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青い半魚人  作者: 松下真名
第三章
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204/206

月の船 星の林 

「ユウキ、休まないの?」

 テントから顔を出したアミに声をかけられる。

「灯り消しちゃうけど」

「いいよ、先に休んでて。もう少し起きてる」

「早めに寝ろよ」

「ああ」

 灯りが消え、辺りは真っ暗な闇に沈んだ。

 やがて目が暗闇に慣れてくると、頭上に賑やかな細かい星々がまたたいているのが見えた。月明かりに照らされ、木々の影やテントの輪郭も浮かび上がっている。

「半月か」

 上弦の月だった。

 空に浮かぶ半月を眺めているうちに、ユウキの頭に一首の歌が浮かんだ。

「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」

 自然と口をついて出た歌は、これまで何度も詠んだことがあった。多くは噴水広場での曲芸の場で、派手に着飾った姿で唱えてきた。

 侑子が手紙にこの歌を書いて送ってきたこともあった。向こうの世界にも存在したと、嬉しそうに報告してくる彼女の顔が思い浮かんだものだ。

 天の川は文字通り、乳白色の川のように夜空を横切っている。その傍らに浮かぶ半月を眺めていると、本当に天の海を進む船のように見えてきた。

「星の林とは、よく言ったものだな」

 大小様々な幾多の星が埋め尽くす夜空は、人の手が入らぬ木々が鬱蒼と茂る森のようだ。今まさにユウキが佇んでいる場所そのものではないか。

「歌の景色とそっくりだ」

 語りかけは、歌に宿るとされる精霊に向けてのものだ。

 本当に精霊が存在するなんて、ユウキはあまり意識したことはなかった。ただのおまじないだと思う一方で、いつも小さな希望として拠り所にしていた気もする。

「あの子に会わせてくれ」

 歌の中に表現された世界とそっくりの景色が、ユウキの頭上に広がっている。

 精霊は喜んでいるだろうか。

 もし機嫌が良いのなら、願いを叶えてほしかった。切実なのだ。

 ユウキは無意識に力を込めていた指を、そっと開いた。

 手の中から現れたのは、白い小さなクマだった。深い闇の中でも、月明かりでぼんやりと輪郭が分かる。首元には細かな青い硝子の鱗が並んでいた。

 侑子がクリスマスプレゼントとして手紙に入れて送ってきた、小型のあみぐるみだった。彼女が編んだものの中では最小のものだ。

 このクマだけは動かない。

 侑子が元の世界に帰った後に作られたものだからだ。魔法のないトコヨノクニでは、侑子はあみぐるみに命を吹き込むことができない。

「会いに行くよ」

 手の中に横たわる小さなクマに向かって、ユウキは呟いた。

「俺たちはまた、出会えるはずだ」

 『言霊』と口にした侑子の顔が浮かんだ。彼女が時折使う、異世界のまじないだった。

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