厄介な義母
厄介な義理の母
アーヴェルン側は誰も欠けることなく、私は無事に二年生に進級した。
ミアは無事に女児を出産して、今は国外で育児休暇中。
想定通り、二の月にミアの実家は襲撃された。
メラニーやセレスティーナ側の動きも詳細に把握していたので、襲撃犯は全員生け捕りにしたし証拠も確保済み。
殿下は舞踏会以来、個人的に話し掛けてくることはなかった。
時折、視線だけ感じる。
目が合うと僅かに微笑む殿下。
私も微笑み返す。
それだけだ。
セレスティーナと殿下の結婚は、絶対だ。
政略結婚なのだから、当事者も周囲も揺れてはいけない。
なにもしない。
私の選択は『殿下には近寄らない』だ。
(恋心は自覚済みだけど……)
現実的に考えて、他人の政略結婚に泥をつけるなど言語道断。
それに、私はアーヴェルンの跡継ぎとして婿取りする立場だもの。
(物語なら突き進んでも収拾つくんだろうけれど。現実では、無理がありすぎる)
近寄らない理由なら山ほど思い付くのに、近付く手段は思い付かない。
非常識になれるなら、話し掛ければいいだけのことなんだけど。
(もともとゲームに参加する予定じゃなかったし、攻略対象との恋愛に興味あったわけじゃないし)
これが現実、これが正解。
当初の目標通り、生き延びるのが第一目標。
多分、それが最適解だから。
セレスティーナは王太子ルートに固定したようだった。
攻略対象とは相変わらず距離は近いが、彼らの婚約者を囲い込みにかかっている。
(相変わらず状況判断が早い。リカバリーも迅速で、巧妙)
ヴァレフォール公爵は、夏にネリネ嬢と結婚して仲良くやっている様子。
ネリネ様からは、逐一情報が入ってくるようになっている。
◆
セレスティーナ側は、停滞中だった。
数ヶ月前に父親と結婚した、義母のネリネがどうにも鬱陶しい。
ファピンで魔術の研究をしていた彼女は、『女主人』として屋敷の警備を一新した。
微細な抜け道があった、と父親に話していたときは少々焦った。
義母は結界魔法を張り直し、これでひと安心ね? と微笑んだ。
「常に警備は完璧じゃなくては。王家に嫁ぐ娘に何かあったら大変ですもの」
お父様もその意見には賛成だった。
義母は虚弱だと聞いていたけれど、とても元気そうに見える。
金茶色のふわふわした巻き毛、今にも笑いだしそうな陽気な橙色の瞳。
(もう屋敷で情報の授受が出来ない……学校も難しい。書面にも残したくない)
今はサラを使い、どうにか指示を回しているが一人挟むことで生じる齟齬は、積み重なると取り返しがつかなくなる。
(本当に、邪魔だわ)
義母に課金アイテムを使うべきだろうか?
それとも、不幸な事故で退場?
身動きの取れないセレスティーナは、珍しく苛立ちを抑えきれないでいた。
短い溜め息をつき、テーブルのカップを振り払う。
カシャン、と響く音にメイドがピクリと身体を震わせた。
それを振り返ることなく、セレスティーナは自室に戻った。
あの義母は油断ならない。
セレスティーナはイライラと室内を歩き回った。
『ねえ、使用人に魔法の痕跡があるわ』
義母の言葉を受け、屋敷中の使用人の検査も行われている。
課金アイテムの痕跡は、魔法では感知出来ないのは検証済みだけれどいい気はしない。
(危険だから、とわたくしの部屋の窓の下にまで護衛を配置するなんて)
深夜にそっと部屋から出た時も、義母に遭遇した。
『あら、眠れないの? 私もなのよ』
夜な夜な屋敷を歩き回る義母。
侍女と一緒とはいえ、高位貴族の夫人らしからぬ行動なのにお父様は彼女を咎めない。
(エドの方は変わらずだけど、いつもヒロインを目で追っている──)
そこは容認できる。
セレスティーナの目標は予定通り王妃になることであり、エドワールの寵愛はさほど重要ではないのだ。
(政略結婚ですもの。まずひっくり返ることはないわ)
セレスティーナは窓の外の護衛の背中を見て、再度溜め息をついた。
(それに、リリィの使用人……)
ミア誘拐が失敗している。
実行班も消息不明、連絡係も消えた。
オルテンシア、カーティスを探っていた駒も。
(何が起きている?手駒が半分も消えるなんて)
迂闊に動けない……これがセレスティーナの現状だった。
(アイテムから足がつくことはない。これは散々確かめてある。けれど──)




