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青い半魚人  作者: 松下真名
第三章
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メムの里

 里と呼ぶより、小規模なキャンプサイトのようだというのが、侑子の第一印象だった。

 ヤヒコとヤチヨが『メムの里』と呼んだその場所は、山間のわずかな平地を切り開いて作られていた。大型のテントと小型テントが数張りずつ、円陣を組むように設置され、いくつかのテントの間にはタープが張られている。

「もうそろそろ移動の時期なんだよ」

 侑子を乗せた背負子を降ろしながら、ヤヒコが里を見渡した。

「先に出た連中が、これの二倍くらい。俺たちは大きな集団で固まって移動しないんだ。いくつかに分かれて別々の道を進みながら、決まった拠点でまた落ち合う」

 ヤチヨが固定ベルトを外してくれたので、侑子はようやく自由になった。

 ところが立ち上がった途端、豪快によろけてヤチヨにしがみついてしまった。身体のあちこちが筋肉痛のように痛む。

 ヤヒコが笑った。

「だから言っただろ。あんまり力を入れてると、あとで辛いって」

 笑いながらも腕を取り、ヤチヨと二人で侑子を支えてくれる。

 三人でテントの輪の中心まで進むと、人の声がした。

「おかえりなさい!」

「お父さん、おかえり」

 出てきたのは一人の女性と、数人の子供たちだった。

 子供たちの言葉に、侑子は密かに驚いた。

――お父さん?

 ヤヒコと自分は、それほど年齢が離れていないように見える。それなのに、もうこんなに大きな子供がいるらしい。

 そういえばヤチヨも実年齢よりかなり幼く見える。兄のヤヒコも、見た目より年上なのかもしれない。

「はじめまして」

 痩身の女性が前へ進み出た。艶のある黒髪を後頭部で結い上げ、切れ長の瞳を細めて笑っている。

「はじめまして。五十嵐侑子です。ヤヒコさんとヤチヨちゃんに助けてもらいました」

「まあ。そんなふうに思ってもらえて良かった。怖がらせてるんじゃないかって、気が気じゃなかったんだから」

 女性は笑ってヤヒコの肩を軽く叩いた。

「ほら、この人ちょっと怖い顔してるでしょ」

 ヤチヨまで楽しそうに笑う。

「一仕事終えてきた夫に向かって、好き放題言うなあ。……ユウコ、紹介する。妻のキノルだ」

 続いて四人の子供たちを紹介された。一番上が十歳のコル。その下に九歳のミサキ、七歳の双子のスサとノハ。

「今ここにいるのは、あとは長(おさ)だけよ」

 キノルの言葉に、侑子は辺りを見回した。

「大人の男の人は、ヤヒコさんだけなんですね」

「昨日まではほかの男たちもいたんだけどね。先に出発したの。すぐ次の拠点で合流できるし、今日にはあなたがここへ着くって連絡もあったから」

「連絡?」

 侑子は首を傾げた。

 ここまでの道中、兄妹が誰かと通信している姿は見ていない。そもそも二人は透証を持っていなかった。

 ヤチヨが侑子の肘をつついた。

(ケモノに頼んだ)

「獣?」

 ヤチヨは口をすぼめ、細い口笛を吹いた。耳を澄まさなければ聞き逃しそうな音だった。

 その直後、木々の間から一羽の野鳥が飛来し、ヤチヨの肩へ降り立った。

「えっ」

(これは鳥。ゆうべ、ユウコがねてる間にケモノに伝書を預けた。夜目がきくから)

「俺たちの連絡手段の一つさ。メムは動物と仲良くなるのが得意なんだ」

 ヤヒコの説明を聞きながら、侑子は野鳥を見つめた。一声鳴くと、鳥は再び木々の向こうへ飛んでいく。

「すごい……」

「チヨちゃんはいっとう上手いんだよ!」

「どんな獣でも、チヨちゃんの言うこと聞くよ」

 スサとノハが競うように言った。

 ヤチヨは少し照れたように笑っている。

「さっき、長だけ残ってるって言ってましたけど、その人もここで一緒に暮らしてるんですか?」

「そうよ。今はね」

 キノルが一つのテントへ目を向けた。

「女の人だから、ユウコも話しやすいと思うわ」

「女性なんですか?」

 長という言葉から、勝手に老齢の男性を想像していた。

「メムの長ってのは流動的なものなんだよ」

 ヤヒコが説明した。

「市街地で暮らすメムもいるし、この生活は体力がいる。移動生活を続けている者の中で、昔からのことをよく知っている人間が、その時々で長を務めるのさ」

(名前はラン。優しい人。会ってほしい)

 ヤチヨが首を傾げる。

「うん。お願いします」

 侑子は迷わず頷いた。

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