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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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王妃の侍女


 セレスティーナは壁の飾り時計に目を向け、小さな吐息をついた。


(もう日付が変わってしまうわ。そろそろサビーヌが寝室の様子を見に来る……)


 セレスティーナは机のランプを消し、すっと立ち上がり隣の寝室に移動した。

 数分後、部屋に訪れたサビーヌは天使のような寝顔のセレスティーナを確認して音もなく退室した。


 これは数年前に決まったこと。

 大事にしていたメイド、イルマの失踪を機に心を痛めて不眠となったセレスティーナに王妃の計らいで、サビーヌが配置された。

 以来、零時ちょうどに寝室を確認される習慣となったのだ。



(あの時、忙しくて夜更かししたのが失敗だったわ。不眠を訴えて不安定を装ったけれど)


 長引かせたわけではない。

 王妃にふさわしくない、というレッテルは不本意だったのですぐに夜更かしはやめたのだが、習慣化した見回りはなくならなかった。

 デメリットではあったが、王妃の元侍女が『王太子の婚約者』を世話しているという事実は悪くない。

 王妃からの信頼があるという周囲へのアピールになるからだ。


(……わたくしの品行方正さは保証されている)


 だからこそサビーヌは、手放せない。

 セレスティーナは学園規約を思い返し、羽布団の中で微笑んだ。


(理由は必要だけれど、届けさえ出せば侍女はもう一人だけ増やせる)


 どうする?

 わたくしにふさわしい、もっともらしい理由が必要だわ。



「さて。報告会よ、さあ何があったか教えて」


 カーティスがウキウキとした様子で、屋敷を訪ねた私たちを出迎えた。

 仔細な情報共有を行い、お互いの意向を確認。


「ああ、サビーヌは弄られてないと思うわよ? セレスティーナに派遣されるまで、王妃のお気に入り侍女だったもの。聞いた話では、いずれ王妃の元にもどるわ」


「──なら、サビーヌには下手な真似は出来ないと」


「そう。サビーヌはそういう意味ではそこまで警戒しなくてもいい」


 暖炉からは、ぱちぱちと薪の爆ぜる音。

 カーティスの暖かいサロンには活気が満ち溢れている。


「早速ノワールは嗅ぎ回られてるわ。メラニーは深夜にヴァレフォール屋敷に行っていたし」


 カーティスは笑いを堪えきれず、喉を鳴らした。


「──失礼。で、アザレアの療養院ね。うん、そうそう。ユリを処分する命令を受けてた捨て駒の。そっちも嗅ぎ回ってる」


「気がついたのね」


「ふふ、ユリが生きてるから。ただ、アザレアにもう彼はいないのよ」


 私はカーティスの顔を、じっと眺めた。

 ──とてもご機嫌だ。


「うふ。彼ね、実はちょっとだけど回復してるの」


 事件から半年ほどで、カーティスは彼を確保していたらしい。


「そんな話聞いてないんだけど?」


「あら、そうだったかしら」


 カーティスはケラケラ笑って誤魔化したけれど、情報共有は抜けたら困るわ。

 私がそう文句を言うと、カーティスは真剣に謝罪した。


「ユリが知ってる限りになるけど、彼ってフリーの傭兵だったみたい」


 ユリが頷いてカーティスの言葉を補足する。


「駒にされる人間は必ず詳細に調査されます。天涯孤独で連絡を取るような相手もいない、そんな人が選ばれていました」


 ふ、と吐息を漏らしてユリが一歩下がった。


「本当に用心深い……」


 カーティスが呟く。


「名前なんかは覚えてないみたいだから、仮でジョンって呼んでるのだけど」


 ジョン氏は最初『指示』『処分』『自害』位しか言えなかったらしい。

 食事も身の回りのことも全部出来るのに、コミュニケーションだけが成り立たない状態。


「最近、単語が増えたの」


「ふうん?」


 カーティスは二年半に及ぶ、詳細な観察記録を見せてくれた。

 ここ最近、『メイド』『セレスティーナ様』など発語があるようだ。


「──まあ、言えるのは単語だけだし。証拠としては弱いけど、ジョンが既にアザレアから誘拐されてるって知れば揺さぶりにはなるわね」


「既に調べる手配はされているはずです。あの人には、それを出来るだけの人材を豊富に持っています」


 ユリの言葉は重みがある。

 実際に見てきているから。


(そして、連絡係とはいえ──実行犯にもされていた)


「うん。昨日は王宮で王妃とお茶会。その後、カフェ数分寄っているわ。相手は聖女庁の職員の奥様」


「え、そんな人まで手駒に……」


 ユリは私の言葉に、短く相づちをうった。


「はい。それがあの人のやり方のひとつです。例えば、その洗脳済みの奥様に……ご主人を洗脳させたりですとか。とにかく追跡が難しいよう立ち回ります」


「ええー……」


「五歳から、既にそうでした」


 ポツリと最後の言葉を付け足し、ユリは再度口をつぐんだ。

 やや重苦しい空気になり、私は黙ったまま思いを巡らせた。


(王妃からの侍女は絶対手放さないでしょうね。成婚への大事な布石だもの。特別寮の使用人に手を出すほど浅はかではないだろうし……)


 何か理由をつけて、手駒を?


「侍女を増やすんじゃないかしら」


 私の言葉にカーティスが片眉をあげ、首をかしげた。


「そうねえ、何事も理由があれば通るんじゃない?私がリリィの治療をするために、時折学園に行けるみたいにね」


「連れてくるとしたら、サラという侍女でしょう。五年ほど前から、暗殺や工作を実際に請け負っているレディースメイドです」


「身元は? レディースメイドでしょう」


「サラは北の孤児院出身です。元々ハウスメイドでしたが、一時期メイドがバタバタと辞めた時期があって……今思えば、サラを登用するための策略だったように思えます」


 カーティスが顔をしかめる。


「北の孤児院って。何年か前に火事で焼け落ちたところよね?全員亡くなってしまったって。それって──」


ユリは無言で頷いた。


「ええ。サラが火を放ちました。私は見届ける役でした」


「なんてこと!」

 

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