交信
ユウキが『家』と呼ぶ古い蔵にあるのは、布団と机、数着の服を掛けるハンガーラック。そして、あみぐるみたちを詰め込んだ行李だった。
風呂はジロウの家で済ませることがほとんどで、昨夜のように誰かの家で借りることもある。
そんな殺風景な部屋に、一つだけ、ここ最近のヒノクニではあまり見かけなくなった設備があった。
魔石ソケットだ。
蔵は二階建てになっている。震災後、ここに住むと決めたユウキは、中に放置されていた農具や古道具を運び出し、最低限の居住空間を作った。
それと同時に確保したのが、二階の一角だった。
自分で配線を引き、ソケットを設置した。魔石もできる限り自力で補給している。
以前に比べれば魔力の回復は格段に遅い。自由に使える量など、ほんのわずかしかなかった。
それでもユウキは、自分の使える魔力のほとんどを、この場所で使う魔石へ注ぎ込んでいた。
目的は一つしかない。
――もう一度、トコヨノクニと交信するため
侑子との文通を可能にしていた屋根裏は、二年前の震災で瓦礫になった。
絶たれた唯一のつながりを、もう一度結び直したかった。だからユウキは、失われた屋根裏をできる限り再現したのだ。
エイマンからエノコログサの話を聞いていた。同じ敷地内なら、まだ希望があるのではないか。
根拠と呼べるほどのものではない。
それでも唯一無事だった蔵の二階に設備を整え、そこへ手紙を置き続けた。
二年間、一日も欠かさず。
一度として、手紙は消えなかった。
それでも諦めることはできなかった。——手紙を置くのをやめてしまった時、自分の中で何かが完全に死んでしまう気がしたから。
◆◆◆
「ユーコちゃん。さっきスズカに会ったよ。相変わらず悪阻がキツそうだ。日に日に痩せていくけど、本当に大丈夫なのかな……。ジロウさんとも会った。今日は夕飯を一緒に食べることになったよ」
今日の手紙に書くことを口の中で唱えながら、ユウキは蔵へ向かって歩いていた。
いつものことだ。
傍から見れば、誰もいないところへ話しかける変人にしか見えないだろう。
それは自分でも分かっている。
それでも、やめられなかった。
もう届かないかもしれない相手に、今日あったことを話す。
スズカのこと。ジロウのこと。変身館のこと。
そうしている間だけは、侑子が今もどこかで自分の言葉を待っているような気がした。
――正気なんて、とっくに失ってる
自嘲しながら、それでも今日も語りかける。
そうすることでユウキは、どうにか地に足をつけていられた。
だから蔵の扉を開け、そこにあるはずのないものが目に入っても、すぐには動けなかった。
願い続けたせいで、とうとう幻覚まで見るようになったのだと思った。——それにしては、ずいぶんと珍妙な幻覚だったけれど。
ぼんやりと立ち尽くすユウキの耳元で、不意に音が弾けた。
肩に、柔らかな重みが落ちてくる。
「ピィ! プゥ!!」
やけに間の抜けた音だった。
そして、ひどく懐かしく、愛しい音だった。




