学園の様子
「ああっ!? まただぁ」
私ことリリィは今日も授業で失敗し、大げさに首をひねり大声を出す。
「うーん?」
治癒は相変わらず、うまくいかない……という設定だ。
クラスのみんなは優しくて、色々原因を考えてくれている。
時々は成績トップのセレスティーナまで、気の毒そうに優しくアドバイスをくれるくらいだ。
「発動の光は出てるよね」
「うんうん、だからプロセスは合ってるよね?」
「触媒が焦げるのって、力みすぎなのかなぁ」
「こんなに光ってるのにねぇ」
うんうん、みんなありがとう。
本当は触媒なんて要らないんだ。
私はきちんと上手に失敗出来ているよ。
ちょっと膨れっ面で「もう三ヶ月も練習してるのにっ」と言えば、爆笑が起きる。
伯爵令嬢だけれど、素直で朗らか。
気取らない態度のムードメーカー。
真面目に頑張ってるのにどこかコミカルな、リリィ・アーヴェルン。
これが今の私の立ち位置。
一方のセレスティーナはローランド様と一緒にクラス代表を務める、素晴らしい優等生ぶりだ。
癒しを失敗し続ける私をいつも横目で眺めて安心している様子。
余裕のある態度で、まさに完璧。
そして、無遅刻無欠席である。
私の方はエドワール王太子をはじめ、攻略対象と起きるはずのイベントはすべてスルー。
強制力で回避不可能な事案も起きてはいるけれど、いつも誰かと一緒にいることによって『二人きりで会話する』事態には巻き込まれていない。
(そもそも、セレスティーナがイベントを歪めているし)
セレスティーナ自ら回収する、さりげなく攻略対象の予定を変えてイベント開始場所から遠ざける──
ひとつも取りこぼさない。
更に攻略対象の婚約者たちとも仲良くやっている様子。
(私は『知っている』から気がついているけれど、知らなければ全く違和感のない立ち回り──)
見事、というしかない。
何も知らず過ごしていたら、とっくに悪意の噂で潰されていただろう。
「あら、リリィ様……放課後まで練習なさってるの?」
「あ、セレスティーナ様。そうなんです、さすがに発動すらしないのはちょっと焦ってまして……」
「そうですわね、でも──アーヴェルンの血を引いているなら、誰よりも素晴らしい使い手になりますわ。コツを掴めれば、きっと」
セレスティーナは慈愛に満ちた微笑みで、リリィを励ました。
《血縁者じゃないのでは?》という言外の棘を忍ばせて。
ユリは何も言わず、静かに教室の隅に控えている。
使用人は教室では主を見守るだけ、がルールだから。
「不思議ですわねぇ、アーヴェルンだというのに」
「皆さんそういって励ましてくれるのですが、アーヴェルンの名に泥を塗っているようで、申し訳なく思います」
当たり障りのない会話。
セレスティーナは私が出来ていないことを確認するかのように、時折アドバイスに顔を出す。
付き従ってるのは、サラという侍女。
少し前、図書館で書架が倒れる事故があった。
正面にいたセレスティーナを庇いサビーヌが負傷。
肩と利き手、足を痛めたという事で、侍女の増員が認められたようだ。
(絶対偶然の事故じゃない、と思うけれど)
◆
《アーヴェルンなのに》
《血縁はあるって聞いたけど、あそこまで才能がないなんて》
《やっぱりただの孤児じゃないか?》
《見た目が聖女に似てるだけ》
冬になり、予想通りの噂が流れ始めた。
出所はセレスティーナだけど、実は私も便乗して『噂』を流している。
思い悩んでいる様子を少しずつ流しているのだ。
《相当焦ってるみたい》
《思い悩んでいる》
《本人もアーヴェルンの血ではないと知ってるのかも》
《だから必死なのね》
──クラスのみんなは励ましてくれるけれど、魔術科から発生した噂は、校舎の違う一般科や騎士科にも飛び火している。
食堂でも遠巻きにヒソヒソされているし、学園の使用人たちですら好奇の視線を向けて来る始末だ。
セレスティーナはますます余裕を見せて『アーヴェルンの血筋なら大丈夫』と、優しくリリィを励ます。
じわじわと追い詰めているつもりなのだろう。
(上手くいきすぎて、逆に怖い。思った通りに事態が進んでいる。油断しないよう、慎重に立ち回らなきゃ)
私は自分にしっかり言い聞かせた。




