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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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トコヨノクニ――猿轡

――これは猿轡(さるぐつわ)だ

 侑子が常日頃から思っていることだ。

 口元をすっぽり覆う、大きな布。運よく手に入った時だけ、その布が不織布に変わる。

 一般的にはマスクと呼ばれるそれは、感染症対策のための道具であると同時に、侑子にとっては声を封じる猿轡でもあった。思いきり歌う自由さえ奪う、文字どおりの口枷(くちかせ)だった。


 非日常の中を泳いでいる。

 大きな波は起きない。それでも、いつか飲み込まれてしまうかもしれないと怯えながら、ただひたすら息継ぎを続けなければならない。


 通学しなくなり、出された課題に取り組むだけの毎日。友人たちとは頻繁にメッセージを交わし、通話もする。愛佳に会うことも、従兄弟や叔父叔母と顔を合わせることもあった。時にはギターを弾き、声をひそめて歌を口ずさむ。

 しかし、何かが満たされない。

 侑子も、先の見えない非日常に、少しずつ疲弊していった。


 春とは名ばかりの、色のない日。それは、何の前触れもなく起こった。

 

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