どちらも演者
どちらも演者
──茶会から二日後。
ヴァレフォール公爵邸、セレスティーナの私室に、三人の影があった。
何故そんなことが八歳で出来るのか──それは、課金アイテムの力。
ヴァレフォール公爵。
セレスティーナの父親は二年前の数ヶ月だけ、完全にセレスティーナの制御下にあった。
その間に、セレスティーナは自分の手駒を完璧に整えていた。
もちろん、公爵には記憶も痕跡もない。
ただ、当時は過労死寸前の忙しさだった……という偽りの曖昧な記憶があるだけ。
部屋にいるうちの一人は、宗教院の聖女部門に籍を置く書記官だ。
「わたくしの友人、リリィ・アーヴェルン様について。──調べてほしいの」
セレスティーナ・ヴァレフォールは、椅子に深く腰かけたままそう告げた。
姿勢は完璧、声には一切の感情も混じらない。
「孤児院での記録、修道院の関与。使用された書類の経緯、証人、推薦者、保証人。そして、最初に保護した人物」
──拾ったのは誰か?
それを掘り起こすわ、どんな手を使っても。
彼女の笑顔の裏にあった決意は、既に行動に変わっていた。
「名誉を傷つけるつもりはないのよ。ただ、知りたいだけ。どこの誰が、わたくしのお友達を連れてきたのか」
仮面のような微笑。
しかし命じられた三人は、それが冗談ではないことをよく理解していた。
「調査には時間がかかります。痕跡を辿るには──」
「構わないわ。来月の舞踏会までに、ひとつでも糸口があればいい」
セレスティーナは、ティーカップを口元に運んだ。
カップの底には冷めきった紅茶と、わずかに残る蜂蜜の甘さ。
(あなたを守っているバグを見つけて、引きはがす)
(どれだけ完璧に装っていても──その仮面の下を暴けば、すべて終わるわ)
◆
一方、治療という理由で外出を許された『リリィ』はカーティスの屋敷にいた。
窓のない部屋に薄暗い照明。
私は貴族の娘であるので、隅には侍女が控えている。
白衣姿のカーティスは、興味津々といった様子で話し始めた。
「で、セレスティーナ嬢とついにご対面、と。どうだった? ラスボスのご感想は」
「完璧だったわ、全部。演技としては」
「つまり、演技だったと確信できた?」
「ええ」
私は頷き、部屋を見渡した。
トゲ植物の鉢植えがいっぱい置かれている。
「窓もないのに、育つの?」
「ああ、これ? 光は必要じゃないのよ、すごいでしょう?」
痛い思いをさせられたから、見るのも嫌なんだけれどね。
「あの時トゲトゲに捕まってなかったら、私は死んでたのよね、きっと」
「それ以前に普通の人間だと、あの裂け目が通れないわよ」
「確かに」
「あなたは魂が変だから、跳ね返されなかっただけ」
「……侵入者も、跳ね返されなかったんでしょ?」
カーティスの指が、ぴたりと止まった。
「よく知ってるじゃない」
「伯父さんが聖女様に話してるのを聞いちゃったの」
「あらあら。侵入者は喋れるようになったら、何をしに来たか訊くつもりよ」
「それが、セレスティーナの手の者だったら?」
「だから、私はあなたに情報開示してるのよ」
カーティスは、私の目を見て静かに言った。
「間違いなく、本気でヒロインを殺しに来るわよ」
「でしょうね」
部屋の空気が私の溜息と共に重くなった。
「あなたは養女としてお披露目され、正面から宣戦布告してるわけだし」
「それでも行くよ、どうせ行かなくても危険だし」
「それもそうね」
だって、何もしない方が危ないんだもの。
「策はあるの?」
「ゲームのターゲット層は子供じゃなくて、大人の女性だったの」
「大人の──」
「一般的なゲームに比べるとかなり高額だった」
カーティスは目を細め、苦笑した。
「その分、その課金アイテムは強力ってことなのね?」
私は仏頂面で頷いた。
「だから策といっても裏をかくしかないんだけどね」
「無茶する子は嫌いじゃないけど、用心しなさいよ」
「もちろんよ。腹黒さでは負けないわ、絶対」
「フフ、負けず嫌いね?」
カーティスの声の裏には、魔術師としての純粋な興味がにじんでいる。
この人は、こういう人なのだ。
(研究対象でいるうちは、安全と思うしかないのよね……)
ヴァレフォール公爵家の少女と、アーヴェルン伯爵家の少女。
二人は、それぞれの屋敷で、次の一手を整えつつあった。
どちらも、無邪気な八歳を演じている。




