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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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花冠、再び


(はぁ、退屈ー)


 高熱で寝込んだことになっているので、寝室からは出られない。

 前倒しで色々動いた分どう調整するか──ゆっくり画策するチャンスと思えば、いいのだろうか。


 寝室には、色とりどりの薔薇のアレンジメント。

 殿下からのお見舞いの品である。


(親しくもない、ただの伯爵令嬢に贈る品質じゃないのよね)


 それは……恋人に贈るような華やかなものだった。


 お見舞い品の搬入は、絶対セレスティーナ側も見ている。

 当然殿下と私の接触も、もう知っているはず。

 そして自分が消化したはずの『一回限りのはずの花冠イベント』を、私が起こしたかもしれない迷子騒ぎ。


(寒い思いをしてわざわざイベントの泉で倒れてたんだから、セレスティーナには疑心暗鬼になってもらわないと)


 元気になったら寮長には叱られると思うけれど、覚えてないごめんなさいで通すつもり。

 ここ最近、ずいぶん思い悩んでたらしい『リリィ』だもの。

 あの日は覚えてない、で押し通すわ。



 吹き抜けの豪奢な廊下を、滑るように歩くセレスティーナ。

 冬だというのに、王宮内の王族居住区はあたたかく、その出で立ちはデコルテが露出したパーティードレス。


(──思っていたより、時間を取られてしまったわ)


 セレスティーナの外泊の原因は、王妃の気紛れから始まった。


 参内するよう、王妃からの書簡が届いたのは今朝のことだった。


 午後から謁見、大舞踏会の衣装やアクセサリーについての打ち合わせ。

 晩餐の終わるころ、少々お酒が入って機嫌の良かった王妃が「泊まっていくように」といったからだ。


(寮から目を離すわけにはいかないのに──)


 だが、王妃の意向に背くわけにはいかない。

 セレスティーナはいつだって、王妃を敬愛している可愛い未来の義娘でいなければならないのだ。


(サラには周囲に注意を払うよう、言い付けては来たけれど)


「ああ、サビーヌ。結構よ」


 利き手をいためているサビーヌの手助けを、やんわりと押し留める。


「わたくしのせいで痛い思いをさせてしまって……」


 そう睫毛を伏せると、サビーヌは低く柔らかな声音で返事をした。


「いいえ、セレスティーナ様の御身に何事もなく」


 セレスティーナは主らしい範囲内で、サビーヌに気遣いをみせた。

 湯浴みして夜着に着替え、おとなしく羽布団に入る。


(思っていたより、王妃様はサビーヌを気に入っている)


 わたくしに貸し出すくらいだから、それなりに信頼があると思っていたけれど。

 ずいぶん心配されていたわ。


 セレスティーナはサビーヌの重要度を、脳内で一段階上げることにした。


(学園については問題がない。噂の伸びは今一つだけれど、リリィがアーヴェルンとは無関係な平民だという認識は広まってきている)


 ヒロイン……ゲームでは、勉強も治癒もそこそこ出来る設定だった。

 だが、あのリリィ・アーヴェルンはどう?

 発動してるのに、なにかに抑え込まれているように魔力が霧散して失敗ばかり。


 やはり、ここはセレスティーナの世界。


 ヒロインは悪役令嬢ルートと同じように──治癒力を思うように発揮できず、落ちぶれていくの。

 セレスティーナは、ぱちりと瞳を開いた。

 薄明かりの中で紫水晶が煌めく。


(リリィは様子見でいい。それよりイルマと護衛だわ。それらしい男が、あの時期に保護されていたなんて)


 羽布団を握りしめ、眉間に力が入る。


(身元不明者用の療養所。確かに記録はあったけれど、脱走したってどういうこと?)


 あの高額アイテムは、一旦魂を破壊して再編成するもの。

 元に戻るはずがないし、そんな状態の人間が一人で生きていけるわけがない。


(動いてるのはリリィ自身ではない。もっと狡猾で地位のある……)


 リリィが転生者なら、カーティスを使うだろう。

 実際、カーティスの保護下からアーヴェルンに行っている。


「もし……」


 カーティスが転生者だったら?

 リリィを使って、なんのメリットがある?


(カーティスの父親は、先代の王だわ。では、その狙いは王家に向いてる……? いいえ、そんな情報は攻略サイトに無かったわ。悪役令嬢側のカーティスルートは『都市運営』、ヒロイン側のルートは『謎解き』だったもの)


 思考はとりとめもなく彷徨い、疲れを自覚したセレスティーナは再び瞳を閉じた。


(確証のないことを、今考えても無駄。まずは情報、そして確認)



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