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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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ネリネ襲撃


 学園生活は順調に進んでいる。


「リリィさん、来月の演習どうする?」


「そろそろ班決めあるのかな」


 騎士科と合同の演習……。

 これはハードモード専用イベントだ。

 当然、強い魔物が出てトラブルになる。

 闇ドラゴンが襲来するのだが、一定時間持ちこたえるとクリア。

 クリアすると呪いの触媒が落ちるんだけど、この触媒がゲーム設定であるカーティスの呪い……を解呪するキーアイテムになる。


 呪いから解放されたカーティスは、屋敷から出歩けるようになり、そこでやっと隠しルートに入るというわけ。


(ゲームでは、ね。実際のカーティスは呪われていない)


 なので私とカーティスが出した結論は演習には参加しない、である。


「日程がちょっと合わないから、まだ参加できるか決められなくて」


 私はクラスメイトに、そう答えた。

 セレスティーナは年明けから、休みがち。

 なんでも王妃教育が佳境に入ったから、頻繁に王宮に行っているみたい。

 サビーヌは原因不明の体調不良で、療養しているんだとか。


(おそらく、馬車の中でしか自由がないからでしょうね……ネリネ様が追い込んだから)


 あまり追い込み過ぎるのもダメ。

 カーティスとネリネ様は、そのあたりの調整が絶妙だ。


「そうなの? 騎士科とせっかく会えるのにー」


 平民のクラスメイトたちが、きゃぁきゃぁと黄色い声をあげて、教室が一気に賑やかになった。


(首席を狙うなら参加必須だけど。私の目標はそこじゃない)


 このまま行くと王太子とセレスティーナの成婚で、物語は終わるはず。


 私──『リリィ』は心にチクリとした痛みを感じながら、自分の目標を深く胸に刻み直した。



 演習ではやはりドラゴンが出たけれど、カーティスが手配した冒険者チームが複数配備されていたので死傷者は出なかったそうだ。

 アイテムの触媒はセレスティーナが拾い上げたと確認されている。


 寮ではユリとサラの攻防戦が続いている。

 セレスティーナは私ではなく、ユリをターゲットにしているようだ。


(ユリは暗殺、私は社会的抹殺に決めたみたいだけど……)


 自由がきかないからか、私の方にはあまりちょっかいがない。

 このままラストまで行ってくれれば、楽でいいんだけれど。


 今は漸く寒さがやわらいだ春だから、先はまだまだ長い。


「やられたわ!」


 カーティスの屋敷につくなり、カーティスが叫んでいるのが聞こえた。


「どうしたの」


「ネリネが事故にあったの!」


「ええっ!?」


「さいわい、命に関わる怪我はしてないの。だけど、賊は取り逃がしちゃった」


 ネリネ様は、王都から数時間離れた領地へ向かっていたとのこと。

 人気のないタイミングで、襲撃があったらしい。

八人の賊──明らかに、計画的。


「妙に統制が取れてたって」


「ネリネ様は無事?」


カーティスは深呼吸してから、大きく息を吐いた。


「姉は無事、一応。護衛と侍女三名が亡くなったわ」


「…………」


 重苦しい沈黙。

 この世界は……簡単に人が死んでいく。

 私はギュッと拳を握りしめた。


「もっと手厚くしておくべきだったわ……!」


 カーティスの言葉に、黙っていたユリが口を開いた。


「このタイミングは、なにかおかしいですね。やるならもっと早期、まだこちらが警戒する前じゃないと──」


 ああ、とカーティスが頷いた。


「タイミングはベストというか、むしろ今だからこそ、よ。私もさっき聞いたばかりだけど……ネリネ、姉は懐妊してるみたい」


 私は首をかしげた。


「セレスティーナは王家に嫁ぐのだから、下の子が生まれても関係ないんじゃない?」


「女の子ならね。でも、生まれるまで性別はわからない」


「跡継ぎ……あ。そうか」


 現在のヴァレフォールの後継者は、セレスティーナの従兄。

 もし、この人物が既に洗脳済みの駒だったら?


「次期当主の交代が都合悪い……?」


「可能性はあるわね、どう? ユリ」


 ユリは落ち着いた様子で、淡々とヴァレフォールお家事情の説明を始めた。


「──ということですので、さすがにアイテム使用はないと思います。それに、ジョアン様はまだご家族と一緒に住んでおられますから。ですが、確認は必要かもしれません」


「一見、普通に見える場合もあるから」


 メラニーもそうだった。

 異常な言動や行動はなく、普通にコミュニケーションが取れている。


(だけど、カーティスのチェックでは魂の変質があった……)


 課金アイテムは大体が魂を壊すから、使い捨ての駒になる類いのもの。

 周年記念パックとか限定パックだと、高額ではあるがそれに見合った高性能アイテムが入っている。

 メラニーのように、壊さず洗脳できるものが。


(全種類持ってる? もしかして)


 セレスティーナの前世が、今と似たような性格だったら。


(あり得る、あり得るわ……完璧主義ならアイテムコンプリートもしてそう)


 私は肩の力を抜くように、くるりと回して座り直した。


「ネリネ様の無事を死守しないと」


 カーティスは、私に背を向けて窓辺にたっている。

逆光で良く見えないけれど、こちらに向き直った顔は怒っていた、と思う。


「ヴィユノーク公爵を引き込むわ」


「カーティスの──」


「そう。生物学上の父親。仲はいいのよ? セーラ夫人ともね」


 では、どうやって?


「決まってるじゃない、変装して来ていただくわ」


「え、こっちが行くんじゃなくて?」


 カーティスの提案は、こうだ。

 私たちは完全にマークされている。

 ヴィユノーク公爵は、おそらくそこまでマークされていない。


 先代王は細身だから、女装してもらって一旦あちこち寄って郊外へ。


「そこからうちの屋敷に来ればいい」


「うまくいく?」


「いくわよ、公爵にはそっくりさんの影武者がいるもの」




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