↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い半魚人  作者: 松下真奈
第一章
PR
33/186

幼馴染


◇◇◇



 数時間前。

「あ。ユウキ! 昨日サボったでしょう」

 教室に着くなり、数人の友人たちがユウキを取り囲んだ。

「学校終わったら遊びに行こうって、約束してたじゃん!」

「行けなくなったって連絡しただろ」

「学校まで休むとは聞いてないよ」

 いつものメンバーだった。

 人当たりの良いユウキは友人が多い。その中でも特に親しいのが、幼い頃から付き合いのあるこの四人だった。

 男が二人、女が二人。そしてそのうち一人は、かつて短いあいだ恋人だった相手でもある。先ほどから矢継ぎ早に言葉を投げてくるミツキが、その元恋人だった。

「ね、今日は遊べる? 学校も午前中で終わるし、みんなでどっか行こうって話してたの」

 友人として過ごした時間に比べれば、恋人だった期間はごく短い。

 裏表がなくいつも朗らかな性格は好きだったし、信頼もしている。それでも恋人としては付き合えないと別れを切り出したのは、一年以上前のことだった。

 今も友人としての関係は続いている。ただ、やたらと物理的な距離が近いところだけは、恋人だった頃の癖がまだ抜けていないのか。ユウキは腕に絡んできたミツキの手を、やんわりと外した。

