メラニーの報告
「成人してからの養子縁組でしょう。ユリさんにはもう、どこかいい家に縁談があるのかと思ってたわ」
メラニーの言葉にドロシーも頷く。
ユリは穏やかな声で、のんびりと答えた。
「ドラマティックなことはなにもなくて。既に断絶してますけれど、田舎の子爵家の生まれでしたから、親が今の両親と面識があっただけなんです」
「まあ! それって──」
「あなた達。いくらお嬢様が寛容だからって、気を抜きすぎよ」
「!!」
戻ってきたミアに注意を受け三人は飛び上がり、蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
その後どういう会話が続いたかはわからないけれど、明日カーティスの屋敷で報告があるだろう。
(打ち合わせはカーティスのところで。これは絶対事項だわ)
どこから何が漏れるかわからない。
スパイはメラニーだけとは思えないし、用心は大事。
「ミア、具合はどうなの」
晩餐用のドレスを着せられつつ発した私の言葉に、ミアは手を止めて笑顔になった。
「お気遣いありがとうございます。さいわい、体調は万全ですわ」
ミアは新婚四ヶ月。
婚家は平民だけれど、有名な鍛冶職人の家だ。
そして、先月おめでたい報告があった。
「あなたは帰って大丈夫。明日はユリを連れていくわ」
申し訳なさそうにするミアだが、これは予定通りだ。
カーティスの口利きで、条件のいい縁談。
先方は早めに跡取りを希望。
妊娠しやすいハーブティーや医師からのタイミングのアドバイスといった工作はあったものの、ミアはあくまでも偶然の妊娠。
それによってメイドたちの予定は急遽、編成し直された。
ミアが動きにくい時期になれば『リリィ』は自然に屋敷でもユリと過ごす場面が増えることになる。
表面的に、ミアの子育てが一息付いた頃に私が卒業。
その後、ミアはまた侍女に戻る──という新しい働き方を提示するアーヴェルンの試み、という筋書きだ。
この作戦は既に成功していてアーヴェルン伯爵からも了承を得ており、使用人全員が知っているメイドの福利厚生の『段取り』だ。
ミアは幸せそうだし、誰も傷付かないいい作戦よね。
(妊婦を気遣って連れ歩かないようにするのは『リリィ』らしいから、違和感はない)
年内にメラニーを連れて、カーティスの診察を受ける機会を設けるつもり。
偶然用事があって、付き添えないユリに変わって急遽ピンチヒッターで連れていく。
(カーティスがメラニーを調べたがっているからね)
魂の異常はカーティスが至近距離で少し時間をかけて見れば、すぐわかるみたい。
寝かせる必要もなければ、薬剤も要らない。
ただ、連れていけばいいだけ。
そう言えば明日はメラニーの休暇らしい。
今夜から実家に数日帰宅するという報告が、ミアからもたらされている。
(早速今夜に報告会ね? 私もセレスティーナも、時間に全く余裕がないのだから)
◆
ヴァレフォールの屋敷は静まり返り、闇の帳が降りているかのよう。
──コツン。
セレスティーナの耳は窓辺の小さな、小さな音を捉えた。
そっと窓を開けると、滑り込むように黒衣のメラニーが室内へ。
ぱた、と閉じられた窓は光も漏らさずしっかりと宵闇の安寧を守り続ける。
「──というわけで、ミアとユリの交代は伯爵と医師の判断で入学直前に決まったようです」
メラニーの囁く声に、セレスティーナは物憂げに耳を傾けた。
「では、偶然だと?」
「おそらく。リリィ嬢は少々ごねておりましたし、入学前夜までミアに不安を訴えていました」
「ふーん、そう…………で、その新しい侍女って?」
「本人によると断絶した田舎の子爵家の子女とのこと。ノワール家当主夫妻と過去から面識あり」
(子爵家の──確かにイルマは子爵家の長女だったわね)
もう、存在すらしていない家だけれど。
セレスティーナは暫くメイドの報告を聞き、口頭で指示をだした。
「そうね、あなたはこのまま。出過ぎず情報収集に専念なさい。でもミア、ユリに続く三番手くらいは目指して」
「はい」
メラニーは来た時と同じように、するりと窓から出ていった。
(侍女の差し替えはリリィの希望ではない。伯爵、医師──カーティスね。やっぱり一番怪しいのはあの男だわ)




