いとこたち
「もしもし望美ちゃん?」
終業式とホームルームが終わった。
友人たちと別れ校門へと歩を進める侑子は、叔母に電話をかけていた。
「今日そっちで晩御飯たべてもいいかな。お兄ちゃん遅くなるんだって。あ、連絡きてた? そっか、じゃあお願いします。いつもありがとう」
朔也は既に連絡を寄越していたようだ。望美はいつものように快く侑子を受け入れてくれる。
「うん。一度家に帰るよ。夕方に行こうかな……はーい。また家出るときに連絡するね。それじゃ」
朝の計画通り、あみぐるみを仕上げてから賢一の家に向かおうと考えていた。侑子はいつもの足取りで帰ってくる。
しかし公園の花壇が見える位置まで来ると、自然と歩幅は狭くなり、終いには足が止まった。
花壇の端に寄せてあった雑草の山は、午前中のうちに片付けられたのだろう。きれいになくなっていた。自分でも気づかないほどに小さくほっと息をついて、侑子はゆっくりと玄関へ向かったのだった。
◆◆◆
「ゆうちゃん何時ごろ来るって?」
愛佳は昼食の焼きそばを頬張りながら、母にたずねた。大きな瞳がキラキラ輝いている。楽しみが待っている時の彼女の表情だった。
一つ年上の侑子とは、とても気が合った。友達はたくさんいるけれど、侑子ほど一緒にいて楽しい女の子は他にいない。従姉妹というより、親友だと思っている。
市内の小中学校は、明日から夏休みだ。
侑子と遊べる時間が増えると思うと嬉しくて、それが終業式の今日からと聞いたら、待ち遠しくて仕方ない。何をして遊ぼうか。
「夕方って言ってたわ。こら遼! 食べながら漫画読まない!」
子供達のコップに麦茶を注ぎながら、望美は長男の遼を叱る。
「ほーい」
間延びした返事をする兄の隣で、愛佳の双子の弟、蓮は黙々と箸を進めていた。
「そうだあんたたち、後でゆうちゃん来たら、遊ぶ前に一緒に宿題しちゃったら?」
母の突然の提案に、遼と愛佳は「えー!」と不満げな声をあげる。
「まだ夏休みじゃないのに!」
「先にやったっていいじゃない。その分減るんだから。それにゆうちゃんに教えてもらえたら、助かるでしょ」
「何で年下に教えてもらわなきゃならないんだよ」
「ゆうちゃんは兄ちゃんより、頭良いと思うな」
「何だと蓮!」
「ちょっとぉ。お兄ちゃんお茶こぼしたー!」
高橋家の食卓は賑やかだ。騒々しいと言うべきだろうが、望美はそんな子供達の様子を眺めるのが好きだった。そして姪っ子にも、この輪のなかに入っていて欲しいと思う。
大人しくてしっかりしているように見えるし、実際に同じ年頃の子供よりも、達観してしまっているところはある。家庭環境がそうさせた部分もあるのだろう。だからこそ、自分たちの前でくらいは子供でいてほしい。
「そうだ。夜に花火でもやろうか」
望美は楽しい提案をした。子供たちから歓声が上がったのは、言うまでもない。
◆◆◆
昼食が多すぎたのだ。
朔也は遅くなると言っていた。おそらくデートだ。夕食はどこかで済ませてくるだろう。
冷蔵庫の中の残り物を、無駄にしたくない一心で消費した。胃の要領ぎりぎりの量を食べると、眠くなるものだ。ソファの上で、少しだけ寛ぐつもりだったのだ。
――ぐっすり眠っちゃったなぁ
「あ……もうこんな時間」
結局あみぐるみには何も手をつけないまま、すっかり夕方になっていた。日はまだ落ちていないが、大分低くなっている。
制服も着替えていない。
――とりあえず部屋に戻ろう
スマートフォンを手に取ると、ちょうど数分前に望美からメッセージが入っていた。
『そろそろ来る?』
という内容だった。
『今から着替えたら出ます』
そう返信して、スマートフォンはテーブルに置いたまま、二階の自室に向かった。
◆◆◆
「着替えたら来るって」
返信を確認した望美は、侑子が来るのを今か今かと待っている娘を見て、可笑しそうに笑った。
「なんだ。制服から着替えてすらなかったのか。結構ずぼらだな」
俺ですらもう着替えてるのに、とどこか得意げな遼を、蓮は不思議そうに見つめた。
「ゆうちゃんは兄ちゃんみたいに無駄に動かないから、あんまり汗もかかないんだと思うよ」
「蓮、おまえなー」
「あ! お父さん、お帰り!」
賢一が帰ってきた。
望美が時計を見ると、午後六時を回ったところだった。
「今日ゆうちゃん来るんだって? まだ来てないの?」
帰りがけに寄ったのだろう。賢一はコンビニ袋からアイスを取り出している。
「さっきもう出るって連絡きてたから、そろそろだと思うんだけど」
「途中まで迎えに行ってやるか」
仕事着のまま、賢一は再び外へ出た。侑子の家までは徒歩で二十分ほど。その後を、「私も行く!」と愛佳が追い、「俺、花火買いに行く」と遼も続いた。
湿気を含んだ夏の夕方の空気が、肌にまとわりつく。
今夜も熱帯夜になりそうだな、と賢一は思った。




