ネリネ襲撃
学園生活は順調に進んでいる。
「リリィさん、来月の演習どうする?」
「そろそろ班決めあるのかな」
騎士科と合同の演習……。
これはハードモード専用イベントだ。
当然、強い魔物が出てトラブルになる。
闇ドラゴンが襲来するのだが、一定時間持ちこたえるとクリア。
クリアすると呪いの触媒が落ちるんだけど、この触媒がゲーム設定であるカーティスの呪い……を解呪するキーアイテムになる。
呪いから解放されたカーティスは、屋敷から出歩けるようになり、そこでやっと隠しルートに入るというわけ。
(ゲームでは、ね。実際のカーティスは呪われていない)
なので私とカーティスが出した結論は演習には参加しない、である。
「日程がちょっと合わないから、まだ参加できるか決められなくて」
私はクラスメイトに、そう答えた。
セレスティーナは年明けから、休みがち。
なんでも王妃教育が佳境に入ったから、頻繁に王宮に行っているみたい。
サビーヌは原因不明の体調不良で、療養しているんだとか。
(おそらく、馬車の中でしか自由がないからでしょうね……ネリネ様が追い込んだから)
あまり追い込み過ぎるのもダメ。
カーティスとネリネ様は、そのあたりの調整が絶妙だ。
「そうなの? 騎士科とせっかく会えるのにー」
平民のクラスメイトたちが、きゃぁきゃぁと黄色い声をあげて、教室が一気に賑やかになった。
(首席を狙うなら参加必須だけど。私の目標はそこじゃない)
このまま行くと王太子とセレスティーナの成婚で、物語は終わるはず。
私──『リリィ』は心にチクリとした痛みを感じながら、自分の目標を深く胸に刻み直した。
◆
演習ではやはりドラゴンが出たけれど、カーティスが手配した冒険者チームが複数配備されていたので死傷者は出なかったそうだ。
アイテムの触媒はセレスティーナが拾い上げたと確認されている。
寮ではユリとサラの攻防戦が続いている。
セレスティーナは私ではなく、ユリをターゲットにしているようだ。
(ユリは暗殺、私は社会的抹殺に決めたみたいだけど……)
自由がきかないからか、私の方にはあまりちょっかいがない。
このままラストまで行ってくれれば、楽でいいんだけれど。
今は漸く寒さがやわらいだ春だから、先はまだまだ長い。
「やられたわ!」
カーティスの屋敷につくなり、カーティスが叫んでいるのが聞こえた。
「どうしたの」
「ネリネが事故にあったの!」
「ええっ!?」
「さいわい、命に関わる怪我はしてないの。だけど、賊は取り逃がしちゃった」
ネリネ様は、王都から数時間離れた領地へ向かっていたとのこと。
人気のないタイミングで、襲撃があったらしい。
八人の賊──明らかに、計画的。
「妙に統制が取れてたって」
「ネリネ様は無事?」
カーティスは深呼吸してから、大きく息を吐いた。
「姉は無事、一応。護衛と侍女三名が亡くなったわ」
「…………」
重苦しい沈黙。
この世界は……簡単に人が死んでいく。
私はギュッと拳を握りしめた。
「もっと手厚くしておくべきだったわ……!」
カーティスの言葉に、黙っていたユリが口を開いた。
「このタイミングは、なにかおかしいですね。やるならもっと早期、まだこちらが警戒する前じゃないと──」
ああ、とカーティスが頷いた。
「タイミングはベストというか、むしろ今だからこそ、よ。私もさっき聞いたばかりだけど……ネリネ、姉は懐妊してるみたい」
私は首をかしげた。
「セレスティーナは王家に嫁ぐのだから、下の子が生まれても関係ないんじゃない?」
「女の子ならね。でも、生まれるまで性別はわからない」
「跡継ぎ……あ。そうか」
現在のヴァレフォールの後継者は、セレスティーナの従兄。
もし、この人物が既に洗脳済みの駒だったら?
「次期当主の交代が都合悪い……?」
「可能性はあるわね、どう? ユリ」
ユリは落ち着いた様子で、淡々とヴァレフォールお家事情の説明を始めた。
「──ということですので、さすがにアイテム使用はないと思います。それに、ジョアン様はまだご家族と一緒に住んでおられますから。ですが、確認は必要かもしれません」
「一見、普通に見える場合もあるから」
メラニーもそうだった。
異常な言動や行動はなく、普通にコミュニケーションが取れている。
(だけど、カーティスのチェックでは魂の変質があった……)
課金アイテムは大体が魂を壊すから、使い捨ての駒になる類いのもの。
周年記念パックとか限定パックだと、高額ではあるがそれに見合った高性能アイテムが入っている。
メラニーのように、壊さず洗脳できるものが。
(全種類持ってる? もしかして)
セレスティーナの前世が、今と似たような性格だったら。
(あり得る、あり得るわ……完璧主義ならアイテムコンプリートもしてそう)
私は肩の力を抜くように、くるりと回して座り直した。
「ネリネ様の無事を死守しないと」
カーティスは、私に背を向けて窓辺にたっている。
逆光で良く見えないけれど、こちらに向き直った顔は怒っていた、と思う。
「ヴィユノーク公爵を引き込むわ」
「カーティスの──」
「そう。生物学上の父親。仲はいいのよ? セーラ夫人ともね」
では、どうやって?
「決まってるじゃない、変装して来ていただくわ」
「え、こっちが行くんじゃなくて?」
カーティスの提案は、こうだ。
私たちは完全にマークされている。
ヴィユノーク公爵は、おそらくそこまでマークされていない。
先代王は細身だから、女装してもらって一旦あちこち寄って郊外へ。
「そこからうちの屋敷に来ればいい」
「うまくいく?」
「いくわよ、公爵にはそっくりさんの影武者がいるもの」




