偽りの情報
カーティスの屋敷は相変わらず、使用人が少なく静かだった。
メラニーはチラチラと周囲を観察している。
(ずいぶんあからさま。油断しすぎじゃない?)
私の『ぼんやりさん』の演技に、騙されてるのかしらね。
一応、疑ってはいると思うのだけれど。
「うん、ちょっと乱れはあるけど回復してるわね。そういえば、祓い手に覚醒したんですって?」
メラニーの肩が僅かに動いた。
私ははにかみながら、膝の上に手を置いた。
「そうなの。熱を出したからかしら?」
カーティスは視線を窓にやり、またこちらを向いて笑顔になる。
さあ、メラニーに聞かせるためのお話の時間だ。
「迷子になったって聞いたけれど?」
「うん──はい。寮から十分ほどのところに、泉があったんですけど……そこで倒れてたって」
「あら、覚えてないってこと?」
「ええ、誰かに呼ばれた気がして部屋を出たところまでしか」
私は申し訳なさそうに俯いた。
「ふうん? そこで何かあったのかしら。いきなり祓いに覚醒って、絶対何かのきっかけがあると思うのよ」
私は同意しつつも、首を傾げた。
「癒しの方も、いきなり触媒なしで発動するようになったんです。アーヴェルンの血筋が証明されたって、みんなでお祝いしたんですよ」
「あら。私からもなにか贈るわね」
「ありがとうございます! なら、ミアのプレゼントを一緒に考えていただきたいわ!」
「ミア? ああ、そうか……もうそんな時期なのね? あなたもそろそろミア離れしないと──」
首を傾げたメラニーに、カーティスは微笑んだ。
「あら、メラニーは……そうか、その時はあなた居なかったものね? ミアはもともと我が家の侍女だったのよ」
「まあ、そうなのですか?」
カーティスが手を振って訂正する。
「いえ……正確には、うちをやめた後にアーヴェルンに就職したのよ」
私は頬を膨らませて、カーティスを睨むふりをした。
「そんな冷たい言い方! カーティス先生ったら」
「あら。けじめは大事なのよ? 我が家から大事な跡取り娘の侍女を貸し出してるなんて、外聞が悪いじゃない」
「それはそうだけど」
「きちんと、アーヴェルンと雇用契約を結ばないとダメでしょ? あなたは次期聖女──あらやだ、メラニー。これは聞かなかったことにしてね?」
「えっ」
メラニーは一瞬きょとんとしていたが、慌ててこくりと頷いた。
帰りの馬車の中でも、私はメラニーに情報を与え続けた。
「そうなの、カーティス先生の家の前に倒れてたのを保護していただいて。その日からミアと一緒だから、離れるのが寂しくて」
「まあ! 倒れて──お嬢様、お熱かお怪我でもされてたんですか」
「それがね、全く覚えてないの」
「お可哀想に」
「覚えてないから平気よ。カーティス先生が近所の人に聞いたけれど、誰も何も知らなかったみたい」
「では、カーティス様のお屋敷からアーヴェルン家に」
「そうなの、いきなり手紙が来て──面白いわよね?孤児がいきなり貴族だもの」
「いきなりですか? 養子縁組ってもっとたくさんの手続きがあるのかと思ってました」
「あれ? ほんとね。誰が手続きしたのか、考えたこともなかった。でも、私の感覚だといきなりアーヴェルンに来たって感じ」
「八歳ならそう感じても不思議じゃないですね」
メラニーは呟き、私は窓の外に気を取られた振りをした。
(情報整理の時間をあげるわ、メラニー)
「…………ミアさんはお嬢様にとって、特別なのですね」
「そうね、特別」
(──これで、セレスティーナがミアを狙うかどうかね)
ミアは近日中に実家に戻す予定になっている。
でも実家に滞在するのは訓練された『両親』と『ミア』の替え玉だ。
本物のミアはご主人と両親と一緒に、国外に行く。
たっぷりの護衛をつけて。
鍛冶場と店舗から離れられないご主人の方の親御さんにも、きっちり警護が配備されるそうだ。
(ミアのご主人の不在は単身赴任……オルテンシア商会からの仕事を請け負ったという形になってる)
本来なら実家でのんびり出産できたはずのミアには申し訳ないけれど、高確率で狙われると思うから離れて貰うしかない。
どうかミアも赤ちゃんも……無事に産まれますように。




