決意
決意
廊下を抜けて階段を下りていくと、庭園が見えてきた。
あの日夢中でトゲだらけの茂みに突っ込んだことを思い出し、足を止めてそこを見つめる。
──あの時の恐怖は、まだ身体に染みついている。
息ができないほど痛くて、泣くことすらできなかった。
でも、あれがなければカーティスに出会うことも、この分岐を掴むこともなかっただろう。
悪役令嬢のおかげ、とも言える。
「悪役令嬢……私を巻き込まないで欲しかったわ」
ふっと呟いた言葉に、カーティスが首を傾げた。
「なに?」
「……これからは、自分の意思で物語を選ぶって決めただけ」
「いい心がけね。選べるうちに選ばなきゃダメ」
庭からの芳しい風が、踊るようにふたりの間を吹き抜けた。
夏の光が差し込み、白い薔薇が風に揺れている。
私はその先に、まだ見ぬ未来の自分を重ねた。
孤児院で過ごした日々。
母の死、そして修道院での静かな日常。
(全てがもう過去になる。これからは自分で選んだ道を生きる)
そう、決めたのだ。
(私はこの世界に、意志を持って存在する)
だれかのルートに沿って生きるのではなく、ゲームのヒロインとして選ばれるのでもなく。
自分の足で立ち、自分の手で選び、自分の未来を歩く。
カーティスが言う。
「準備は整ってる。あとは彼らが気づくのを待つだけ」
私は静かに、でも力強くうなずいた。
「……私はもう、ただの孤児じゃない。でもヒロインでもない」
首に下げた銀のペンダントが、光を反射した。
これは母が唯一残してくれたもの。
飾りもないただのペンダントでなんの価値もないけれど、原作で軽く触れられた程度の父親とのつながりの証。
きっとそれが、血の物語に火を灯す。
(見てなさい、悪役令嬢──今度は、私がこの世界を動かす番よ)




