爪を出す
隠すのは、もうおしまい
数日後。
高熱の下がった『リリィ』は、中庭の外部サロンでカーティスの診察を受けている。
魂の輝きは人それぞれ。
記録にある初代聖女の魂は多層であり、私のものと酷似している。
聖女庁には、初代聖女の力は強かったが、多層魂の影響で時折体調を崩した──という文献が残っている。
カーティスと私はそれを利用して魂の診察という名目の下、合法的に往き来している。
「今回は多層魂の覚醒兆候による混乱ってことにしとくわね」
入念に数種類の防音魔道具を展開してから、カーティスが診断書にサインした。
「来週から冬の長期休暇でしょ、ユリはうちに来るとして──ミアはそろそろ無理よ?」
「うん。ミアの推薦で、メラニーかドロシーをユリ不在中につけられると思う」
「メラニー推しよ、私は」
カーティスは長い足を投げ出し、お行儀悪くソファーに身を委ねた。
「ミアの判断を優先させると思う、お義父様は」
「そうよねえ、リリィの意見を通す方が不自然だもの」
「でしたら、私の方からミアさんにメラニーを推しておきます」
ユリが窓の外を気にしつつ、ポツリと口を挟んだ。
「そうね、それが自然ね」
ユリと寮に戻り、寮長のアンダーソン夫人に診断書を提出する。
「お騒がせして、申し訳ありませんでした」
ユリと一緒に頭を下げる。
アンダーソン夫人はメガネを押し上げ、診断書に視線を落とした。
「理由がわかったならいいのです。病気であったなら罰則は適用されません」
「はい」
「身勝手からの迷子だったら謹慎処分だったでしょうけれど」
良かった、お咎めなしだ。
迷惑をかけた皆さんには後日、焼き菓子でも贈っておかなくては。
まだ少しふらつく足取りになるよう意識して、ユリと自室に向かう。
「ごきげんよう。リリィ様、お加減はもうよろしいの?」
こちらも自室に戻っている最中のセレスティーナとサビーヌ、サラだ。
「ごきげんよう、セレスティーナ様。おかげさまで、明日の授業には出られそうです」
セレスティーナは立ち止まり、しっかりと私に目線を合わせて微笑んだ。
「長引かなくて、本当に良かったですわね? 冬の風邪は怖いもの」
私は礼をとって、答える。
「お気遣いありがとうございます」
「夜更けに外で倒れてたって聞きましたけれど……」
「そうなんです、私自身はその夜のことは記憶に無くて。でも、騎士様からはそう聞いてます」
ユリが小さく吐息を漏らし、私の腕に手を添えた。
二度の圧迫……『暗器所持』の合図だ。
セレスティーナに道を譲るという形で、私とユリは数歩下がる。
笑顔と微かな薔薇の香りと共に、セレスティーナは先に自室に入っていった。
ユリが耳に髪をかけたことから、暗器所持はサラだとわかったけれど、寮内でさすがに暗殺は無いと信じたい。
(暗器にユリが気がつくか試してる? それとも脅しなのかしら)
翌日、クラスのみんなは温かく迎えてくれた。
そして、癒し手の授業。
手元から象牙色の光が溢れ出し、それは空中にしばらく留まっている。
他の誰よりも長く。
「おお!?」
「リリィさんが成功した!」
「やったぁ!」
私はこの日……覚醒した、という設定だ。
癒し手として歴代最高得点を叩きだし、セレスティーナを抑え聖女科のトップに躍り出た。
同時に祓い手としても力を示す。
「これが祓い……」
「治癒とは全く違うんだね」
「アーヴェルンの血ってすごいなぁ」
「ええ、血縁である証明ができて本当に安心したわ。みなさんも今まで励ましてくれて心強かったです」
《祓いってアーヴェルンにしか出来ないんだよね?》
《よく考えたら聖女様とリリィさんって顔がそっくりだもんね》
《他人のわけないよね、あの目もアーヴェルンだけだって言うし》
《祓いも優秀って話だし、あの噂ってやっぱりでまかせだったんじゃない?》
《そもそも本人が自分は孤児で平民だったって最初から言ってたしね》
《じゃああの噂って──》
セレスティーナが振りまいた悪意のある噂は、圧倒的な実力と血筋の証明で打ち砕いた。
生徒たちに噂の出処に疑念を持たせることも出来た。
隠していた爪を出し、絶好のタイミングで実力を示た私は正式な聖女候補として認識されている。
(出来ないふり、はもう終わりよ)




