花冠、再び
(はぁ、退屈ー)
高熱で寝込んだことになっているので、寝室からは出られない。
前倒しで色々動いた分どう調整するか──ゆっくり画策するチャンスと思えば、いいのだろうか。
寝室には、色とりどりの薔薇のアレンジメント。
殿下からのお見舞いの品である。
(親しくもない、ただの伯爵令嬢に贈る品質じゃないのよね)
それは……恋人に贈るような華やかなものだった。
お見舞い品の搬入は、絶対セレスティーナ側も見ている。
当然殿下と私の接触も、もう知っているはず。
そして自分が消化したはずの『一回限りのはずの花冠イベント』を、私が起こしたかもしれない迷子騒ぎ。
(寒い思いをしてわざわざイベントの泉で倒れてたんだから、セレスティーナには疑心暗鬼になってもらわないと)
元気になったら寮長には叱られると思うけれど、覚えてないごめんなさいで通すつもり。
ここ最近、ずいぶん思い悩んでたらしい『リリィ』だもの。
あの日は覚えてない、で押し通すわ。
◆
吹き抜けの豪奢な廊下を、滑るように歩くセレスティーナ。
冬だというのに、王宮内の王族居住区はあたたかく、その出で立ちはデコルテが露出したパーティードレス。
(──思っていたより、時間を取られてしまったわ)
セレスティーナの外泊の原因は、王妃の気紛れから始まった。
参内するよう、王妃からの書簡が届いたのは今朝のことだった。
午後から謁見、大舞踏会の衣装やアクセサリーについての打ち合わせ。
晩餐の終わるころ、少々お酒が入って機嫌の良かった王妃が「泊まっていくように」といったからだ。
(寮から目を離すわけにはいかないのに──)
だが、王妃の意向に背くわけにはいかない。
セレスティーナはいつだって、王妃を敬愛している可愛い未来の義娘でいなければならないのだ。
(サラには周囲に注意を払うよう、言い付けては来たけれど)
「ああ、サビーヌ。結構よ」
利き手をいためているサビーヌの手助けを、やんわりと押し留める。
「わたくしのせいで痛い思いをさせてしまって……」
そう睫毛を伏せると、サビーヌは低く柔らかな声音で返事をした。
「いいえ、セレスティーナ様の御身に何事もなく」
セレスティーナは主らしい範囲内で、サビーヌに気遣いをみせた。
湯浴みして夜着に着替え、おとなしく羽布団に入る。
(思っていたより、王妃様はサビーヌを気に入っている)
わたくしに貸し出すくらいだから、それなりに信頼があると思っていたけれど。
ずいぶん心配されていたわ。
セレスティーナはサビーヌの重要度を、脳内で一段階上げることにした。
(学園については問題がない。噂の伸びは今一つだけれど、リリィがアーヴェルンとは無関係な平民だという認識は広まってきている)
ヒロイン……ゲームでは、勉強も治癒もそこそこ出来る設定だった。
だが、あのリリィ・アーヴェルンはどう?
発動してるのに、なにかに抑え込まれているように魔力が霧散して失敗ばかり。
やはり、ここはセレスティーナの世界。
ヒロインは悪役令嬢ルートと同じように──治癒力を思うように発揮できず、落ちぶれていくの。
セレスティーナは、ぱちりと瞳を開いた。
薄明かりの中で紫水晶が煌めく。
(リリィは様子見でいい。それよりイルマと護衛だわ。それらしい男が、あの時期に保護されていたなんて)
羽布団を握りしめ、眉間に力が入る。
(身元不明者用の療養所。確かに記録はあったけれど、脱走したってどういうこと?)
あの高額アイテムは、一旦魂を破壊して再編成するもの。
元に戻るはずがないし、そんな状態の人間が一人で生きていけるわけがない。
(動いてるのはリリィ自身ではない。もっと狡猾で地位のある……)
リリィが転生者なら、カーティスを使うだろう。
実際、カーティスの保護下からアーヴェルンに行っている。
「もし……」
カーティスが転生者だったら?
リリィを使って、なんのメリットがある?
(カーティスの父親は、先代の王だわ。では、その狙いは王家に向いてる……? いいえ、そんな情報は攻略サイトに無かったわ。悪役令嬢側のカーティスルートは『都市運営』、ヒロイン側のルートは『謎解き』だったもの)
思考はとりとめもなく彷徨い、疲れを自覚したセレスティーナは再び瞳を閉じた。
(確証のないことを、今考えても無駄。まずは情報、そして確認)




