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青い半魚人  作者: 松下真奈
第二章
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ヒノクニ――崩壊

 その日は雲ひとつない快晴で、桜が満開だった。心地よい陽気に誘われた人々は、午前中の早い時間から花見をするべく庭先に集まっていた。

「いい日ねえ。青空に桜が映えて、とってもきれい」

 空を仰いだミツキの顔に、花の隙間から差し込む光が踊るように揺れた。

 ジロウの屋敷の庭には、桜の大木が植わっていた。彼の一族が代々手入れをしてきた老木で、毎年見事な花景色を見せてくれる。

「去年の開花は、長雨に重なっちゃったもんね。今年は絶好のお花見日和になってよかった」

 スズカがピクニックシートの上に据えた卓袱台に料理を並べていく。彼女の横で配膳を手伝っているのは、夫となったばかりのサクヤだった。

「料理はあらかた運び終わったか?」

 大きな酒瓶を抱えたハルカとアオイを従えて、ジロウが屋敷から出てきた。

「モモちゃん、これはお酒だからね。まだ早いな。今、お茶を持ってきてあげる」

 酒瓶に興味を持っているらしいモモカを、ひょいっと抱き上げたのは紡久だった。

 最近ハイハイで自在に移動することを覚えたモモカは、片時も目が離せない。酒瓶が並ぶシートから離れた場所へ運ぶと、紡久は彼女に大きなクマのあみぐるみを見せた。手足を動かしてみせると、モモカの注意はすっかりそちらへ向く。まだ乳歯すら生えていない柔らかな口を開け、無邪気な声で笑った。

「ツムグくんったら、すっかりモモカの扱いが上手になってる。生まれたばかりの時なんて、抱っこすら怖がっていたのに」

 おかしそうにリリーが笑った。

「モモカは彼の声が好きなんだよ、きっと。ツムグくんは誰よりも早く泣き止ませることができるんだ」

「父親の面目丸つぶれね」

「全くだ」

 エイマンが仰々しく肩をすくめる様子を見て、みんなが笑った。場の雰囲気が一段と和やかなものになる。

「ユウキさんが見当たりませんね」

 飲み物を注いで回っていたノマが、庭を見渡して呟いた。

「ああ。朝一でこっちに来てから、もう一度家に帰ったんだ。ユーコちゃんへの手紙を預けたら、すぐに出してきてやるって。あいつのことだから、自分の分も書いてるんだろ。そろそろ戻ってくるさ」

 乾杯はまだだというのに、ジロウはすでに手に持ったカップから酒をすすっていた。透証(とうしょう)を確認すると、ユウキに手紙を預けてから一時間が過ぎようとしている。

「ジロウさん! 腹減った! 先に食べてようぜ。ユウキは文句いわねぇよ」

「賛成ー」

 アオイとハルカから空腹を訴える声が上がり、ジロウとノマは顔を見合わせて笑った。確かに空腹だった。朝食をろくに摂らずに、みんなで準備をしていたのだ。

「そうだな。じゃあ先に始めてるか」

「みんなグラス持ってる?」

「ジロウさん、乾杯の音頭ねー」

「よし、じゃあ皆さん。準備はよろしいか。えー、本日はお日柄もよく……」

 ジロウがおどけた声を出し始めた時だった。


 モモカが突然火がついたように泣き出したのと、地の底から響く不可解な低音に数人が気づいたのは、ほぼ同時だった。


 ジロウの掲げかけた杯は、そのまま宙で止まった。

 

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