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ヒロインに転生したのはいいけれど、悪役令嬢が廃課金勢だったので開始前から命の危機です。  作者: 藤 野乃


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完璧な令嬢

完璧な令嬢

 午後の陽が斜めに差し込む、白と金で統一された可愛らしい私室。


「これ、ラズベリーじゃないの。今日はイチゴって言ってたでしょう?」


 フォークの先でぷすぷすとケーキを突っつく様子は、まるで典型的なわがまま令嬢そのもの。

 ──だが、それは彼女が作り上げた仮面だ。

 その挙動はすべてわざと、である。


 セレスティーナ・ヴァレフォール。

 八歳にして完璧と謳われる美少女だが、彼女の中にはそれ以上の記憶とそれ以上の狡猾さが詰まっている。

 幼いゆえの無知な傲慢さを装うことで、相手の油断を引き出す。

 それが一番効果的だと、彼女は知っていた。


「お嬢様」


 控えていた老執事が、一歩前に出た。


「なあに。お説教ならあとにして」


「いえ。アーヴェルン伯爵が、新たに養女を迎えられたそうで」


「ふぅん。どこかの低位貴族から?」


「それが──孤児を」


「孤児……? どんな方をお迎えになったのかしら」


「名はリリィというそうです──前当主の外孫という噂が。つまり、現当主と聖女様の姪──」


──カチン。


 手元のティースプーンが皿の縁にぶつかって甲高い音を立て、紅茶の表面が小さく揺れた。


「ごめんなさい、手が滑っちゃったわ。お行儀悪いわね、わたくし」


 セレスティーナは無邪気に自分の小さな手を眺めた。

 メイドたちは一斉に頭を下げる。

 誰も、彼女の指先がかすかに震えたことには気づかない。


(……嘘、でしょう?)


 リリィ、そのデフォルト名。

 ゲームの中で何百回も目にした、ヒロイン。



 連れ去りの失敗報告はあったが、目撃情報も目印も何も残っておらず孤児院に戻った様子もなかった。


 まさか自力で逃げて、そのまま?


「その子……いつ、お披露目されるの?」


「来月の第一土曜に、茶会で正式に紹介されるとのことです」


「まあ、楽しみね」


 子供らしい声音ではあったが、内心ではすでに警鐘が鳴り響いていた。


(調べなくては。こちらの包囲網から消えた原因、保護者、後ろ盾、現在地……全部)


(──次は失敗しない、出来ない)


 セレスティーナは笑顔のまま、ティーカップを傾けた。



 その夜、セレスティーナは深夜まで眠れずにいた。

 豪奢なベッドの上でぬいぐるみを抱いたまま、天井を見つめ冷徹な思考を巡らせている。


(一ヶ月後、リリィがお披露目される)


(おそらく、ヒロイン。外見も名前も一致。だけど──)


 誘拐を指示して──足がつかぬよう回収と処理の担当を分け、直接命令も残さないように慎重に手配した。

 途中で逃げられたとの報告は受けたが、目撃証言も生存痕跡もない。

 孤児院にも帰っていなかったので、舞台からは消えたと思っていた。

 実行犯はその日のうちに課金アイテムで記憶を消してある。


 ──なのに。


(偶然? まさか)


 セレスティーナは首を振った。


(誰かが介入した? アーヴェルン伯爵の養女なんて)


「ゲームでは侯爵家の養女だったはず──」


 幼い時に事故で娘を亡くした侯爵夫人が、雰囲気が似ていると言ってとリリィを孤児院から引き取るはずなのだ。

 ちなみにその『娘』はセレスティーナの行動によって事故を回避したので健在。


 ──先回り出来ることは全部やっているのに。


 セレスティーナは、ペンダントから魔石を取り出した。

 薄い魔力の揺らぎが、指先にひっかかる。


(証拠が欲しい。だからまた、あの場所を調べさせたのに)


 リリィが最後に目撃された、袋小路──彼女は逃げ場もないのに、姿を消した。

 回収係はそこで追跡を断念したが、よくよく考えてみたら都合良く消えるなんて偶然などないのだ。

 絶対に、何か見落としている。


 リリィの動向を突き止めなければ安心出来ない。

 だから、彼女はリスクを承知で今日新たに人を動かした。


(結局、この時間になっても連絡がつかない……)


 魔石は、処理係の持つ課金アイテムの追跡石と連動している。

 本来なら、ゆるやかに位置情報が波打って表示されるはずだった。

 でも、処理係が現地に踏み込んだであろう時刻に異変が起きた。


(急に反応がおかしくなった)


 魔力が急激に断たれたわけでもない。

 破壊された反応でもない、不自然な消失だった。


(ただの袋小路だって報告だったのに)

 

 八歳の子供が──三人の男から単身で逃げおおせて潜伏出来るわけがない。


(──ヒロインの背後には、誰がいるの?)


 プレイヤーとしての記憶にない存在が動いている?

 明らかにシナリオにないはずの事象が起きている。


「わたくしが、ゲーム開始前に動いたから…………?」


 セレスティーナは、ぬいぐるみを押し潰しながら小さな声で呟いた。


(あの屋敷……隠しキャラの物なのが引っ掛かる……)


 ハードモードは悪役令嬢かヒロインを選んでスタートする。

 前世ではまず、お気に入りのセレスティーナの完全攻略から着手し悪役令嬢編はコンプリート済み。

 カーティスルートも回収してある。


 だが、ヒロインモードは二周しか出来ておらず、カーティスルートはまだだった。

 これが、慎重にならざるを得ない理由でもある。


(でも──どちらでも構わない。わたくしの敵なら、排除するだけ)


 今なら、どうにでも出来る。

 セレスティーナはぬいぐるみを抱き寄せ、目を閉じた。


(ヒロインと、直接会う日までに──情報を、揃えないと)



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