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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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王太子のお茶会


「セレスティーナは先手必勝タイプよね、なまじ知識があるだけに。効果が切れたらどうなるかわからない人間……そりゃ消すわよねぇ」


 呆れた声音のカーティスが大げさに首を振った。


「待って。それをセレスティーナが使っていたと言うことは……期限切れが三年前だとするとゲーム開始は八歳ではなく五歳?」


 私と同時期に、記憶が戻っていたと?


「そもそも何であなたはアイテムを持ってないのかしら」


 もちろん、それは私も疑問だった。

 一応心当たりはある。


「私は、自腹でプレイしてないの。アカウントは会社の物で、経費で検証してたからかも。もしくは……ここが悪役令嬢モードの世界だから、か」


「個人所持じゃなかったってのが、説得力あるわね」


「うん。どっちにしても、イルマを確保できたのは僥倖よね」


 私はぐったりとソファーに身を預けた。


「彼女を助けたのは、あなたを守る準備でもあったのよ」


 カーティスが淡々と言葉にした。


 ゲームの世界……でもみんな生きている。

 セレスティーナは、どう思っているのだろう?

 私は力なく呟いた。


「そうね……ありがとう」



 王太子・エドワール主催のお茶会──

 

 その場に招かれたのは高位の貴族子女たちだ。

 もちろん乙女ゲームにおける攻略対象たちも。


宰相の息子・ユーグ。

騎士団長の息子・セイン。

天才魔術師・アレクシス。

中立国の王子・レオニス。

そして、主催者である王太子・エドワール。


 錚々たるメンバーのその中央に、セレスティーナ・ヴァレフォールが座っていた。

 銀糸のような髪を風に揺らし、微笑みをたたえたその姿は非の打ち所がない。

 まさに次期王妃にふさわしい立ち居振る舞い。


「治癒魔法の素質があると伺いましたよ、セレスティーナ様」


 ユーグが紅茶を口にしながら、ふと切り出す。


「ええ。お恥ずかしながら──幼い頃より、ときおり兆しのようなものがございましたの」


「では、やはり聖女科に進まれると?」


 レオニスが身を乗り出す。


「……そのように勧めていただけるのなら。王国に微力ながら尽くせるのなら、私でよければ喜んで」


 ──完璧な回答。

 しっとりと控えめに笑いながら、視線を王太子へと流す。


 エドワールの頬がわずかに染まった。


「聖女科は、君を歓迎するはずだ。僕も、君の選択を誇りに思うよ」


 これが正解回答だとセレスティーナは知っている。

 知っていて、フラグを丁寧に踏んでいる。


 そして、次に必要なのは配慮。

 この会場に攻略対象たちの婚約者たちも来ている。

 だがセレスティーナの完全プレイには邪魔なので、あえて席は離してある。

 そんな彼女たちへの気遣いをセレスティーナは忘れていなかった。

 席に着く前に、しっかりと贈り物の約束や賛辞で根回しは済んでいる。


「ああ、アレクシス様のご許婚候補──マルグリット嬢には、先日お目にかかりましたわ。とても聡明で、美しい方。ご一緒に学園へ通えるのが、楽しみですわ」


「セイン様のご婚約者、ロザリー様も素敵な方でした。優雅で……まるで古典詩の中の淑女のよう」


 攻略キャラにはその婚約者たちへの敵意ではなく、あくまで称賛を伝える。

 同じ女性同士としての共感と表面上の好意。

 そう思わせることで、公明正大な未来の国母を示す。


(攻略対象に誤解を与えるくらいなら、許容範囲ですわ。……一線を越えさえしなければ、私の責任にはなりませんもの)


 王子たちがセレスティーナに好感を抱くのは、彼女のせいではない。

 間合いを操作し言葉を選び、沈黙すら味方につける。


 (──相手が勝手に惚れるのは、わたくしの罪ではなくてよ)


「セレスティーナ、君と話すと未来が明るく思える」


 エドワールが微笑む。


「まぁ。……過分な評価は困ってしまいますわ、エドワール様」


 次期王妃は、誰よりも信頼されるべき存在。

 そうあるための言葉と振る舞いを、彼女は欠かさなかった。

 すべては予定通り、この場は完璧に掌握した。

そう思っていたその時。


「劇みたいですね! お姫様と王子様の舞台のようで、なんて華やかなんでしょう!」


 後方の席から響いた、少女の無邪気な声。


 その声に、全員が一瞬だけ振り向いた。

 セレスティーナも、軽く微笑んでそちらを見る。


 ──リリィ・アーヴェルン。


「劇?」


 ユーグがリリィに尋ねる。


「ええ、美しい絵本みたいで。セレスティーナ様のお美しさなんて、舞台照明が要らないくらい!」


 セレスティーナはリリィのズレた発言にも動揺を見せず、にっこりと笑った。



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