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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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ネリネ


 冬季休暇期間になった。


 ここ最近、ヴァレフォール公爵の外出が少々増えており、セレスティーナにとってはなにかと動きやすい状況にある。


 お父様とヴィユノーク公爵家の一人娘の縁談が持ち上がっている……。


(ヴィユノークは中立派。ヴァレフォールの貴族派とは異なるのが気になるけれど。民主派との縁談よりはあり得る組み合わせではある)


 繊細な仕草で刺繍に集中しているようなセレスティーナだったが、頭の中で様々なことを精査している。


(同派閥ではない婚姻。必要なわけではない……我が家の跡取りは、殿下とわたくしの子の二人目以降の子を、という約定)


 お父様が今再婚する意味がない。

 ゲームでは、ヴァレフォール公爵の再婚はなかった。

 だが本筋に無関係ならば、わざわざ明示されていないのも納得ができる。

 

 用心深いセレスティーナは、この情報を受けた時点でヴィユノーク家を調べていた。

 何故なら、ヴィユノーク公爵は現王が成人するまで繋ぎで王座にいた人物であり、先々代の王弟。


(あのカーティスの父親でもある。だけれどカーティスは認知すら受けていない平民……父子の交流は皆無だった)


 自分の『目』の先々でちらつくカーティスの気配。

セレスティーナは最大限に警戒はしているが、どうにも貴族の枠外にいるカーティスを破滅させる一手が見つからない。


・貴族的な圧力、効果なし。

 貴族との関わりは稀薄で、唯一あのアーヴェルンに出入りしているだけ。


・経済制裁、効果なし。

 彼の生活は母親の生家が援助しており、こちらの商会もヴァレフォールとは縁が薄い……。


・身内を使っての圧力、効果なし。

 カーティスは身内と、不仲のようで交流は見受けられない。

・母親は生家から出ており、足取りが掴めない。


(これは男児のカーティスを産んだせいだと言われている──お家騒動を避けたかったヴィユノーク公爵の采配で、他国に逃がされたという噂が有力)


 カーティスの使用人ですら、養子縁組などの裁判記録をたどっても出自を追跡できない者が多い。

 これはどう考えてもおかしい。


 唯一はっきりわかっているのは、カーティスの屋敷からアーヴェルンに行ったミアという侍女だけだ。

 メラニーの話では怪しいところはない上、妊婦だと言うから捨て置いて構わない。

 鍛冶屋だという婚家も調べてみたが、ただの平民で貴族との関わりはなかった。

 


(なにかあるのは間違いない、絶対……)


 カーティスは引き続き、調べる必要がある。


(今はお父様の再婚相手についてだわ。ヴィユノーク公爵のセーラ夫人はファピンの王族……)


 セレスティーナは、セーラ夫人について調べたリストを思い返す。

 白魚のような指は、相変わらず繊細な刺繍を続ける。


 ──幼少から虚弱であったセーラ夫人は、第三王女。政略結婚でファピンからオラトリオのヴィユノーク家へ。

 子を望めぬ姫ということで、早々にヴィユノークは姻戚から男児二人を確保している。


 ほどなく、妊娠不可能と言われていたセーラ夫人は懐妊。

 だが夫人が虚弱なのは間違いない。

 命の危険がある為、夫であるヴィユノーク公爵と共にファピンに赴き出産。

 どうにかセーラ夫人は命を繋いだが、次の子は望めない状態になった──。


(そのセーラ夫人が産んだ子が、ネリネ──お父様の再婚相手)


 美しい小鳥と蔦のモチーフを刺し終え、セレスティーナは立ち上がった。


「サビーヌ、ココアを。甘さは控えて」


(ファピンの王も可愛がっている孫娘のネリネ嬢──母親に似て虚弱という報告がある。そんな令嬢と何故わざわざ、今?)


 母を深く愛していた父親は、ずっと縁談を遠ざけていた。

 何が彼の気を変えたのか、気になる。


 (ファピンにパイプの無い我が家にとって、デメリットは無いのは確かね)

 

 政略結婚とはそういうもの。

 お父様はファピンと縁を作ろうとしている。

 虚弱な令嬢でも構わないということは、そういう事情なのだろう。

 跡継ぎはわたくしの子と決まっているのだから。

 

(わたくしの、王妃としての地位は磐石)


 温かいココアを飲みながら、セレスティーナは次々と懸念点を洗い出していく。

 その収束点にある名前はカーティス。

 彼が転生者である可能性はきわめて高い。


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