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神事

 ヒノクニの王が行う神事は季節や年ごとに数多くあったが、大きく分けて二つに分類される。

 一つは広く国民が見ることができる公開型の一般神事。

 もう一つは王の側近ですら目にすることはない、王ただ一人で行う真神事(まなしんじ)である。

 真神事の目的はこの国の国土安寧と国民の幸せを祈るためのものとされているが、具体的にどのような神事がどのような手順で行われているのか、知る者は少なかった。行われる場所すらも、限られた王府職員にしか明かされないという。

 度々人々の噂話の中で、真神事はそもそも存在しないのではないかと囁かれるほど、謎に包まれた儀式だった。しかし真神事が行われる数日間、王が王宮から一歩も外に姿を見せることがないのは事実である。



◆◆◆



 脚結を飾る小さな玉がぶつかり合う音が、狭い空間の静寂を壊した。

 まるで彫像のように微塵も動かなかった男が、ようやく脚を崩したからだった。

 もうどれほどの時間、このように鏡に向き合っていただろうか。その真円の鏡の表面に曇りはなく、ただ此方を見つめ返す初老の男の顔を映し出していた。

 男は鏡の右側にある器に目を移した。

 器は透明なので、わざわざ覗き込まなくとも、内部を満たす物質の動きがよく見える。波打つそれは液体なのか個体なのか曖昧だが、清らかに透き通り、星屑を散らしたように輝いていた。風も振動もないのに波打ちながら、一本のガラス管のような筋となって、少しずつ器から上部へと立ち昇っていく。


――上手くいったようだ


 男は僅かに眉を下げた。そしてもう一度、鏡に向き直って居住いを正した。


「ふるべゆらゆらとふるべ」


 その男が発した声なのかは、本人すら曖昧だった。

 ただその声に反応するように、透明な器から登っていく光りの柱は、太く長くなっていった。

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