「今日も駄目。用事がある」

「えー」

 不満を隠そうともしないミツキをユウキが手で制すると、男友達二人がさっと二人のあいだへ滑り込んできた。

「ほら、駄目だったろ。ユウキは忙しい奴なんだから」

「諦めろ諦めろ。ほら、あっち行ってな。男同士で話あるから。スズカ、頼める?」

 少し離れたところから心配そうに様子を見ていた女子生徒が、名前を呼ばれて大きく頷いた。飴色の髪を揺らしながら、困り顔のままミツキを引っ張っていく。

「モテるのも大変だな」

 にやにやしながらユウキをつついてきたのは、翡翠色の髪を肩まで伸ばしたハルカだった。

「どうせもうすぐ卒業だ。今より自然と会う時間も減るさ」

 もう一人の男友達、アオイが慰めるように肩を叩いた。濃紺の髪は強くうねり、鳥の巣のようにくるくると盛り上がっている。

「フェードアウト狙うの? 無理無理。ミツキみたいなタイプに、そういうの効かないって。アオイは甘いなぁ」

 ハルカの言葉に、ユウキはため息をついた。

「ミツキのやつ、ユウキが十月卒業だって知ったら、死にものぐるいで単位取りに行ってたもんな。本当はのんびり来年卒業するつもりだったんだろ?」

 ユウキはもう一度、大きく息を吐いた。

 今はできるだけ、優先順位の低い悩みに頭を使いたくなかった。

 考えたいことは、ほかにある。

「ミツキ、結構かわいいけどさ。復縁は考えてないわけ?」

「ハルカ」

 うんざりした顔を向けると、ハルカは楽しそうに口を閉じた。

「考えてるわけないだろ」

「じゃあ、新しい彼女は?」

 今度はアオイだった。

 こちらは面白がっている様子もなく、いたって真面目な顔をしている。余計に始末が悪い。

「ユウキに大切な人ができたら、さすがに諦めるってミツキ言ってたよ。横恋慕は性に合わないって」

「やっぱり諦めてないのかよ」

 ハルカが呆れたように笑った。

「で、どうなんだ、ユウキ?」

 ユウキはまともに答えなかった。

 この話題は、もう何度繰り返したか分からない。友人たちと過ごす時間は好きだったが、こればかりはうんざりしている。

 早く教師が来ればいい。

 抜き打ちテストだろうが何だろうが構わない。

 授業を終えて、早くリリーの家へ向かいたかった。

――ユーコちゃん、魔法使えたのかな

 今頃は、もうリリーのところへ着いているだろう。

 彼女の魔法は、どんな形をして現れるのだろう。あの澄み切った色のない不思議な魔力は、魔法になったとき何色に染まるのだろう。

 もし、自分のよく知っている色だったら。

 そこまで考えて、ユウキの脳裏に夢の中で見た鱗が浮かんだ。



◆◆◆



「……今、なんて?」

 昇降口で背後からかけられた言葉に、ユウキは立ち止まった。

「ついていっていい?」

 振り返ると、ハルカが首を傾げている。

 淡い翡翠色の髪が、さらりと肩を滑った。

「今日は広場の予定もないし、ジロウさんの手伝いもないんだろ?」

「……ないけど」

「遊びに行くんじゃなくてさ。お前の用事に、俺たちも付き合わせろよ」

 ハルカの後ろには、ほかの幼馴染三人もいた。

 それぞれ違う表情でこちらを窺っている。

「昨日も突然休むし、今日はずっとぼけっとしてるし」

 アオイが歩み寄ってきた。

「いつものユウキと違う。どうした? 何かあったんだろ」

「顔に出てた……?」

 思わず聞き返してから、ユウキは口元を手で覆った。

 そのまま何かを考え込む。

 四人は顔を見合わせた。

 手で口元を隠していても分かる。ユウキの表情が、見たこともないほど緩んでいた。

「ちょっとユウキ、どうしたの?」

 ついに耐えきれなくなったミツキが食って掛かり、顔を隠していた手を強引に引き下ろした。

 ユウキは小さく笑い、その手を外しながら告げた。

「あんまり騒ぎ立てない」

「え?」

「質問しすぎない。それを約束してくれるなら、ついてきていいよ」

 許可を出したのに、四人とも腑に落ちない顔をしている。

 それでも、とりあえずユウキの後についてきた。バスに乗り込んだところで、行き先がリリーの家だと告げる。

「今日じゃなくても、いずれお前たちには会わせることになるだろうし」

 ユウキは窓の外へ目を向けた。

「紹介したい人がいるんだ」



◆◆◆



「どうしましょうねえ」

 出来上がった料理と、突然増えた四人の若者を前に、ノマは腕を組んだ。

「今からさらに四人分となると、ちょっとお待たせしてしまいますね。皆さん、お腹減ってますよね?」

 短い時間でたくさん作れる料理は何だろう。

 リリーの家にある食材を思い浮かべながら、ノマは頭の中で献立を組み立てていく。

 真っ先に首と手をぶんぶん振ったのはスズカだった。

「いえいえ! ノマさん、お構いなく。私たち、来る途中で買ってきたので大丈夫ですよ」

 慌てて手提げ鞄からパンの袋を取り出す。

「突然来てしまって、申し訳ないです……」

「そうですか? 皆さん若いんですから、しっかり食べないと駄目ですよ。ちょっと待っていてくださいね。簡単につまめるおかずなら、すぐできますから」

 ノマはにこにこと笑いながら、再び台所へ引き上げていった。

 ユウキと仲の良いこの四人とは、もちろん初対面ではない。今ではすっかり大きくなったが、幼い頃からよくジロウの屋敷へ遊びに来ていたので、ノマとも気心の知れた仲だった。

「ノマさん、ありがとー!」

 ミツキが朗らかな声で背中に礼を言い、友人たちへ向き直った。

「ユウキ遅いね」

「ていうか、俺たち本当についてきちゃったけど、良かったのかな」

 そう言いながら、アオイはあぐらをかいて扇風機の前を占領している。すっかり寛いでいた。風量は強めなのに、鳥の巣のようなくせ毛はほとんど揺れない。

「今さら言うか。それに、本当に嫌なときははっきり断るだろ。あいつは」

 四人の中で、ユウキと最も付き合いの長いハルカが答えた。

「でも、なんだか……いつもと違ったよね」

 スズカが心配そうに言った。

「紹介したい人って、誰だろう?」

 ミツキが呟く。

 その表情が、ほんの少し曇った。

「…………もしかして、恋人?」

「だったらお前、今後はもうちょっとユウキへの接し方改めろよ?」

 アオイに言われ、ミツキは頬を膨らませた。

「まだそうと決まったわけじゃないでしょ」

 手櫛で髪を梳く。

 湿気を吸った髪は、いつもより重たかった。

 それが今の自分の気分まで表しているようで、ミツキはなんとなく落ち着かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。