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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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大舞踏会

大舞踏会

 ──大広間の天井に、星のようなシャンデリアが輝いていた。

 ロイヤルブルーのドレスの裾を優雅にさばきながら、セレスティーナは音楽に合わせて一歩、また一歩と舞った。

 濃淡のグラデーションがついたスカートは、回るたびに大輪の青薔薇のように広がる。

 向かい合うのはエドワール殿下。

 二人の姿はこの国の未来を象徴するかのように、完璧な調和を見せているはず。


(わたくしたちは未来を担う高貴な存在)


 笑みを絶やさず、セレスティーナは周囲の観察も怠らない。

 彼女にとって舞踏会は祝宴であると同時に、戦場でもあるのだ。

 今日もまた、自分と殿下が「揺るぎない婚約者」であると証明する。


 二曲目を踊り終え、殿下のエスコートで優雅に一礼する。

 周囲から拍手が湧いた。

 その音を背中で受けながら、セレスティーナはゆるやかに息を吐く。

 ダンスは次々に申し込まれる。

 セレスティーナは笑顔を絶やさず、次に踊るに相応しい爵位の者を頭の中で計算していく。


(…………!!)


 視線を、少し離れた場所にいるペパーミントグリーンのドレスへ向ける。

 リリィ・アーヴェルン……いかにも聖女、という装い。

 アーヴェルン家が金と権力を惜しみなく注ぎ込んで育て上げた、次期聖女候補。


 そして、セレスティーナにとっては一番邪魔な人間。


(予定どおり、伯爵は娘を連れてきたわね。中立派の動きも……今夜、確かめる必要がある)


 その時、エドワール殿下がリリィへと歩み寄った。

 セレスティーナが見ているというのに。


 殿下がリリィと伯爵に話しかけている。

 一瞬、空気が張りつめた。

 アーヴェルン伯爵は、ほんのわずかに間を置いてから頷き、臣下の礼を取る。

 ホール全体がざわめき、やがてしんと静まり返った。


(……リリィと、踊るというの)


 セレスティーナはグラスの縁を指先でなぞりながら、瞬きを繰り返した。

 もちろん、顔には出さない。

 だが、視線はリリィと殿下にさりげなく向けておく。


 中央に進む二人。

 淡いグリーンと、殿下の白い礼服。


 音楽が再び流れ始める。


(……動きは悪くない。アーヴェルンで相当仕込まれたのね)


 リリィのステップは少しぎこちないが、殿下のリードが巧みだ。

 まるで羽根のように軽やかに舞い、彼女の表情が少しずつ緩んでいくのが分かる。


 セレスティーナは周囲と談笑を続け、唇に笑みを浮かべた。

 しかし、グラスの中の葡萄酒がわずかに揺れるほど、指先には力がこもっていた。


(聖女は重要人物。王族が気にかけるのは当然……)


 殿下が以前からリリィに惹かれているのは把握している。

 しかし、リリィは行動を起こさなかったし殿下もそれ以上は踏み込んでいない。


(でも、これは政略なの。殿下も重要性は理解している。孤児のリリィの入る余地はない)


 だが、王太子自らがダンスを申し込むのは……校内で散々ささやかれてきた「養女の不出来」という噂と矛盾する話題が広まる可能性がある。

 早急に対処しなければいけない。

 

 音楽が終わり、二人が深く一礼した。

 ホールは再び拍手に包まれた。

 リリィは赤くなった頬を押さえ、戸惑ったように視線を落としている。


 (そんな顔をしたって、無駄よ)


 セレスティーナは、ゆるやかに扇を閉じて婚約者へと歩み寄った。


「殿下、ご機嫌麗しゅうございます。素晴らしいお手前でしたわ」


 殿下は穏やかに微笑む。


「ありがとう、セレスティーナ」


 彼の声に、ほんの一瞬の余韻が混じっていたのをセレスティーナは見逃さない。


(……やはり、リリィに傾いている)


 内心で深く息を吐く。

 だが表情は変えず、完璧な公爵令嬢の笑みを浮かべていた。


(ならば、こちらも次の手を考えないと)


 彼女は軽やかに身を翻し、王妃のもとへ歩いていった。

 視線の端で、リリィが家族と共にホールを後にするのを見届けながら。


「アーヴェルンの娘は美しいわね」


「ええ、王妃様。リリィ様は可愛らしい方ですわ」


 王妃はじっとセレスティーナを見つめて囁いた。


「よく考えて動きなさい」


「はい、王妃様」


(よく考えろですって? 盤面は私が支配しているわ)


 セレスティーナは王妃に礼を取りつつ、その言葉の意味を考え始める。

 セレスティーナを飾るサファイアが、光を反射して冷たく輝いた。




 

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