の首元付近に視線をおき、打ち合わせの機会を得られたことに礼を述べた。
ネリネ様は臨月。
ヴィユノーク公爵家で保護されており、ヴァレフォール公爵が身重の妻を労る為に、妻の実家を頻繁に訪ねている……というタイミングだ。
「はは、結構楽しかったよ」
女装してあちこち回ってきたというヴィユノーク公爵、アンヘル様は楽しそうな笑い声をあげてウインクした。
男性にしては線の細い方だったが、それが功を奏して実に女装が似合う。
「一旦ファピンに出てから来たんだよ」
ファピンから、ヴィユノーク公爵邸に戻ったのは『影武者』。
アンヘル様は二週間ほど変装を繰り返し、カーティスの屋敷にやって来たというわけだ。
テーブルの上には書類が一山。
私がカーティスの屋敷に伺った時点で、アンヘル様は既に四日目の滞在だった。
「資料は全部読んだし、カーティスから話も聞いたよ。あれが正妃、となったらこの国は……」
「政治的には安定するかもよ?」
カーティスが、のんびりと呟いた。
「貴族派……いわゆる王政以外、抹殺される懸念が大きい。そしてそれはすぐではなくとも、ゆっくり国を殺す」
「ヴァレフォール公爵は、どうするの?」
カーティスの問いにアンヘル様はしばらく黙っていたが、珈琲をひとくち飲んでから話し始めた。
「ネリネの子が男児であれば、事情を話すプランも視野にいれて良いが……まずは陛下の耳に」
「非公式で?」
「甥に会いに行くだけだ。そこで雑談したところで問題あるまい」
アンヘル様は、再びウインクをして微笑んだ。
「うーん、警戒すべきは『課金アイテム』なのだけれど。紙なのか石なのか、固形なのか液体なのか。全然わからないのが怖いのよね。警戒しようがない」
使われた後にしか確認できないのが、現状。
私はゾワっとして姿勢を正した。
「だが、このまま放っておくわけにも行くまい。傀儡の巣窟になるぞ」
私は生き残るのに必死だけど、アンヘル様は政治を──王国を、見ている。
王族だからなのか、貴族だからなのか。
(私とは完全に生きている世界、見ている物が違う──)
セレスティーナは、王妃になればそっちの世界に手を伸ばすだろう。
アンヘル様は、今ではなく──その時を懸念している。
私は自分の視野の狭さに気が付いて、こっそりアンヘル様とカーティスを眺めた。
セレスティーナの『ゴール』が王妃なら、それでいいはずだった。
でも、その先は?
(ゴールの先でも、物語は続いていく。だってここは時間がちゃんと流れている現実だもの)
カーティスの合図で、使用人がワゴンを押して入室してきた。
いくつかの装飾品が乗っている。
カフス、指輪、ブレスレット、ブローチ……種類も豊富。
「これ、一応……魂を守るための装備なの」
ここ数年、保護した『魂壊している人たち』のデータからカーティスが作り上げたもの。
「検証しようがないから確約は出来ないのだけれど。理論上は──魂を守れるはず」
装飾品自体はオルテンシア商会の扱ってる物で、シンプルだが上質。
付けていても違和感はないだろう。
「ふむ、ではこれは随所に配布で──」
カーティスとアンヘル様の打ち合わせは続き、私とユリはアーヴェルンの屋敷へ戻った。
静かな部屋の片隅で、私は一人で考え込んだ。
(もう乙女ゲームってスケールじゃなくなってきてる……)
セレスティーナはあまりにも異質だ。
ヒロイン排除の執念たるや、病的に思えるくらい。
アンヘル様が仰ったように国政を担う貴族として見るなら、王妃になった後が大問題になるのは理解出来る。
ただの公爵令嬢と、国母たる王妃の権力は桁違いだから。
(ゲーム終了後も人生は続いていくのよね、私もセレスティーナも)
殿下は、お元気なのだろうか。




