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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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厄介な義母

厄介な義理の母

 アーヴェルン側は誰も欠けることなく、私は無事に二年生に進級した。


 ミアは無事に女児を出産して、今は国外で育児休暇中。

 想定通り、二の月にミアの実家は襲撃された。

 メラニーやセレスティーナ側の動きも詳細に把握していたので、襲撃犯は全員生け捕りにしたし証拠も確保済み。


 殿下は舞踏会以来、個人的に話し掛けてくることはなかった。

 時折、視線だけ感じる。

 目が合うと僅かに微笑む殿下。

 私も微笑み返す。


 それだけだ。


 セレスティーナと殿下の結婚は、絶対だ。

 政略結婚なのだから、当事者も周囲も揺れてはいけない。


 なにもしない。

 私の選択は『殿下には近寄らない』だ。


(恋心は自覚済みだけど……)


 現実的に考えて、他人の政略結婚に泥をつけるなど言語道断。

 それに、私はアーヴェルンの跡継ぎとして婿取りする立場だもの。


(物語なら突き進んでも収拾つくんだろうけれど。現実では、無理がありすぎる)


 近寄らない理由なら山ほど思い付くのに、近付く手段は思い付かない。

 非常識になれるなら、話し掛ければいいだけのことなんだけど。


(もともとゲームに参加する予定じゃなかったし、攻略対象との恋愛に興味あったわけじゃないし)


 これが現実、これが正解。

 当初の目標通り、生き延びるのが第一目標。

 多分、それが最適解だから。


 セレスティーナは王太子ルートに固定したようだった。

 攻略対象とは相変わらず距離は近いが、彼らの婚約者を囲い込みにかかっている。


(相変わらず状況判断が早い。リカバリーも迅速で、巧妙)


 ヴァレフォール公爵は、夏にネリネ嬢と結婚して仲良くやっている様子。

 ネリネ様からは、逐一情報が入ってくるようになっている。



 セレスティーナ側は、停滞中だった。

 数ヶ月前に父親と結婚した、義母のネリネがどうにも鬱陶しい。


 ファピンで魔術の研究をしていた彼女は、『女主人』として屋敷の警備を一新した。

 微細な抜け道があった、と父親に話していたときは少々焦った。

 義母は結界魔法を張り直し、これでひと安心ね? と微笑んだ。


「常に警備は完璧じゃなくては。王家に嫁ぐ娘に何かあったら大変ですもの」


 お父様もその意見には賛成だった。


 義母は虚弱だと聞いていたけれど、とても元気そうに見える。

 金茶色のふわふわした巻き毛、今にも笑いだしそうな陽気な橙色の瞳。


(もう屋敷で情報の授受が出来ない……学校も難しい。書面にも残したくない)


今はサラを使い、どうにか指示を回しているが一人挟むことで生じる齟齬は、積み重なると取り返しがつかなくなる。


(本当に、邪魔だわ)


 義母に課金アイテムを使うべきだろうか?

 それとも、不幸な事故で退場?


 身動きの取れないセレスティーナは、珍しく苛立ちを抑えきれないでいた。

 短い溜め息をつき、テーブルのカップを振り払う。

 カシャン、と響く音にメイドがピクリと身体を震わせた。

 それを振り返ることなく、セレスティーナは自室に戻った。


 あの義母は油断ならない。

 セレスティーナはイライラと室内を歩き回った。


『ねえ、使用人に魔法の痕跡があるわ』


 義母の言葉を受け、屋敷中の使用人の検査も行われている。

 課金アイテムの痕跡は、魔法では感知出来ないのは検証済みだけれどいい気はしない。


(危険だから、とわたくしの部屋の窓の下にまで護衛を配置するなんて)


深夜にそっと部屋から出た時も、義母に遭遇した。


『あら、眠れないの? 私もなのよ』


 夜な夜な屋敷を歩き回る義母。

 侍女と一緒とはいえ、高位貴族の夫人らしからぬ行動なのにお父様は彼女を咎めない。


(エドの方は変わらずだけど、いつもヒロインを目で追っている──)


 そこは容認できる。

 セレスティーナの目標は予定通り王妃になることであり、エドワールの寵愛はさほど重要ではないのだ。


(政略結婚ですもの。まずひっくり返ることはないわ)


 セレスティーナは窓の外の護衛の背中を見て、再度溜め息をついた。


(それに、リリィの使用人……)


 ミア誘拐が失敗している。

 実行班も消息不明、連絡係も消えた。

 オルテンシア、カーティスを探っていた駒も。


(何が起きている?手駒が半分も消えるなんて)


 迂闊に動けない……これがセレスティーナの現状だった。


(アイテムから足がつくことはない。これは散々確かめてある。けれど──)




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